第16話 伊賀忍者の極意は心読みでござりまする
夜更け。村重は寝所に小猿を入れた。急ぎ申し上げたきことありと襖越し囁かれたからである。枕元に安置した大刀を引き寄せ村重は問うた。
「何ごとぞ?」
小猿は言った。
「小寺孝高殿がこちらへ向こうておりまする」
村重は表情を緩める。
「何のことかと思えば、そのようなことか。存じておる」
「殿に翻意を促しに」
「わかっておるわい」
「お会いにならぬほうがよいかと」
「旧知の仲じゃ、話だけは聞こうと思うとる」
「その旧知に悪しき奸謀がござりまする」
「悪しき奸謀?」
小猿は声を潜めて言った。
「殿のお命狙っておりまする」
「孝高が? まさか」
「そのまさかに乗ずる男でござりまする。油断されぬ方がよろしかろうと」
「あやつのこと知らぬくせに、何ゆえそこまで言い切れる?」
「伊賀忍者の極意は心読みでござりまする。流言、発話、呟き、囁き、挙措、視線、呼吸、あらゆる顕現を拾い集め相手の心を読みまする。小寺殿の心もすべて読みましてござりまする」
「心を読むだと? 忍びの言うことは信じられぬ。そちの方こそ儂の命を狙っているのではあるまいの?」
村重が小猿を睨みつける。
小猿は笑った。
「左様、そのくらいお疑いになられた方がよろしい」
村重には小猿の考えていることが謀りかねた。しかしいま頼るべくは信長を倒せる忍者である。それが伊賀忍者であろうと甲賀忍者であろうと。
「そちを信じよう。騙されるならばそれは儂の力量じゃ」
村重は哄笑した。
「して、孝高を如何すればよい?」