第12話 光秀とも通じておるようでござりますな
信長暗殺失敗の報せを持ち帰ったのは小猿と同じく伊賀忍術十一名人の野村孫太夫。
百地丹波は孫大夫に訊ねた。
「して、小猿は如何した?」
孫太夫は言った。
「暫くは戻らぬかと」
「何処へ?」
「摂津へ」
「摂津?」
「信長を倒すため」
「村重か?」
丹波は察した。信長はあの相撲大会の後、謀反を起こした摂津の大名、荒木村重を討伐せんがため、摂津の有岡城へ向かった。
これを追って小猿も有岡城へ向かったのだと。
「しかし何ゆえ、また村重に?」
丹波としては信長に反旗を翻す勢力と手を結びたいところではあったが、如何せん村重と信長の力の差は余りにも歴然であった。
「小猿はどうやら光秀とも通じておるようでござりますな」
「明智と?」
丹波の眉が上がる。
村重謀反を耳にした信長は諫めの使者として明智光秀を有岡城に派遣している。光秀の長女、倫が村重の嫡男、荒木村次の妻であったからである。
孫太夫は言った。
「明智は美濃土岐源氏の庶子と申しておりますが、怪しいものでござります。小猿曰く、光秀とは美濃の地侍の時分からの旧知で、一時、光秀自身も忍びの技を小猿から学んだことがあるとのこと」
「誠か?」
「恐らく」
「それで道理がいった。小猿が何ゆえ村重に加担するのか。息子の仇討ちだけでは大義に乏しい。定めし明智から金子を受け取っておるのであろう。娘を助けてくれと」