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9.【一方勇者パーティーは(2)】

「がぁっ! クソッ! 頭いてぇ!」

「ガハ……ハハッ……! ……ぐう……俺もだ……」

「だから止めたのに。もうじき女王に会うんですから、二日酔いのみっともない姿なんて見せられませんよ?」

「うるせぇ! 飲まずにやってられっか! それに、あんなババアなんか知ったこっちゃねーんだよ!」


 リュウを勇者パーティーから追放し、直後にマイカに脱退された翌日。


 勇者アキラ、戦士タイガ、そして弓使いトモユキは、王城へ向かって歩いていた。


「ゾロゾロと邪魔だな、アイツら」


 この異世界唯一の宗教である〝光輝こうき教〟の教団関係者たちが、中央通りを歩いているのが目に入る。


 太陽を神格化して崇めている宗教で、彼らの衣装は、白地に金の刺繍で神をイメージしたデザインが為されている。


「駄目ですよ、彼らを敵に回しちゃ」

「チッ!」


 喧嘩でも売ってやろうかとガンつけていたら、トモユキに釘を刺された。


 宗教の力は恐ろしい。

 それは、異世界召喚される前の世界においても、度々流れるニュースで実感せざるを得ないものだった。


 話を戻すと、B級ダンジョンから何とか生還したアキラたちは、道具屋でハイポーションを購入して傷を治した後、酒場へと行き、二軒目、三軒目と梯子して、二人が泥酔、トモユキは介抱する羽目になった。


 そして本日は、週に一回の女王への報告の日だ(遠征時は例外)。


 面倒くさいことこの上なかったが、この一年間、一度も欠かしたことは無い。

 それは、順風満帆だったからだ。

 

 F級ダンジョンから始まり、E、D、Cと、何の問題もなく攻略して来た。

 B級ダンジョンも既に他の場所で攻略済みで、女王に報告する度にドヤ顔をすることが出来た。


 だが、今日は違う。

 パーティーメンバーが二人足りないことを、必ず突っ込まれる。


「二人は今日は体調不良ってことで、誤魔化せねぇか?」

「来週も再来週も、それで逃げ切れると思いますか?」

「くっ」


 やっぱり正直に言うしかねぇのか……


 アキラは、今から行わなければならない行為の面倒臭さにげんなりした。


 それにしても、あの追放したクソガキはどうでも良いが、マイカが抜けた穴がでか過ぎる。

 

 クソガキが死んでくれていれば多少はスッキリするが、救出に向かったマイカがもし間に合っていたら、攻防どちらも高レベルでこなすマイカの力から考えて、あのクソガキも生きてるだろうしな。


「ああもう! 全部あのクソガキのせいだ! ……ぐぁっ!」


 二日酔いによる頭痛に、再びアキラは小さく悲鳴を上げた。


※―※―※


 王城最上階にある謁見の間にて。

 床も壁も鮮やかな赤色を基調とし、そこに金色の精緻な意匠が施されている。


 ケッ! 何度見ても無駄に派手な見た目だな。

 まぁ、それは良いんだけどよ。これなんとかなんねぇのかよ?


 この部屋は、女王が肌をケアしたいからと言って、魔導加湿器で湿度を高めてるらしい。

 そのせいで、基本的にカラッとしている王都内で、ここだけムワッとしているのだ。


「何故リュウとマイカがおらぬのじゃ?」


 片膝をつき思考していたアキラと仲間たちの眼前――数段ある階段の先にある玉座に座るのは、ミスティ・フォン・ロドリアス。ロドリアス王国女王だ。


 煌びやかな衣装を身に纏い頭上にティアラを戴く彼女は、アキラたちに対する労いもそこそこに、早速痛いところを突いて来た。


 クソババアが! 俺様は勇者だぞ! 世界の命運を握ってんだぞ!

 もっと労えよ!


 アキラは、彼女が嫌いだった。


 横柄であるところ、そして良い歳にもかかわらず、リュウのことを可愛いと褒めちぎっていたことも無論あるが、それだけではない。


 ドジっ娘なのだ。その結果、何かしら問題を起こすことが多い。


 中年のドジっ娘とか、どこに需要があるんだよ!?


 今日は何事もなく済めば良いが……


「聞いておるのか?」

「あ、はい! その……実は、二人は昨日、パーティーを脱退しました。リュウは、『自分は力不足で、みんなの足を引っ張ってしまうのが申し訳ないから』と。そしてマイカは、『そんなリュウをきちんとサポートしてあげられなかった。メンバーの脱退という事態を招いてしまった責任を取って辞めたい』と言って。もちろん引き留めましたが、二人の意思は固く……。申し訳ありません」


 よし、完璧だ!

 嘘をつく時は、真実を織り交ぜろってな。


 昨日ってのは事実だし、リュウの次にマイカってのも本当だ。

 癪だが、リュウが原因でマイカが辞めたってのもその通りだしな。


 これで上手く誤魔化すことが出来――


 ブー


 ……え? ブー?


 音の発生した方に視線を向けると、玉座の横に腰くらいの高さの縦に細長い台座があり、金属の箱に魔石が嵌め込まれた魔導具らしきものが乗っている。赤色だった魔石が、少しすると青色になった。


「これは、発話者が嘘をついているかどうかを見破る魔導具じゃ。嘘をつくと、色が青から赤に変わり、音が鳴るのじゃ。どうやら其方は、嘘をついておるようじゃのう?」

「!」


 嘘発見器じゃねぇか!

 ふざけんなよ!


「おい、どうするんだよ……?」

「ヤバくないですか……? 嘘をついて侮辱罪で処刑とか、勘弁してくださいよ!」


 アキラの左右で、青褪めた仲間たちが焦り、囁く。


 クソッ! うるせぇ! 黙ってろ!


「えっと、その……申し訳ありませんでした。記憶違いでした。リュウは、『自分はパーティーを抜けて一人でトレーニングをしたいから』と言って、脱退を――」


 ブー


「……ではなくて、『パーティーの雰囲気に馴染めないから』と言って、抜けて――」


 ブー


「……もとい、『度重なる戦闘で無理をし過ぎて、最近体調不良だったので、しばらく療養したい』と言って――」


 ブー


「嘘を重ねるとは。わらわを侮辱しておるのか?」


 左右にずらっと並んだ近衛兵たちが、その手に持った槍を傾け、一斉にこちらに向ける。


「ま、待って下さい!」


 背中を汗が伝う。

 もう、本当のことを言うしかない。


「その……リュウを追放したんです。足手まといだからと言って。そしたら、マイカが、『リュウがいないならパーティーに残る意味は無い』って言って、脱退したんです」


 ………………

 ………………

 ………………


「……どうやら、今回は本当のようじゃのう」


 額の汗を拭う。


 クソッ! 何で俺様がこんな目に!

 

「其方がリュウを追放した場所は、どこじゃ?」

「B級ダンジョン……の最下層です。マイカが脱退したのは、その直後でした」

「其方らは、その後、三人でダンジョンから戻って来たと?」

「はい、その通りです」

「『リュウは足手まといだから追放した』とのことじゃったが、然すれば、リュウがいなくなった後の帰路は、さぞかし楽だったじゃろうな」

「はい、仰る通り、往路よりも楽でした」


 ブー


「……ではなくて、確かに往路よりも苦労はしましたが、それは、マイカが抜けたからです。攻撃と防御の魔法を操る彼女の存在は大きかったので」

「では、リュウがいなくなったことで苦労したことは何もなかったのじゃな?」

「はい、何もありませんでした」


 ブー


「くっ! ……リュウが召喚していたドラゴンという生き物が担っていた荷物持ち、索敵、罠の発見が出来なくなったことで、窮地に陥りました。また、いつもよりもモンスターたちの動きが良く、積極的に攻撃して来たため、もしかしたら、リュウが唱えていた『ドラゴンは敵のモンスターを怖がらせて動きを鈍らせる』という主張は、合っていたのかもしれません。ただ、ドラゴンがパーティー全体の幸運値が上げていたという彼の言葉だけは、俄かには信じ難いのですが、こちらの攻撃は当たらず、どういう訳か敵の攻撃はよく当たっていたため、それすらも彼が正しかった可能性があります」


 ………………

 ………………

 ………………


「そんな逸材を、其方は追放したと?」

「………………はい。ですが、聞いて下さい! それまでずっと彼が足手まといだったことは確か――」

「黙れ! 見苦しい!」

「!」

「先刻、其方はリュウがいなくなったことでダンジョン攻略の帰路で苦戦したと認め、彼が如何に有能であったかを自分で説いたばかりじゃろうが!」

「………………」


 女王の喝に、場内が静まり返る。


「何か申し開きはあるかのう?」

「…………いえ、ありません。申し訳ありませんでした」

「少なからず失望したが、其方らが魔王討伐の切り札である勇者パーティーであることもまた事実。名誉挽回の機会を与えるのじゃ」


 女王が右を向くと、傍に控えていた兵が地図を広げて見せた。


「知っての通り、四ヶ国の神官が同時に魔王復活の御告げを受けた。そして、各国の端に突如一本ずつ現れた塔を攻略し、そこに陣取る幹部を倒すことで、四ヶ国の中心に位置する毒汚染地域に、魔王城が現れるということも。其方らも、そろそろ力が付いてきた頃合。となれば、まずは、我がロドリアス王国東端にある塔を攻略し、敵の幹部を一人討伐せよ。そのために、リュウとマイカを連れ戻すか、もしくは彼らに匹敵する優秀な冒険者を仲間に入れるのじゃ」


 千年前から存在しているとかいう、あの毒エリアか。


「……承知いたしました」


 女王は「うむ」と頷くと、「それにしても、我ながら、この魔導具は本当に便利じゃのう」と立ち上がって、傍に置いてある噓発見器に触れようとした。


 瞬間。


「!」


 足がもつれた女王は盛大にこけそうになり、勢い余って階段の上から、両手を広げ跳躍。


「あっ」

「ぼべばっ!」


 膝蹴りがアキラの顔面に突き刺さった。

 ドジっ娘の本領発揮だ。


 吹っ飛び、一回転して地面に落ちた彼は、立ち上がると。


「ぶっ殺す! このクソバ――」


 蟀谷に青筋を立て目を血走らせるアキラだったが、近衛兵たちの槍の穂先が全方位から自分に突き付けられていることに気付くと、剣の柄に当てた手を離し、再度片膝をついた。


 女王が、鼻血を垂らすアキラを見下ろす。


「これは失礼をしたのじゃ。して、今妾に向かって何か申したかのう?」

「! ……その……それは……」

「まぁ良い。では、塔攻略に励むことじゃ。そうそう。そう言えば、塔の近くにあるズイポ村が、侵食する毒に呑み込まれようとしているのじゃが、なかなか避難しようとしなくてのう。ついでに、彼らも王都に避難させて欲しいのじゃ。では、良い報告を期待しておるぞ」

「……はい」


 ぷるぷると怒りを必死に抑えながら、アキラはその場をやり過ごした。


※―※―※


「ああもう! あのクソババア! ふざけやがって! ぜってぇぶっ殺す!」

「飲み過ぎですよ」

「うるせえ! こんなん飲まずにやってられっか! おい、そこの女! もう一杯持って来い! うっ! ……せっかく止まった鼻血がまた……くそがああああああああああああ!」


 その日の夜もまた飲み過ぎたアキラたちは、翌日、更に酷い二日酔いに苦しむのだった。

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