4.「S級のお宝(ボス討伐報酬)」
「宝箱よ、リュウ君! ボス討伐報酬よ!」
「あ、本当ですね!」
広場の最奥に目を向けると、ゴーレムが出現した魔法陣が消えて、代わりに宝箱が出現していた。
「じゃあ、いつも通り、ラクドラを呼びますね。『召喚! ラックドラゴン』!」
「ラクガアアア!」
「いつもの子ね!」
虹色のラクドラが出現。
これで、宝箱に罠があったら教えてくれるから、安心して開けられる。
まぁ、ボス討伐報酬だから無いとは思うけど、念のために。
「って、え!? パワドラちゃんがまだいるのに!?」
「ふっふっふ~。召喚LVが5になったので、一度に召喚出来るドラゴンが二体に増えたんです!」
「リュウ君、すごいじゃない!」
「ありがとうございます!」
格好良いドラゴンを二体同時に見られるなんて、なんて幸せなんだろう!
「開けますよ!」
「う、うん!」
マイカさんが固唾を呑んで見守る中、僕は宝箱を開けた。
「……指輪?」
「わぁ! 綺麗!」
中に入っていたのは、緋色の指輪だった。
「って、ちょっと待って! それって、まさか――」
「《空間転移指輪》という指輪みたいです」
「やっぱり!」
指輪を手に取り、視界に映る文字を読み上げた僕に、マイカさんが目を見開く。
「それ、本来はB級ダンジョンにあるような物じゃないのよ! A級どころか、S級レベルよ!」
「そうなんですか?」
「王都コルニストンの国立図書館の書物に書いてあったから、間違いないわ! でも、何でB級ダンジョンに、こんな物があるのかしら……?」
あまりピンと来なかったが、どうやらすごいお宝らしい。
それにしても、真面目なマイカさんは、「賢者って言うからには、賢くなきゃ!」と、本当にものすごく勉強熱心なんだよなぁ。
すごいな~って思うし、尊敬する。
ドラゴンとはまた別の格好良さがあるなって思うよ。
「ちなみに、《パーティー全体》で、《行き先はランダム》だそうです。ランダムかぁ。もしも「ランダムだけど気にしない!」って言ったら、格好良いですよね! ドラゴンだったら、きっとそう言いますし! 使っちゃいましょうか!?」
「ダメ! 絶対ダメよ! 危ないでしょ!」
「そうですか……残念です……」
ワクワクしながら問う僕に、何故か青褪めるマイカさん。
絶対格好良いと思うんだけどなぁ。
「取り敢えずは指に嵌めておいたらどうかしら? 革袋に入れておくにもあまりにも小さくて失くしちゃいそうだし」
「そうですね……あれ?」
「どうしたの?」
「指輪が小さ過ぎて、どの指にも嵌まらないんです……」
悪戦苦闘する僕の手を見たマイカさんが、原因を指摘した。
「リュウ君、手が少し大きくなってない?」
「え? 本当ですか? 言われてみれば、確かに……」
「指も太くなっているし! 急激にレベルアップしたのが理由かもしれないわね」
どうせなら、手よりも身体が大きくなって欲しかったな。
「僕は嵌められないので、マイカさんにあげます」
「ええ、私!? ……ありがとう……」
何故か動揺しつつ指輪を受け取ったマイカさんが、俯き、おずおずと指に嵌める。
「他の指だと大きさが合わなくて、ここしか無かったわ……」
左手の薬指に嵌め、上目遣いで見つめるマイカさんに、僕は笑みを浮かべる。
「すごく似合っていますよ、マイカさん!」
「! ……リュウ君……これって……もしかして、そういうこと……?」
「え? そういうことって?」
「な、何でもないわ!」
顔を真っ赤にするマイカさんに、僕は首を傾げた。
※―※―※
帰路は、特に問題なく進めた(いつも通りラクドラが僕の隣にいるけど、パワドラは身体が大き過ぎるので姿を消してもらっており、代わりにスピードドラゴンに出て来てもらっている)。
「『身体強化』! たあああああ!」
「モ゛……オ゛ッ……!」
ショートソードが一閃、ミノタウロスの首が落ちる。
「女王さまにもらったこの剣、さすが伝説の武器ですね! 切れ味抜群です!」
「武器の性能もあるけど、リュウ君がすごいのよ!」
「何言ってるんですか? ドラゴンの強さに比べたら、僕なんて全然ですよ! でも、お気遣いありがとうございます!」
「えっと、気遣った訳じゃないんだけど……」
マイカさんは優しいから僕に気を遣ってくれるけど、僕がどうしようもなく弱いっていうのは、自分自身が一番良く分かってる。
まぁ、新たに覚えたLV 5の『身体強化』で、パワーとスピードが少しアップしたのと、伝説の武器のおかげで、何とか少しは戦闘がマシなったかなって感じはするけどね。
「プギイイイイ!」
「『硬化』!」
「プ、プギ!?」
「たあああああ!」
「……プ……ギィ……」
あと、試しに、同じく覚えたてのLV 5『硬化』で、恐ろしい膂力を持つオークによる棍棒の一撃を頭に受けてみたけど、ダメージは無かった。
「リュウ君、大丈夫?」
「はい、何ともないです! ラクドラのおかげですね! 打ち所が良かったみたいです。幸運値が高くなるって、すごいですね! 僕みたいな弱いのでも、オークの攻撃を耐えることが出来るんですから。さすがラクドラです!」
「えっと、確かにラクドラちゃんの存在は大きいとは思うけど、あの一撃を頭に受けて無傷なのよね? 打ち所がどうとかそういうレベルの話じゃないと思うんだけど……」
いつでも回復魔法を使えるようにと魔法の杖を構えていたマイカさんは、肩透かしを食らったみたいだ。
ちなみに、僕やアキラさんたちの武器と違って、マイカさんの魔法の杖は、唯一彼女自身がお金を貯めて買ったものだ。
異世界召喚された時に女王さまが伝説の武器の一つである魔法の杖をくれようとした際に、「まだ私は伝説の武器に相応しくないので、相応の力量を獲得した際にお願いいたします」と言って固辞したんだ。格好良かったなぁ!
まぁ、僕は〝伝説の武器〟って響きが気に入って、即貰って喜んでいたんだけど。
アキラさんたち三人は、貰えるのが当然って顔して受け取ってた。
※―※―※
ダンジョンの入口まであと半分ほど、という地点まで戻ってきた頃。
「弱い僕が全部自分で戦うよりかは、やっぱりドラゴンに戦ってもらった方が良いよなぁ。非戦闘タイプのラクドラはともかく、僕が倒しちゃったら、スピドラの格好良いところを全然見れないし……あ、そうか! 弱いモンスターは僕らが片付けて、ボスもしくは一番強そうなモンスターを、ドラゴンに任せれば良いのか!」
俯きながら歩き、今後の戦い方を僕がブツブツと思案していると。
「ラクガ!」
「リュウ君! 来るわよ!」
ラクドラとマイカさんの声に反応した僕は、反射的に抜剣。
「たあああああ!」
「あ、待って! 私が――」
見上げる程の巨体を誇るビッググリーンスライムを、斬り伏せた。
パーン
「あ」
「きゃああああ!」
ビッググリーンスライムの中身が四方八方に弾け飛ぶ。
二人とも、緑色のジェルで全身がドロドロになってしまった。
「すいません……」
「き、気にしなくて良いのよ……リュウ君はモンスターを倒しただけだもの……」
マイカさんはそう言ってくれるが、今のは完全に僕のミスだ。
ビッググリーンスライムは、本来は炎でその全身を包むようにして倒すべきモンスターだ。そうすれば、綺麗に倒せるから。
毒はない……ものの、シンプルに不快極まりない。
マイカさんは革袋から布を取り出して全身を拭いているが、ジェルの量が多過ぎて、ほとんど意味がない。
「水魔法――は、難しいですよね……」
「そうね……残念だけど……」
雷魔法を得意とするマイカさんは、他にも色々な属性の魔法を使える。
が、実は水魔法が苦手だ。
ただでさえ弱い僕が、こんなミスをしちゃうだなんて。
どうにかして、挽回出来ないだろうか?
「あ! そうだ! 今こそ、その指輪を使う時じゃないでしょうか!」
「え? 空間転移指輪を? でも、行き先はランダムなのよ? 大空に投げ出されたり水中だったり地中だったりしたら、死んじゃうわ!」
「大丈夫です! 僕らにはラクドラがいるじゃないですか!」
「あ。幸運値が高くなってるから大丈夫、ってことね!」
「はい! だから、即死コースは回避出来ます! それどころか、僕らが今望んでいる水辺に行けますよきっと! 湖とか池とかに!」
「そっか……それなら、少しは安心かも!」
マイカさんが納得してくれたようで良かった。
「スピドラ、ありがとうね。戻っておいてもらえる?」
「スピガ!」
飛んだ先が狭いところという可能性もあるし、スピドラには姿を消してもらった。
「じゃあ、行くわよ!」
「はい、お願いします!」
少し緊張した面持ちでマイカさんが指輪に触れつつ、唱える。
「『空間転移』!」
僕らの足下に魔法陣が展開され、空間転移した。
次の瞬間、僕らは大森林の中にいた。
何かを目的とした広場だろうか。少し開けた場所だ。
そして。
「死ねええええええええ!」
「「!?」」
突如現れたワイルドで美しいエルフ女性が、しかしその整った顔を歪めて、巨大な斧をマイカさんに向かって振り下ろした。
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