第18話 特別の間にご案内いたしまする
信長の使者としてやって来た小寺孝高に村重は会わず、古参の家臣を応対に当たらせた。
「殿がそなたと二人だけで語り合いたいと仰せじゃ」
こう偽り孝高だけ饗応の場に誘い込んだ。残された伴の者は別の間に案内され皆斬殺された。
孝高が案内された饗応の間には主と客人の座が二つ設けられていた。その客座、床に細工が施され、軒下の閂を外せば床板が開き座ごと下に落ちる仕掛けであった。
「小寺殿、さあこちらへ」
古参の家臣が孝高を客座に導く。孝高が座に着く。
それを天井から見ていた小太郎が蟋蟀の声を発する。
(いまじゃ!)
床下の衣茅が閂を外す。
“かたんっ”
床板が抜ける。孝高が軒下へ堕ちる。そこに大きな網が待ち構えている。網の口を衣茅が閉じる。孝高の体が網の中にすっぽりと包まれる。
(そうれ、こちらへ!)
小太郎の合図に衣茅が縄の口に結ばれた小刀を天井に投げる。小刀は天井の太い梁に突き刺さった。小太郎が素早く小刀を抜き縄を梁に通して天井から飛び降りる。その縄に衣茅も飛びつく。すると網にかかった孝高の体が軒下からぐんぐん持ち上げられ、ちょうど梁にぶら下がる形で中空に浮いた。
忍び装束の二人を目の当たりにした孝高はここでようやく悟った。
(さては忍びの仕業であったか・・・)
小太郎が網の中の孝高に話しかける。
「悪く思わんでくだされ小寺殿。これも天下泰平のため」
孝高は涼しい目で小太郎を見た。その目に衣茅は思った。
(やはり只の武者ではない)
小太郎が言った。
「これより貴殿を特別の間にご案内いたしまする」
小太郎と衣茅は網の上から孝高を縄でぐるぐるに縛り上げ動けぬようにしてから、大小の佩刀を奪い外の郭まで運んだ。