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いまじゃ 殺れ 信長を  作者: 水無月はたち
一の巻『影武者』
2/6

第2話 上様の、御随意のままに


 その機会がついに訪れた。天正3年(1575年)10月。信長と石山本願寺が和睦に同意した。

 信長は城の廓で伴の者と宴を開いた。芸達者な者たちを集め、猿楽や能、歌舞伎を演じさせた。そこには遊女も呼ばれた。

 衣茅はその宴に紛れ込んだのだ。遊女としてではなく歌舞伎踊子として。

 宴も(たけなわ)。酔った信長は席を立ち、奥座敷へ引っ込んだ。伴の者が気遣い遊女を連れて寝室へ往く。

 が、信長はそれを拒んだ。どこの馬の骨ともわからぬ者を閨に入れることへ警戒があった。また酔いが思いの外、疲労を増幅させていた。

 さて、警戒されたその寝室に難なく忍び込み、香り良き無花果(いちじく)を運んできたのが衣茅であった。無花果は飲酒のあとで食すと酔いが残らないとされていた。

 衣茅は無花果を信長の枕元に置いた。

 信長が目を覚ます。

「無花果か」

「はい、お過ごしになられたご様子でしたので、召し上がられるとよきとのことでござります」

「さっきの踊り子であるな」

 信長は覚えていた。

「予に何用じゃ」

 衣茅は答えなかった。

 その代わり黒揚羽(くろあげは)から分泌された体液と自分の尿を混ぜた溶液を床に撒き散らした。男性の色情を掻き立てる媚薬であった。

 衣茅は自分の体を供物に戦国の覇王を仕留めるつもりだった。

(全裸になれ! さ、早く)

 蟋蟀の声が急かす。衣茅の鼓膜に微かに届く。

 衣茅は襦袢を脱ぎ信長の前に裸体のまま平伏した。

「・・・」

 信長の鋭い視線が衣茅の撫で肩を刺す。

「何のつもりだ?」

 衣茅がわずかに顔を上げる。

「上様の、御随意のままに」


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