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2.「賢者マイカとレベルアップ」

「プギイッ!」

「!」


 咄嗟に左に跳躍、一瞬前まで僕がいた場所に棍棒が振り下ろされ、地面が陥没。


 振り返ると、棍棒の持ち主はオークだった。


 肥満体だが十分に巨漢のモンスターの一撃は、僕に致命傷を与えるのに十分だろう。


「プギイッ!」


 オークが棍棒を振り上げる。


 迎え撃たなきゃ!


 僕は、オークに向けて手を翳す。

 いつもと違って、戦闘用のドラゴンを思い浮かべながら。


「『召喚サモン! パワードラ――』」

「『サンダーブレード』!」


 だけど、それよりも早く雷刃が飛翔、オークの胴体に背後から突き刺さった。


「……プ……ギィ……」


 絶命して倒れたオークを避けながら駆け寄って来たのは、さっき別れたばかりの人物だった。


「大丈夫、リュウ君?」

「マイカさん……助けていただき、ありがとうございます」


 賢者のローブに身を包み、魔法の杖を持った、黒髪ロングの真面目な美少女。


 マイカさんが、「あ……」と、僕を見て何かに気付き、顔を曇らせる。

 慌てて僕は、流れるままにしていた涙を拭った。


 攻撃防御両方の魔法を操る賢者で、勇者パーティーの他メンバーと同じく僕の三つ上――十八歳であるマイカさんは、ただ一人、僕に優しく接してくれた人だ。


「リュウ君、守ってあげられなくて、本当にごめんなさい!」

「え?」


 突然の謝罪。

 頭を下げるマイカさんに、僕は戸惑う。


「なんでマイカさんが謝るんですか?」

「だって、仲間なのに、アイツらがあなたを追放するのを止められなかったから……」


 本当に、すごく優しい人だ。

 そんな風に思ってくれるなんて……


「マイカさんのせいじゃないですよ」

「ううん、アイツらの横暴を許したのは、私の罪よ! 罪滅ぼしと言ってはなんだけど、これからもうあんなことがないように、私がちゃんとあなたを守るから! 二十四時間! 三百六十五日!」

「え!? でも、勇者パーティーはどうするんですか?」

「辞めてきたわ!」

「!?」


 豊かな胸を張る彼女に、唖然とする僕。

 

 こうして、全てを失った僕に仲間が出来た。


※―※―※


「マイカさん、本当にありがとうございます! 追放されてショックだったけど、今はすごく嬉しいです!」

「私も! ………………だって、あなたがいなきゃ、あのパーティーに残る意味なんてないから……」

「え? 今なんて――」

「な、何でもないわ!」


 声が小さかったので聞き返すと、何故か彼女は顔を赤らめる。


「そ、それよりも、リュウ君、早くこんな所から出ましょ! 最下層なんて、長居する場所じゃないわ」


 僕は、俯いて少し考えた。


 せっかく仲間が出来たんだ。

 ドラゴンが活躍するところを、見て欲しい!

 しかも、めちゃくちゃ格好良く大活躍するところを!


「マイカさん。このダンジョンのボスなんですが――」

「そうそう、最下層にはボスがいるのよ! だから、一刻も早く離れて――」

「倒したいです!」

「………………え?」


 鼻息荒い僕を前に、マイカさんは口をあんぐりと開けた。


※―※―※


 そこからの道中は、マイカさんが「任せて!」とモンスターを蹴散らして、宣言通りに僕を守ってくれた。


 オーク、ミノタウロス、ハーピー、そしてサラマンダーたちが、マイカさんが得意とする雷魔法によって屠られていく。


「着いちゃったわね……」


 しばらく進むと、ボス部屋の入口へと辿り着いた。

 見た目は普通だが、中から恐ろしい重圧プレッシャーが迸っている。

 間違いない。


「……本当に行くの? B級ダンジョンでも、ボスだけはA級ですごく強いのが出てくるのよ?」


 僕よりも少し背が高いマイカさんが、心配そうな表情を浮かべる。


「大丈夫です! ドラゴンは最強ですから!」

「あ、待って!」


 僕は、スタスタと入口から中へと入っていった。


 中は、だだっ広い空間となっていた。

 前後左右、それに天井も高い。

 それまでと比べて多少開放感を感じても良さそうなものだが、空気が異様に重いため、むしろ息苦しい。


「「「「「プギイッ!」」」」」


 広場の中央には、棍棒を持った十匹のオーク。


「あら? オークは確かに油断ならない敵だけど、それだけ?」

「いえ、どうやら、ボスは他にいるみたいですよ」

 

 最奥に目を向けると、巨大な光輝く魔法陣が出現。


「ゴーレム!」


 そこからせり上がって来たのは、全身が岩で出来た巨大なモンスターだった。


 まるで岩そのもののように痛みを感じず、それ故に止めを刺すまで動き続けると言われる厄介な敵だ。


「ゴオオオオオオオオオオオオ」


 ゴーレムは、周囲にいるオークが邪魔だったらしく、力自慢の彼らをまるで玩具を扱うかのように、両拳で叩き潰していく。


「仲間を殺すだなんて! 滅茶苦茶だわ!」


 前に歩み出て「でも、ドラゴンなら!」と手を翳す僕に、マイカさんから声が掛かる。


「以前、王城の書庫にある書物に記されていたんだけど、ゴーレムの額に古代文字が三文字書いてあるでしょ? あの一番右の文字を消せば、ゴーレムは倒せるはずよ! 逆に言うと、ゴーレムは魔法が効き辛いし物理攻撃もダメージが通りにくいから、それ以外の方法だと攻略は難しいわ!」

「じゃあ、全部ぶっ飛ばせば問題ないですよね!」

「そう、一番右の文字――え? 全部?」


 丁度良かった。

 ドラゴンの力を見てもらうのにピッタリの相手だ。


「『召喚サモン! パワードラゴン』!」


 僕の眼前、地面に描かれた魔法陣から、彼は現れた。


「おっきい!」


 その巨躯は、ゴーレムと全く遜色ない。

 しかも。


「ゴ、ゴオ………………」

「あのゴーレムが……怯えてる!?」


 A級モンスターのゴーレムすらも、ドラゴンには恐怖を感じるのか、動きが止まる。


「パワドラ! 本物のパワーとは何か、アイツに教えてあげて!」

「パワガアアア!」


 パワードラゴンが吼え、地響きと共にゴーレムへと迫る。


「ゴオオオオオオオオオオオオ!」


 ダンジョンのボスとしての自覚故か、ゴーレムも咆哮して恐怖を振り払い、パワードラゴンに殴り掛かった。


「ゴオッ!?」


 直後、ゴーレムの胴体に穴が開いた。

 顔面への一撃を避けたパワードラゴンが下から放った右前足によって。


「パワガアアア!」


 パワードラゴンが、今度は両前足を組んで上から叩き付ける。


「ゴオオオオオオオオォォォォォォ……」


 ゴーレムは地面を貫通、地下深くまで吹っ飛んだ。


「……すごい! 本当に勝っちゃったわ……!」


 穴を覗き込むも、真っ暗で底が見えない。


「すごいすごい! 本当にすごいわ! リュウ君!」

「ふふん。どうですか? これが、ドラゴンの力なんです!」

「ドラゴンって、すごいのね!」

「そうなんです、すごいんです!」


 これだよこれ!

 初めてドラゴンが褒められた!

 めっちゃ嬉しい!

 生きてて良かった……!


 拳を握り涙交じりに幸福を噛み締める僕の脳内に、《レベルが上がりました》《特殊状態<ミックスドラゴンブラッド(3種類)>により、レベル上昇幅がアップしています》と音声が流れ、視界に文字が見えた。


【基本ステータス】

 LV 200

 名前 リュウ

 年齢 15歳

 性別 男

 種族 人間

 職業 ドラゴン召喚士

 状態 ミックスドラゴンブラッド(3種類)

 称号 ドラゴンマスター


【スキル】

 召喚<LV 5>(※一度に召喚出来るドラゴンが二体に増える。感知ディテクションドラゴンとファイアドラゴンを新たに追加)

 硬化<LV 5>

 身体強化<LV 5>


【耐性】

 状態異常(麻痺・石化・呪い)

 攻撃魔法(炎)


「レベルアップしました! 一気に200に!」

「そりゃボスだし、レベルが一つ二つ上がってもおかしくないわよね――って、え? 200? 20じゃなくて? いや、元々10だったし、20でもおかしいんだけど、200?」


 やっとレベルが上がった!

 しかも、こんなにたくさん! 嬉しい!


 でも、なんで!?

 今まで補助ばっかりで、直接戦闘に参加してなかったから、経験値があんまり入ってなかったってこと?

 そんな中、いきなりBランクダンジョンのボスをソロ討伐したから、一気に上がった?


 まぁ良いや! とにかく、めちゃくちゃ嬉しい!

 これで、少しはマシになるかな。


 ドラゴンは最強だけど、僕自身はどうしようもなく弱いからね。

 術者の僕が狙われる可能性は十分にあるし、自分でも少しはまともに戦えるようになれたら良いな。


《ラックドラゴンのレベルが上がりました。スキル<経験値増加(パーティー全体)>を覚えました》


「あ。なんか、ラクドラもレベルが上がったみたいです。どうやら戦っていないドラゴンにも、経験値が入るみたいですね。それと、ラクドラがスキル<経験値増加(パーティー全体)>っていうのを覚えました」


 これって、マイカさんにも今の経験値が増加した形で入るってことだよな?


 僕が問うよりも早く、マイカさんが目を丸くした。


「私もレベルアップしたわ! しかも――LV51からLV81に! 30も上がってる!」

「マイカさんも! おめでとうございます!」

「ありがとう!」


 僕の手を取って一緒にぴょんぴょん飛び跳ねた後、「あ……勢い余って触っちゃった……ごめんね……」と、何故かマイカさんは頬を紅潮させながら謝った。


 と、その時。


「あ」

「どうしたの?」

「いえ、何でもないです」


 目が合った鼠が逃げて行く。


 この一年、ずっと誰かに見られているような気がするんだけど……

 

 ま、ただの鼠だったし! 多分気のせいだな!

お読みいただきありがとうございます!

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