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40.「vs勇者」

 人間を……殺す……!?


「さぁ、行くのじゃ!」

「「「ギギッ!」」」


 蜘蛛の下半身で跳躍したアキラさん、タイガさん、トモユキさんが、それぞれの得物で僕らに攻撃を仕掛ける。


「アキラさん! しっかりして下さい!」


 上段から振り下ろされた聖剣の一撃をショートソードで受け止めながら呼び掛けるも、反応は無い。


「『プロテクト』! 『サンダーブレード』!」

「ククッ。甘いのじゃ。妾がその程度でやられると思うてか?」


 僕らに防御魔法を掛けつつマイカさんが雷刃を飛ばすが、魔王は魔法で防御、弾き飛ばす。


「「「ギギッ!」」」

「アキラさん!」

「コイツら、殺しちゃ駄目なのかい?」

「正直、屠殺処分しても何の問題もない方々ですわ。ですが、リュウさまが躊躇っている間は、私たちも殺すべきではありませんわ」

「チッ! 面倒な男どもだね!」


 トモユキさんとタイガさんの矢と大剣を、エルアさんとウルムルさんが大斧と棍棒で防ぐ。


「どうしたのじゃ、リュウよ? 其方はこの者たちに散々嫌がらせを受けていたのであろう? 復讐する好機じゃぞ?」

「くっ!」


 相手はLV200。以前とは比べ物にならないほど強くなっている。


 手加減していたら、こっちが全滅する!

 僕の大切な仲間たちが、死んでしまう!


 そうだ、もう彼らはモンスターに変えられてしまったんだ!

 もう人間じゃないんだ!


「やるしかないんだ!」


 僕は殺す覚悟を決めた。


「……クソ……ガ……キ……」

「!」


 が、聖剣を薙ぎ払いながら零れたアキラさんの声は、僕の殺意を霧散させるに十分だった。


 駄目だ……やっぱり、アキラさんだ……

 モンスターなんかじゃない……


 打ち下ろし、そこから逆袈裟斬り、そして袈裟斬り、刺突と次々と繰り出される攻撃を受け流しながら、僕は思考する。


 殺さずに無力化する方法が、何かないか?


 と、その時、思い至った。


「そうだ!」


 ドラゴンだ!


 ドラゴン召喚士なのに、魔王の正体とアキラさんたちの変貌振りに動揺して、彼らの力を借りることを忘れていた。


 打ってつけの子が、少し前に仲間に加わったところだ!


「『召喚サモン! ブロードラゴン! ディテクションドラゴン』!」

「ブロガアアア!」


 ブロードラゴンと、ついでにディテドラも呼び出す。


「ブロドラ! 吹き飛ばして!」

「ブロガ!」


 ブロドラがドラゴンブレスを放つ。


 思った通り、〝風〟のドラゴンブレスだ。


「ドラゴンによる最強風攻撃ね!」

「ハッ! 良いじゃないか!」

「流石はリュウさまですわ!」


 これで、アキラさんたちを吹き飛ばして、壁にぶつけて失神でもさせてくれれば、それ以上戦わなくて済む。


「おい、リュウ! 全然吹っ飛ばないぞ!」


 ……あれ? 思ったより弱い?


「ククッ。どうやら期待外れだったようじゃのう」


 局地的な暴風というイメージを持っていたのに、ちょっと強いかなくらいの風で、これでは吹き飛ばすことなど出来そうにない。アキラさんたちは尚も僕たちに向かって来る。


「ディテガ!」

「え?」


 突如、肩の上に乗るディテドラが感知した内容を教えてくれた。

 

「そういうことだったのか!」


 僕は、再び声を上げた。


「ブロドラ! その調子! そのまま吹き飛ばし続けて!」

「ブロガアアア!」


 ブロドラが三人に向かって攻撃を続ける。

 

 ブロドラが吐くのは〝風〟のドラゴンブレスだ。


 しかし、それはただの〝風〟にあらず。


 〝任意の相手〟に届いたそれが吹き飛ばすのは、本人の身体ではなくて。


「がああッ!」

「うううッ!」

「ぐああッ!」

「何じゃと!?」


 彼らにまとわりつく〝他者の魔力〟だ。


 アキラさんたちを変化させていた魔王の魔力は、全て剥ぎ取られて。


「……ここ……は……? ……俺様……は……一体……何を……?」

「……ガハ……ハッ……何だ……これ……?」

「……何が……起き……たの……です……か……?」


 人間の体へと戻り、正気を取り戻した。


「……クソ……ガキ……? ……まさか……俺様を……助けた……のか……?」


 倒れている彼らを一瞥した僕は。


「ブロドラ!」

「ブロガ!」


 ブロドラに頼んで。


「おぼばっ!」

「ぶがべっ!」

「ばじゃごっ!」


 邪魔なので、憔悴し切ったアキラさんたちを後方へと放り投げてもらった。


「これで、残るはお前だけだ!」

「ハッ! もう人質作戦は終わりかい?」

「観念するのですわ!」


 武器を構える僕たちに、魔王は不敵な笑みを浮かべる。


「まさかそんな方法で切り抜けるとはのう。褒美に、どうして妾が異世界召喚など行い、魔王討伐を依頼したのか、教えてやるのじゃ」


 魔王は立ち上がると、言葉を継ぐ。


「この一年間ずっと監視させてもらっておったが」

「!」

「教皇の魔導具で読み取った歴史と彼奴の推測は当たっておるのじゃ。千年前、忌々しい勇者のせいで妾はドラゴンを失った。しかも、概念すらも消失したことで、一体何を喪失したのかすら、妾には分からなかった。しかし、千年掛けて、ようやく思い出したのじゃ。そこで妾は、復活と同時に女王に成り代わり、異世界召喚を行うことにした。ドラゴン召喚の力を得て転移して来るであろう者を呼び寄せるために。潜在能力によっては、異世界召喚時に固有スキルを得ることが出来るという世界の理を利用してのう。ドラゴンへの愛が最も強い人間を選んだのじゃ」


 滔々と語る魔王は、マイカさんを一瞥した。


「他に召喚した者たちは、其方が強くなるために必要だったのじゃ」

「僕を強くするために?」

「そうじゃ。其方には強くなってもらわないと困るからのう。嫌がらせを行う者たち、即ち乗り越えるべき壁として、ここと同じくドラゴンが存在しない世界から呼んだのじゃ。ただ、乗り越える前に潰れて自殺でもされては敵わんからのう。精神的支えとなれる者も一人だけ召喚した。そして、其方の能力を強化するために、貴重な〝魔力量アップの薬〟も大量に分け与えたのじゃ」


 魔王が、僕を指差す。


「リュウよ。全ては、其方が有するドラゴンの力を、其方ごと手に入れるためじゃ」


 その言葉に、マイカさんが僕の後ろから声を上げた。


「精神操作しようってことね! 残念だけど、それは無理よ! 闘気を使っている間、リュウ君はあなたのLVを凌駕するから!」

「ほう。流石は賢者。よく学んでおるのう。確かに、LVが下の者しか操れんからのう」


 LV500の魔王に対して、通常の僕はLV450だけど、闘気発動中はLV675まで跳ね上がる。


「そうだ! 今だったら、僕は十分以上闘気を使い続けられる!」


 その間に倒せば良いんだ!


「それは困ったのう……強くなった其方を手に入れるつもりが、強化し過ぎたかのう。また〝ミス〟してしまったかのう……」


 悩まし気に俯き、首を横に振る魔王。

 

「終わりだ!」

「殺された人たちの仇、討たせてもらうわ!」

「ハッ! どうやらここまでみたいだね!」

「覚悟するのですわ!」


 だが。


「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

「「「「!?」」」」


 魔王の哄笑が、謁見の間に響いた。


「勇者たちが精神操作されたのは、何故かのう?」

「それは、レベルが低かったからだ」

「そうじゃのう。じゃが、腐っても異世界召喚された者たちじゃ。この世界の常識には当てはまらぬ可能性もある。油断は出来ん。そこで、一年間掛けて、下準備をしたのじゃ」

「下準備?」

「そうじゃ」


 魔王は、再びマイカさんに目を向ける。


「賢者よ。召喚された五人の中で、其方と他の四人の違いは何じゃ? この一年間、決定的に違うことがあったじゃろうて」

「この一年?」


 マイカさんは、「精神操作に関連があって……精神操作をしやすくするためのもの……。……もの……? 道具……? 」と、思考を重ねると。


 何かに思い当り、僕を見て叫んだ。


「リュウ君! 今すぐ武器を捨てて!」

「!」


 僕は、慌ててショートソードを投げ捨てるが。


「無駄じゃ。この一年間、武器を通して、時間をたっぷり掛けてじわじわと、身体の芯まで妾の魔力を注ぎ込んでやったからのう」

「……うっ! あ……! あああ! うああああああああああああ!」


 割れるような痛みが頭を襲ったかと思うと、僕の全身を、どす黒い魔力が包み込む。

 角、牙、黒翼が生え、爪が猛禽類のように変化。


 ……意識が……

 ……遠のいて……いく……

 ……抗え……な……い……


「……人間……殺す……」

「これで、リュウとドラゴンは全て、妾のものになったのじゃ」

「いやああああああああああああああ!」


 薄れ行く意識の中で、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

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