第17話 諜報の限りを極めてきた伊賀忍者
「会うと見せかけ小寺殿だけ饗応の場に誘い、牢に入れなされ。従者はその場で斬り捨てればよろしい」
「生け捕りせよと?」
「左様。ただし士卒の預かりではなく、郭下に罪人を入れる土牢がござりましたな。そこに手足縛ったまま放り込まれるがよろしいかと」
「大小佩く武士にその扱いは無礼千万であろう」
小猿は冷笑する。
「入牢すれば丸腰でござる。大小など関係ありませぬ」
「武士の情けというものもある。追い返せばよいではないか」
小猿が問う。
「何ゆえ、殿は謀反を起こされたのでござるか?」
問われて村重は胸の内の答えを覆い隠す。悟られまいと。しかし小猿は知っていた。
「知行目当てでござりますか?」
「な、何ゆえそれを?」
「お顔に出ておられまする」
慌てる村重。小猿は村重の真意を抉る。
「毛利と内通する顕如からの書状に書かれてござりましたな。毛利に庇護された室町将軍が殿の知行を約束すると」
青ざめる村重。顕如からの起請文は誰にも見せていない。確かにそこには信長を倒せば、京を追われた室町将軍、足利義昭が村重に新たな知行国を約束すると書かれていた。
村重はこの失脚した将軍と毛利に賭けてみることにした。信長を倒せば、いま以上の地位が約束されている。それこそが村重謀反の理由だった。
観念したのか村重は、
「恐れ入った。そちは如何にしてそこまで知り尽くせる?」
素直に吐露した。
小猿は笑みを浮かべ言った。
「それが諜報の限りを極めてきた我ら伊賀忍者でござりまする」
光秀から有能な忍者を預けると言われた意味がいまようやくわかった。伊賀忍者を味方につけておけば信長に勝てる。村重はそう思った。
「相分かった。そちの申すとおり孝高を土牢に封じ込めよう。して、いつまで放り込んでおけばよい?」
人質ならばせいぜい十日、長くてひと月。
「小寺殿の野心と悪しき奸謀が潰えるまで」
「はっきり申せ!」
小猿は表情を変えず言った。
「不具になるまで飼っておきなされ」