第14話 何ゆえ、信長の首を取りたい?
「光秀が謀反を?」
孫大夫が頷く。
「村重に加担してみせるものの、裏では信長を嗾け明智の娘を殺させる。これが小猿の真の目的かと」
丹波が目を細める。
「そこまで深謀しておったのか、小猿は」
有岡城に到着した小猿は早速村重に謁見している。
「そちが明智殿の申しておった忍びか?」
「なんなりとお申し付けくだされませ」
小猿は膝をついて村重を見上げた。
「日の本一の忍びと申しておった」
村重を翻意させられなかったため、光秀は代わりに優れた伊賀忍者を寄越すと約束した。
「畏れおおきお言葉」
「伊賀忍者は甲賀忍者と違い信ずるに足るとも」
「それは誠でござります」
「心の内は明かさぬが本望は変えぬと」
「仰せの通り」
「ならば聞くが、伊賀忍者の本望とは何か?」
小猿は僅かに顔を上げ村重を見た。
「信長の首でござりまする」
「何ゆえ、信長の首を取りたい?」
「神仏怖れず、天下の安寧を乱しておるからでござりまする」
比叡山焼き討ち、石山本願寺との抗争を言っているのだと村重は思った。
「そちは一向宗か?」
村重は一向宗石山本願寺との対信長共闘を望んでいる。よって一向宗には理解がある。しかし返ってきたのは期待した言葉ではなかった。
「日の本は元来が天子様の国でござりまする。一向宗のものでも源平、足利、織田のものでもござらぬ」
眉を潜める村重。
「そちは尊王か」
小猿は小さく首を振る。
「ただの忍びでござりまする」
村重は笑った。
「よいよい。目的は同じじゃ。信長の首を取ることには変わらぬ。共に天下安寧のため闘おうぞ、のう」
畏って小猿は頭を垂れた。