14.「リュウをストーカーしていた犯人」
「それでは、私は一旦失礼いたしますわ」
「はい、ではまた明日!」
王城を後にした僕たちは、ウルムルさんと別れた。
「じゃあ、買い物しなきゃね」
「干し肉買いましょう!」
「本当にお肉が好きよね、リュウ君……」
「だって、ドラゴンっぽくて格好良いじゃないですか!」
「ハッ! あたいも肉は好きだよ。買い込むとしようじゃないか」
僕らは、三人で食料とポーションなどを買った。
ちなみに、女王さまからは最低限暮らせるだけのお金を定期的に貰っているので、ダンジョンの宝箱や冒険者ギルドの依頼・クエストをこなしたことで得る収益は全て冒険の準備に使うことが出来る。
※―※―※
翌朝。
「ウルムルよ。仲間たちと共に、見事魔王討伐を成し遂げてみせよ!」
豪邸の前で、ゼラグドさんの凛とした低音ボイスが響く。
「格好良いなぁ!」
生きる伝説。救国の英雄に相応しい、威風堂々とした佇まいだったが。
「では、行って参りますわ、御父様」
「うう……辛くなったら、いつでも帰って来て良いからな、ウルムルちゃん……」
ウルムルさんが抱き着くと、英傑の素顔が現れた。
「ハッ! 鬼の目にも涙ならぬ、狼の目にも涙、ってか」
「ゼラグドさんは全然無慈悲なんかじゃないですよ。でも、何となく言いたいことは分かります!」
背後からいつまでも聞こえてくる「ウルムルちゃ~ん! 我は待っているからな~!」という叫び声を聞きつつ、僕らは旅立った。
※―※―※
「本当に馬車は要らないんですのよね?」
「はい、ドラゴンがいますので!」
貴族令嬢であるウルムルさんが申し出てくれたものの、丁重に断って、僕はドラゴンの上に乗って移動することを提案して、みんなから承諾を得た。
今僕が召喚出来るドラゴンたちの中には、飛ぶことが出来る子はいないけど、スピドラだったら馬よりかはずっと速いからね。
それに、ドラゴンなら、馬車と違って次の町に着いたら姿を消してもらえるから、滞在スペースとかも考えなくて良い。加えて、馬車を借りて御者を雇うお金も、自分たちで御者役をやる手間も労力も要らない。
乗り心地は馬車の方が良いだろうけど、そこは短時間で済む利点に免じて、目を瞑って欲しい。
上品なドレス姿に巨大な棍棒という何とも個性的な格好のウルムルさんを加えた僕らは、王都の東門から外へ出た。
それからしばらくの間は、東へと向かう街道を歩いて行く。
ドラゴンの姿を城門を守る衛兵さん二人に見せないためだ。
「見せたかったなぁ」
「そうよね。でも、きっと驚かせちゃうから、ね?」
僕としてはドラゴンの雄姿を見せたくて堪らないんだけど、まだほとんどの人は知らないだろうから、いきなり見せちゃうとビックリして怖がったりするかも、と言われて、渋々諦めた。
王都から大分離れたところで、「そろそろ良いですよね!」と、満を持して僕がドラゴンを召喚しようとした時。
「ちょっと待った。その前に。ウルムル。あんたの闘気って、頑張ればあたいらも使えるようになるかい?」
「ええ、出来ると思いますわ」
「え!? あの格好良いの、僕でも出来るんですか!?」
「くすっ。リュウさまもきっと出来ますわよ」
「是非やりたいです!」
エルアさんがとっても素敵な提案をしてくれたおかげで、僕らは闘気獲得のための修業をすることにした。
街道から少し離れた草原で、ウルムルさんの特訓を受ける。
身体の使い方、イメージの仕方、力の入れ方などを、一通り説明してもらいながら実際にウルムルさんが闘気を身に纏うのをじっくりと間近で観察させてもらう。
気合いを入れつつ、早速練習に取り掛かった。
「って、リュウ君たち、ここで習得するつもり? いくら二人でも、それはちょっと無理が――」
「出来ました!」
「あたいも出来たよ!」
「ウソ!? なんで!?」
「まぁ! 素晴らしいですわ!」
目を見開くマイカさんと、朗らかに微笑み両手を合わせるウルムルさん。
これ、すごい!
淡い光に包まれた瞬間、身体中から力が溢れ出してくるのを感じた。
「でも……はぁ、はぁ、はぁ……」
「……これ、かなりしんどいねぇ……」
僕らの光は数秒で消えてしまった。
「うふふ。慣れが必要ですわ」
再び闘気を出現させるウルムルさんには、余裕がある。
「現在私が闘気を発動し続けられる限界は、五分。ちなみに、御父様が千匹のモンスターの大軍から王都をたった一人で守った際は、十分間だったそうですわ」
「「十分!?」」
すごい!
よ~し、僕も頑張って十分間使えるようになろう!
「それにしても、ウルムルさんはリュウ君たちが闘気を短時間で会得しても、驚かないのね。私はすごいビックリしたのに」
「それはそうですわ。だって、王都近くの森で毎日あれだけ激しいトレーニングを行っていたのですから。心も身体も、闘気を扱う下地が十分に出来上がっていたのですわ」
「おい、なんであんたがリュウのトレーニングのことを知ってるんだ?」
「あ」
ウルムルさんは、「私としたことが……一生の不覚ですわ……」と、眉根を寄せ唇を噛むと、すぐに優雅な表情に戻り、胸を張って答えた。
「それは、リュウさまのストーカーをしていたからですわ!」
「威張って言うな!」
ウルムルさんいわく、僕らが異世界召喚されてからずっと、僕のことを見守っていたらしい。
森でのトレーニングだけじゃなくて、勇者パーティーでダンジョンに潜った際も、棍棒片手に、一人で追跡していたそうだ。様々な手段を使って、屋敷から抜け出した上で。
この一年間常に誰かに見られている感覚があったけど、その理由がやっと分かった。
まぁ、勇者パーティーから脱退した僕たちが魔王討伐の旅を独自に続けるということは、エルフの村にいなかった彼女には知りようがないし、きっと推測して言ったことが偶然当たっていた、っていうことだと思うけど。
「ソロでずっとダンジョン内を移動していたって、滅茶苦茶すごいですね!」
「うふふ。お褒め頂きまして光栄ですわ」
「なんで一ミリも悪びれてないんだよ!」
道理で、レベルが高いはずだ!
「っていうか、マイカ。リュウがストーカーされてたんだぞ? 真面目なあんたなら、一番に噛み付きそうな話題なのに、やけに静かだな」
「えっ!? そ、そんなことないわよ。そ、そうよね……ス、ストーカーは、よくないことよね、うん……」
マイカさん?
何故か、思いっ切り目が泳いでいる。
「まさか、あんた……」
エルアさんの問い掛けに、マイカさんは。
「ごめんなさい、リュウ君! 私もストーカーしていました! 今までずっと!」
バッと頭を下げると、綺麗な黒い長髪がはらりと垂れた。
※―※―※
「まさか、あの場に全員いたとはねぇ……」
「仲良しさんですわね♪」
「あんた、とことんストーカー行為を正当化する気だな……」
どうやら、実はあの森で、僕たち四人は、毎日同時にトレーニングしていたみたいだ。
マイカさんは、本を読んで魔法の勉強をしつつ、魔力を練る練習と、攻撃魔法回復魔法防御魔法それぞれの発動の練習を。
エルアさんとウルムルさんは筋トレと、大斧と棍棒を振っての訓練で、僕はドラゴンとの一対一の戦闘訓練を。
「みんなが僕のことを見守ってくれてたんですね!」
「いや、どんだけポジティブなんだよ」
「それに、実はみんなと一緒にトレーニングを出来ていたんだって分かって、なんだか嬉しいです!」
「リュウ君……そう言ってくれると救われるわ……ありがとう!」
僕は、「では、僕らがトレーニング仲間でもあることが分かったところで、旅に戻りましょう! 『召喚! スピードドラゴン』!」「スピガアアア!」と、召喚すると、みんなでスピドラの背に乗せてもらった。
そして、ロドリアス王国の東端にあるズイポ村へと向かった。
なお、直径二十キロの円形の毒汚染地域の西隣に僕らのいるロドリアス王国があって、南側、東側、そして北側にも、一つずつ国があり、毒地域と接している。
恐らく四天王のような幹部がいるであろう、各国に出現した塔は、それぞれの国が接する毒汚染地域の外縁ギリギリに位置する。
※―※―※
馬車で一日掛かるズイポ村に、わずか三時間で到着した僕らは、早速迫り来る毒から避難してもらおうと、村の人たちに話し掛けたんだけど。
「ワシらは絶対にここを立ち退かんからな!」
彼らは頑なに拒んだ。
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