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22.「遺言」

 早くラクドラを召喚し直さなきゃ!


 手を翳しながら僕が背後を振り返ると。


「リュウ君、倒したのね!」

「ハッ! 流石だな!」

「うふふ。魔王軍幹部をこうもあっさりと。リュウさまにはいつも驚かされますわ。ちなみに、丁度こちらも片が付いたところですわ」


 千匹のモンスターは全て倒れ、魔法の杖を両手で持ち微笑むマイカさん、大斧を肩に担ぎ不敵な笑みを浮かべるエルアさん、ブンッと片手で振って棍棒についた血を吹き飛ばしつつ、もう片方の手を頬にやり優雅に目を細めるウルムルさんがいた。


「リュウ、なんか一言言ってやれ」


 エルアさんが顎で指し示すのは、ボロボロになりながらも、最後まで戦場に立ち続けた三百人の兵士たち。


「えっと、その……」


 僕は、胸を張ると、声を張り上げた。


「魔王軍幹部、三大将軍の一人であるファルガは倒しました! 僕たちの勝利です!」

「「「「「うおおおおおおおお!」」」」」


 雄叫びを上げ、天に拳を突き上げる男たち。


「勝った! 勝ったんだ!」

「俺たちの勝利だあああああ!」


 抱き合って涙する彼らの姿を見て。


「良かった……」


 ドラゴンの格好良いところを見せるだけじゃなくて、誰かを助けること、誰かの力になること、そして誰かに喜んでもらうことも、すごく意義があって、幸せなことだなと思った。


※―※―※


「ありがとう!」

「あんたたちのお陰だ!」

「いえ、お力になれて良かったです!」


 感極まった兵士たちに握手された僕は、ここぞとばかりに告げた。


「ファルガに勝てたのは、彼ら――ドラゴンのおかげなんです!」

「アイガアアア!」

「ディテガアアア!」


 召喚された彼らに「他にもいたのか、その生き物!」と、目を丸くした兵士たち。


 そういや、みんなドラゴンをモンスターだとは思えないんだよね。

 だから、突如戦場に現れたラクドラのことも攻撃せずにいてくれたんだ。


 モンスターと認識してもらえないのは微妙だなって思っていたけど、今回はそのおかげで変な混乱が起こらなかったし、良かった。


「あんた、召喚士だったんだな! 見たことない生き物だが、強いんだな!」

「ドラゴンって言います! 彼らのおかげで勝てたんです! あと、このラックドラゴンも、補助魔法みたいな効果で皆さんのサポートをしてくれました!」

「ラクガアアア!」


 入れ替えでラクドラも召喚する。


「ドラゴンか! 覚えたぞ!」

「すごいんだな、ドラゴン!」

「やるな、ドラゴン!」


 ふっふっふ~。

 何度味わってもこの瞬間は堪らない!

 ああ、幸せ! 生きていて良かった!


※―※―※


「お前さんたちには、本当に世話になった! 改めて、ありがとよ!」

「いえいえ!」


 北側の城門前で、イガドレさんと握手を交わす。


 別れの挨拶をしようと思ったら、彼は「そう言えば、実は、妙なことがあってな」と、切り出した。


「俺の同僚が、お前さんたちが来る前に複数のハーピーに襲われて殺されたんだが、最期に言い残した言葉があってな。当時、あいつは他の兵士たちを連れ去ったモンスターの集団を屋上から魔導望遠鏡で監視していたんだが、『……南じゃ……なかった……』と言い残して死んだんだ」

「南じゃなかった、ですか?」

「ああ。モンスターの大軍は、南にあるダンジョンからやって来ている。だから、当然兵士を拉致したモンスターたちも南のダンジョンに向かうのかと思ったら、どうやら違ったらしい」

「では、どこへ行ったんでしょうか?」

「さぁ、そいつは分からないがな」


 気にはなったが、別れを告げて、僕たちはスピドラの背に乗って帝都ジェイネードへと戻った。


※―※―※


「まさか、こんなに早く討伐してくるとはな……流石に驚いたぞ……」


 王城謁見の間にて、玉座に座る皇帝さまが目を瞠る。


 朝出掛けていったばかりなのに、その日の夜には魔王軍幹部とモンスター千匹をどちらも倒して帰ってきたのだ。確かに、客観的に見ると、すごいことを成し遂げている気がする。


「頼もしい仲間たちと死力を尽くしてくれた兵士の皆さん、そして何よりドラゴンのおかげです!」


 油断すると立ち上がって胸を張りドヤ顔しそうになっちゃう。駄目だ駄目だ。

 僕は、何とか片膝をついた姿勢を維持する。


 「そうか……」と呟いた皇帝さまは、「褒美を与えよう」と言うと、宰相さんに目配せした。


 宰相さんが、何かがぎっしり詰まった大きめの革袋を僕に差し出すと、皇帝さまが言った。


「金貨千枚だ。受け取るが良い」

「「「「金貨千枚!?」」」」


 受け取ったずっしりとした重みを感じながら、僕は混乱する。


「マ、マイカさん! 金貨千枚って、日本円だとどのくらいですっけ!?」

「えっと、金貨一枚が十万円くらいだから……一億円よ!」

「い、一億!?」


 目を白黒させるマイカさん。

 多分僕も同じ表情をしていると思う。


「こ、こんなに頂いて良いんですか?」

「当然だ。リュウ殿、マイカ殿、エルア殿、ウルムル殿。貴公らは我が国を救ってくれたのだからな」

「あ、ありがとうございます!」


 「ハッ! レンベスが聞いたら、泣いて悔しがりそうだね」と、エルアさんが、世界中を旅することを目標に現在お金を貯めている幼馴染に言及、「皇帝さま。温かい御言葉に身に余る褒賞まで頂きまして誠にありがとうございます。幸甚の極みです」と、ウルムルさんは、優美かつ丁寧に頭を下げた。


「だが、これだけでは足りぬな。何か無いだろうか」


 皇帝さまは、白髭を触りつつ何か思考したかと思うと、顔を上げた。


「よし。リュウ殿。貴公らを我が国の王族にしよう」

「「「「王族!?」」」」


 唖然とする僕らの前で、宰相さんが青褪める。


「皇帝さま、流石にそれは――」

「よいではないか。救国の英雄だぞ?」

「確かにそうですが、王家に加えるとなると、種々様々な問題が生じます故――」


 宰相さんが必死に進言すること数分。


「うむ。分かった。誠に遺憾だが、その折衷案でいこう」

「あ、ありがとうございます、皇帝さま……」


 渋々承諾する皇帝さまに、恭しく一礼する宰相さん。

 安堵の表情を浮かべる彼の額には玉のような汗が浮かび、疲労が全身から滲み出ている。


 大変なお仕事だなぁ……


「では、改めて告げる。リュウ殿、マイカ殿、エルア殿。貴公らに、我が国における公爵の爵位を与えよう」

「公爵! それって……」

「もしかして……」

「ええ、最高位の爵位ですわ」

「「!」」


 僕とマイカさんの問いに、ウルムルさんが静かに答える。

 「ハッ! 良いじゃないか!」と、エルアさんが口角を上げる。


「ウルムル殿。貴公は既にロドリアス王国の貴族だったな」

「はい、仰る通りです。ですので、大変光栄でありがたい御話ではございますが、どうか辞退させて頂きますようお願い申し上げます」

「うむ、分かった」

「深く感謝申し上げます」


 すごい!

 貴族になっちゃった!


 あ、それなら、僕じゃなくてドラゴンを貴族にしてもらえないかな!?

 ……と思ったけど、宰相さんの疲れ切った顔を見て、言うのを止めた。


 もしかしたら皇帝さまはOKして下さるかもしれないけど、その場合、また宰相さんが顔を真っ青にして心労を重ねそうだし……


「尚、本当ならば領土も与えたい所だが、色々と問題があるようなので、せめて貴公ら全員に家を贈呈しようと思うのだが、どうだろうか?」

「全員に!?」


 驚愕した僕は、仲間たちの顔を見る。


「えっと、もし宜しければ、一軒だけ……頂けるとありがたいです」


 一軒だけ、と言いながらパーティーメンバーを一瞥すると、皆が頷いてくれた。


「何とも無欲なことよ。では、一軒のみ与えることとしよう」

「ありがとうございます!」


 皇帝さまは、再び髭を触ると、「それと、これは頼みなのだが」と、再び口を開いた。


「どうか、あと四日間この国に留まり、南部砦防衛に力を貸してくれないだろうか?」

「もちろん良いですが、またモンスターでしょうか?」

「うむ。最初ほどの勢いはなくなったが、今でも一日に百匹程度出てくるのだ。先の戦いで、我が国の軍隊にはかなりの損害が出ており、改めて部隊編成をし、立て直した上で、砦の防衛に向かわせたい」

「そういうことでしたら、喜んで協力させて頂きます!」

「快諾してくれて、感謝する」


 皇帝さまは髭を触りながら、「その分、何か新たな褒美が必要だな。やはり王族に――」「こ、皇帝さま!」と、宰相さんを慌てさせた後で、僕に訊ねる。


「リュウ殿。何か望みはないか?」

「それなら、ドラゴンがすごいって、みんなに知ってもらいたいです!」

「貴公が召喚する例の生き物だな」

「はい! ファルガを倒せたのは、ドラゴンたちのおかげですので!」

「何と」

「ですので、今すぐ――は難しいと思うので、魔王討伐の暁には、この国の人々に、ドラゴンがどれだけ素晴らしいかを知ってもらいたいです!」


 「ふむ」と、髭を触りながら目を瞑った皇帝さまは、目を開けると僕を見た。


「ドラゴンと共に中央通りを練り歩くパレードはどうだろうか? 召喚したドラゴンのおかげで我が国は救われ、魔王も討伐出来たのだと、そこで存分にアピール出来るぞ」

「ドラゴンパレード……!」


 胸の高鳴りを抑え切れない!


「素敵です! 素敵過ぎます! 是非ともお願いします!」

「うむ、分かった。では、南部砦の防衛、任せたぞ」

「はい!」


 こうして僕に、ドラゴンパレードを行うという新たな目標が出来た。

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