29.「金欠教皇が生み出すチートアイテム」
「ポイドラ! すごいよ! ありがとう!」
「げぷっ。ポイガ!」
お腹が丸々と膨れたポイドラは、美味かったとばかりに腹を撫で、満足気に笑みを浮かべた。
その吸引力は見事の一言で、大気のみならず、大地、木々、草、動物の死骸、そして湖まで、染み込んでいた毒を全て吸い取り浄化してしまった。
「すごーい!」
「たおしちゃったー!」
子どもたちが飛び跳ねて喜ぶ。
「こ、子どもたちを守って頂きまして、ほ、本当にありがとうございました!」
「いえいえ! 無事で何よりです!」
深々と頭を下げる教皇さんに、エルアさんが噛み付く。
「ハッ! 子どものことを想ってる割には、森ん中の家でガキどもだけで生活させたり、クラーケンが出る湖にガキどもだけで来させたりしてるじゃないか」
「そうよ! そういうのは良くないと思います! この子たちだけにしておくなんて、危な過ぎますから!」
マイカさんからも非難されて、教皇さんが「お、仰る通りです……」と項垂れる。
「だいじょうぶなの!」
「これがあるから!」
「へーきだもん!」
それを聞いた子どもたちが、これ見よがしに指に嵌めた指輪を見せる。
「それって……魔導具? 一体何の……?」
気付かなかったが、彼ら全員が小さな指輪をしていた。
人間の頭蓋骨というデザインで、製作者が誰なのかは一目で見て分かる。
「あ、ああ。そ、それは防御指輪です。え、S級モンスターの攻撃を一回、A級なら十回まで防ぐ効果があります。し、しかも、物理攻撃のみならず、炎などいかなる攻撃でも」
その答えに、僕らは声を揃えて叫んだ。
「「それを売れば良いじゃないですか!」」
「それを売れば良いじゃないか!」
「それを売れば良いじゃないですの!」
「……え?」
子どもを想うあまり万年金欠に陥っている教皇さんは、目をパチクリさせた。
※―※―※
正直、空間転移指輪や〝生み出す君〟は間違いなく高値で売れるだろうと思っていたけど、どちらも機能が規格外過ぎて色々と問題が起こりそうなので、実際に販売するのは難しいだろうなと思っていた。
まぁ、どうやら両方とも運良く生み出せただけらしくて、もう一つ作ってと言われても、どちらにしろ無理みたいだけど。
そんな魔導具作りが趣味という教皇さんだったので、他にもっと売りやすいものを作ってないのかなと思ってたけど、聞くまでもなく見つかっちゃったよ!
作っていると自然とグロテスクなデザインになっちゃうらしくて、デザイン的に国軍は難しいかもしれないけど、冒険者なら、機能が素晴らしければデザインはそんなに気にしないって人は結構いると思うし。
「製作にどのくらい時間が掛かりますか?」
「ひ、一つ目を作る際は慣れていなくて三日掛かりましたが、い、今では一個三分で作れます」
「三分!?」
それなら、一日百個作ることさえ可能だ!
……いや、あんまり多く作り過ぎちゃうと希少価値が無くなっちゃうので、数を絞ってプレミア感を演出しつつ、少しずつ市場に出して、売り切れたらまた次のを少しだけ出して、って感じで、高値で取り引きした方が良いだろうな。
まぁ、そこら辺はまた後で伝えさせてもらうとして。
「あと、コストはどのくらいですか?」
「一個作るのに銀貨一枚です」
「安っ!」
なんと千円!
小売価格金貨二枚と仮定して、金貨一枚で小売店に卸せば、九万九千円の利益!
A級モンスターの攻撃を何度も防げるのみならず、一回だけどS級モンスターの攻撃すら防げるような最上級防御魔法に匹敵するアイテムなら、金貨二枚出して買う人は、絶対にいると思う!
「な、なるほどですね! こ、子どもたちのためにと考えて、趣味で作っていただけですので、販売するなどということは思い付きもしませんでした!」
本当に純粋なんだなぁ。
もしそんなスキルがあれば、「あ、これ、金儲け出来るかも!」って思う人、結構いると思うけど。
「あと、貴族や王族にも需要があるかもしれませんわ。就寝時の自衛用に」
「お、おお! そ、それなら人に見られませんし、素晴らしいアイデアですね!」
ウルムルさんの言葉に、教皇さんが頷く。
確かに、寝込みを襲われても最低一回は攻撃を防げるってなったら、欲しいよね!
ちなみに、A級モンスターに何度か攻撃された後にS級モンスターの攻撃を受けた場合は、完全には防御しきれないらしいけど、それでも十分すごい!
「これで、結構収入が増えると思いますし、これからはちゃんと食べて下さいね!」
「わ、分かりました!」
まぁ、孤児院を更に追加でいくつも作っていけるだけ稼げるかって言われたら、分からないけど。
いずれにしても、モンスターの親玉である魔王を僕たちが倒せば、殺される人も孤児になる子たちも減るし、頑張ろう!
※―※―※
教皇さんの空間転移指輪で、僕たちは全員皇都に戻って来た。
「わーい♪」
「きょーこーさまのいえー♪」
「きょーこーさまといっしょー♪」
「ほ、ほら。も、もう夜遅いですから、騒いではいけませんよ」
「「「「「はーい!」」」」」
もちろん、子どもたちも皆一緒だ。
彼らは、教皇さんの家に住むことになった。
皇帝さまに事情を話せば分かってもらえるだろうし、変な噂が立つこともないだろう。
※―※―※
「よくぞ教皇の秘密を暴いてくれた。礼を言う」
翌朝、僕たちは皇帝さまに謁見した。
「幼子を生贄にして呪術魔導具でクラーケンを生み出しているのかと思えば、食糧を生み出し子どもたちに与えていただけとは。全く、紛らわしいにも程がある」
「……申し訳ございません……」
教皇さんが頭を下げた。
謁見の間に入室した直後、僕たちのように膝をつこうとした彼だったが、「この世界唯一の教団の長がそんなことをするな」と皇帝さまに止められ、ではせめてと、椅子の申し出を固辞して、僕らの横に立っている。
「孤児の支援金の件に関しては、また改めて相談せよ」
「わ、分かりました。あ、ありがとうございます」
「組織運営に関しては、そうだな。俺が帝王学を教えてやろう」
「こ、皇帝さま自らですか!?」
「そうだ。みっちり叩き込んでやる。覚悟しておけ」
「ヒッ! お、お手柔らかにお願いいたします……」
野性味溢れる笑みを浮かべる皇帝さま。
もしかしたら、エルアさんと気が合うかもしれないな。
「リュウ、マイカ、エルア、そしてウルムルよ。教皇の件、改めて感謝する。クラーケンの討伐もだ。更に爆発の危険もあったという魔石も処理し、加えて三大将軍の一人をも討伐したとのこと。誠に見事と言うしかない」
皇帝さまが目配せすると、宰相さんらしき人が僕に革袋を持って来た。
あれ? なんか……デジャブ?
「金貨二千枚だ。受け取るが良い」
「「「「!」」」」
に、二億円!?
ガルティファーソン帝国での一億円でも十分驚いたのに、まさかその二倍!?
受け取った革袋は、ずっしりと重かった。
「こ、こんなにですか!?」
「当然だ。この二年間ずっと懸念であった教皇の件とクラーケンの問題を同時に解決し、魔石の危険も未然に防ぎ、更には魔王軍幹部すら倒したのだ。特にクラーケンは、我が国が生業とする漁業に大打撃を与えてきた由々しき問題だった。この国の経済を救ったと、つまり救国の英雄と言っても過言ではない」
そんな風にべた褒めされると照れ臭いけど、すごく嬉しい!
「無論、褒賞としてこれだけでは不十分だ。お前たちには、一人一人に最高位の爵位を与える」
あ。
そこも被るんだ……
すごくありがたいけど……
「実は、ガルティファーソン帝国で既に爵位を頂いておりまして……あと、ウルムルさんは元々ロドリアス王国の貴族ですし……」
「そうだったか。では、邸宅を与えよう」
またもや被るとは……
いやまぁ、別荘はいくらでもあって困るもんじゃないっていう人もいるかもしれないけど、二つ目は流石に気が引けるかな……既にめっちゃお金貰ってるし……
「えっと……その……実は家も、ガルティファーソン帝国で既に頂いておりまして……」
「なんと。では、要らぬと申すか?」
「………………」
うーん、皇帝さまの顔が強張ってる。ちょっと怖い。
機嫌を損ねたくはないなぁ……
……多分、素直に貰っておいた方が良いんだろうなぁ。でもなぁ……
「皇帝さま。実は、私たちは皆、皇帝さまが治めていらっしゃるこのファーリップ皇国皇都シントルーズの宿が、とても素敵で感銘を受けていたのです。ですので、あと数日間、無料で宿に宿泊する権利を頂けませんでしょうか?」
マイカさん、ナイス! さすが!
こちらから別の代替案を出したんだから、あとはこの要望に対して、許可を頂ければ!
「良いだろう。では、お前たち四人は、今後我が国の高級宿を無料で利用する権利を与える。無論、期限は無い」
無期限!? 永遠に泊まり放題ってこと!? しかも高級宿に!?
「あ、ありがとうございます……」
下手したらこれ、家をもらうよりもお金掛かってそうなんだけど……
ま、まぁ良いか。
ちなみに、ガルティファーソン帝国と同じように、ドラゴンパレードについても、魔王討伐後に皇都で行わせて頂けないかと聞いてみたところ、快諾して下さった。
やった!
ありがとうございます!
※―※―※
「わあああああ!」
「やあああああ!」
「ハッ! 筋が良いじゃないか!」
同日の昼下がり。
僕たちは、教皇さんと子どもたちと共に、あの湖へと再び空間転移して来た。
収入を増やすために、うんうん唸って知恵を絞る教皇さんを見た子どもたちが、「ぼくもおかねかせぐ!」「あたしもがんばる!」と、申し出たからだ。
「や、やってもらうとしたら、商売の手伝いでしょうか? そ、それとも、商品のアイデア出し? そ、それとも売り子とか?」と、戸惑う教皇さんに、僕は、「もし良かったら、彼らが狩猟などを出来るように、僕らが武器の扱い方を教えましょうか?」と申し出た。
そして、今に至る。
今回の戦闘を経てレベルアップしたのは僕だけじゃなくて、ディテドラもだった。
彼は、目の前の人間の持っている才能を見抜くことが出来るようになったので、それによって、孤児たちに生きる術を教えることにした。
【基本ステータス】
LV420
名前 リュウ
年齢 15歳
性別 男
種族 人間
職業 ドラゴン召喚士
状態 ミックスドラゴンブラッド(3種類)
称号 ドラゴンマスター
【スキル】
召喚<LV 9>(※フライドラゴンとブロードラゴンを新たに追加)
硬化<LV 9>(※パッシブ(常時発動型)スキル)
身体強化<LV 9>(※パッシブ(常時発動型)スキル)
闘気<LV 9>
【耐性】
状態異常(麻痺・石化・呪い・毒)
攻撃魔法(炎・土・氷・水・風)
フライドラゴン! とうとう飛ぶドラゴンだ! 楽しみだなぁ!
ブロードラゴンは、風系かな? こっちの子も、会うのが楽しみだ!
ちなみに、マイカさんはLV191、エルアさんはLV171、ウルムルさんはLV165になった。
あと、僕を含めて闘気を使用する三人は、八分ほど持続出来るようになった。
もしかしたら、その内、ゼラグドみたいに十分間発動し続けられるようになるかも!
と、眼前で頑張る子どもたちに改めて意識を向ける。
「たあああああ!」
「だあああああ!」
「うふふ。将来が楽しみですわ」
実は、教皇さんの〝生み出す君〟は、魔力を注入することで、食べ物だけでなく、〝物体〟も創造できるというものだった。
そこで、子ども用の小さな剣・魔法の杖・斧・棍棒を生み出し、僕、マイカさん、エルアさん、ウルムルさんがそれぞれの適性を持った孤児に使い方を教えることにした。
武器を用いて自分たちで動物や魚を捕まえたり、火を起こしたり飲み水を出したりする方法を伝授するのだ。
魔法の適性がある子に氷魔法を教えたマイカさんは、相手の子が「えいっ! 『アイス』!」と、小さな氷を生み出した直後に、「えいっ! 『ウォーター』!」と、水も出せるようになって、「すごいわ!」と、驚嘆しつつ喜んだ。
※―※―※
「な、何から何まで、本当にありがとうございます」
「いえいえ、僕たちも楽しいですし、少しでもあの子たちの力になれているなら、嬉しいです!」
トレーニングの合間。
休憩してみんなでパンを食べながら、僕たちは教皇さんと話をしていた。
「な、何かお礼が出来れば良いのですが……」
「どうぞお気遣いなさらず。大丈夫ですよ」
「う、うーん……な、何か、何か……あ、そ、そうだ! こ、この指輪は、〝読み取る君〟と言うのですが」
教皇さんは、右手に嵌めた、目玉がギョロギョロと動いている指輪を見せた。
「さ、様々なものを読み解ける魔導具なのですが、これを使って、こ、この世界の〝歴史〟を読み解いてみたんですよ」
「〝歴史〟を〝読み解いた〟んですか!?」
相変わらずとんでもないことをする人だ……
「は、はい。そ、それによると……あ、貴方の召喚する〝ドラゴン〟は、大昔は普通に存在していて、し、しかし千年前に、その〝存在〟と〝概念〟すらも、この世界から消された可能性があります」
「!?」
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