37.【一方勇者パーティーは(7)】
「くそっ! これも全部、あのクソガキのせいだ!」
〝寝込みを襲いリュウを人質にして女たちを強姦する計画〟が失敗したアキラたちは、翌日、スピドラによってボコボコにされた傷をパーティーの治癒師に治してもらおうとしたのだが。
「なんで怪我したの?」
「……モンスターと戦ったからだ」
「ふ~ん。で、どこで戦ったの?」
「……それは……別に良いだろ、んなことは! さっさと治せよ!」
「嫌よ」
「はぁ!?」
「何かやましいことがあるから言えないんでしょ?」
「……そ、そんなはずねぇだろうが!」
「昨夜から今朝までの間に怪我するって、どうせ酔っ払って凄腕冒険者にでも喧嘩売って返り討ちにあったってとこでしょ」
「んなことする訳ねぇだろうが!」
「駄目よ。そんなことのために魔力の無駄遣いしてらんないわ」
このビッチ、ぶっ殺す!
聖剣の柄に手を掛けるアキラだったが、「殺しちゃ駄目ですよ、リーダー!」と、トモユキが囁きながら腕を掴み制止したことで、暴発寸前だった怒りを何とか抑え込んだ。
「あのクソガキが、トカゲなんて使って護衛させやがったせいで!」
結局、貴重なハイポーションを使って傷を治したアキラたちは、ダンジョン攻略のためにまた新たに回復薬を買い足す必要が生じて、益々金欠に陥り、レストランで肉料理も食べられず、苛立ちながらサラダを食べる羽目になった。
※―※―※
「だぁ! またハイポーションかよ!」
「ガハハハッ! 確かに大したものは置いてないな!」
馬車で一日掛けてファーリップ皇国西端にある東塔へ行ったアキラたちは、そのまま東塔を攻略した。
最上階のボス部屋にはゴーレムが五匹がおり、何とかギリギリ勝利、苦労して入手した宝箱の中身は、南塔と同じものだった。
「このまま……は、流石に無理か」
アキラ含め、全員が体力の限界だったので、西に見える毒汚染地域から少し離れた場所で野営した。
※―※―※
「次は北だ!」
翌日からは、途中で野営を挟みつつ、三日かけてホワイトシュレイ共和国へと向かった。
「……やっと国境を越えた……」
流石に疲労の色が濃かったが。
「あのクソガキにだけは絶対負けねぇ!」
塔攻略だけはリュウに負けたくなかったので、直接北塔へと向かった。
ちなみに、冒険者ギルドに行ってもどうせ情報が伝わっていて冷たくされるだろうということと、前の国では王に謁見してもいいことがなかったので、という理由もあった。
野営続きだったため、女性陣は「ベッドで寝たい!」「レストランでご飯食べたい!」「ゆっくり休みたい!」とブーブー文句を言っていたが、「あと一個だろうが! 我慢しろ!」と、アキラが強引に進めた。
※―※―※
「うおおおおおお!」
北塔に到着したアキラは、鬼気迫る勢いでモンスターを倒していった。
これが最後の塔だ、やってやる!
「よっしゃあああああああああ!」
無事に攻略を終えた。
一つ目の時に比べると、所要時間も大分短くなっている。
「相変わらずハイポーションか……まぁ、良い」
最上階ボス部屋にてサイクロプス五匹を討伐、最奥にある宝箱に入っていた物は予想通りだったが、最後の塔攻略を達成し高揚感に包まれたアキラは、特に気分を害することもなかった。
「レベルアップもしたからよ! 俺様は最強だぜ!」
アキラがLV85、タイガがLV82、トモユキがLV80、女性陣はLV64~70となった。
男性陣は全員S級の実力となり、女性陣ももう少しで手が届く、というところまで来た。
※―※―※
ボス部屋にあった魔法陣で入口まで空間転移したアキラたちが目にしたのは、南にある毒汚染地域の中心に出現した、漆黒の城だった。
中心部までは十キロも離れているため、ここから視認出来るということは、かなり巨大な建造物であることは間違いない。
「出やがったな! 魔王城! このまま行くぞ!」
「え~!?」
「本気で言ってるの?」
「嫌よ」
「休みたいわ」
「ごちゃごちゃうるせーな! 行くったら行くんだよ!」
ここでもアキラは強行した。
客観的に考えれば、一度休んで態勢を立て直した方が得策ではあったはずだが、富・地位・名誉・女と、全ての点でリュウに圧倒的な差をつけられたアキラは、少しでも挽回しようと焦っていた。
「ぐぁっ! 防御魔法効いてねぇじゃないか! ちゃんと掛けろよ!」
「掛けてるわよ! 『プロテクト』が無きゃ、あんたとっくに毒で死んでるわよ!」
「くそっ! 早く解毒しろ!」
「やってるわよ! でも、解毒してもまたすぐ毒に侵されちゃうんだから、キリがないわよ!」
毒汚染地域を進む彼らは、強力な毒に苦しめられていた。
あと半分という辺りで馬が二頭とも動かなくなってしまい、仕方がないので、歩いて進む。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……やっと着いたぜ……」
息も絶え絶えになりながら、城へと到達。
治癒師の魔法により、全員解毒した。
どうやら城の敷地内は毒の影響がそれ程無いようで、防御魔法もきちんと効果を発揮している。
「このまま魔王戦とか無茶よ!」
「もう魔力が残り少ないわ!」
「うるせー! ここまで来て今更引き返せるかよ!」
聞く耳を持たないアキラは、重厚な扉に手を掛けた。
「ここまで本当に長かったぜ」
ざまぁ見ろ、クソガキ!
魔王を倒すのは、勇者であるこの俺様だ!
「首を洗って待っていやがれ! 魔王!」
満を持して扉を開けた。
直後。
ポンッ
「…………………………へ?」
魔王城が跡形もなく消え去った。
あれ程苦しめられた周囲の毒も、綺麗さっぱり消えている。
呆気に取られるアキラの真上から、ひらひらと何かが落ちてきた。
それは、一枚の羊皮紙で、こう書かれていた。
〝ハズレ〟
「……ふざけんなあああああああ! くそがああああああああああああ!」
くしゃくしゃに握り潰しながら咆哮を上げるアキラの声が。
「……アアアアアアアア……オオオ……オ……」
途中から異様に〝低く〟変化。
べちゃっ
何かが落ちた。
何だこれ?
それは、口から噴出した大量の体液だった。
ボゴッ
ボゴボゴッ
あれ?
俺様って、こんなにたくさん脚が生えてたっけ?
何か、手もどす黒いし。
腹からケツにかけて、すげー〝張ってる〟感じがするし。
カサカサ
歩く音もなんか違うような。
タイガとトモユキも、あんな見た目だったっけ?
「「「「きゃあああああああああ!」」」」
おい、女ども、なんで逃げるんだ? そんな怯えた表情で。
この長身完璧イケメン勇者の俺様から。
喧嘩売ってんのか! ぶっ殺すぞ!
ちくしょう!
なんで俺様がこんな目に?
そうだ。
これもきっと、あのクソガキのせいだ!
「……クソ……ガ……キ……!」
そこでアキラの思考は途切れた。
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