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13.「女の戦い(女王含む)&リュウが膨大な魔力を獲得出来た理由」

「ウルムルちゃん……今晩はまだうちにいるんだよな?」

「もちろんですわ、御父様。約束ですもの」

「そ、そうだよな……ちゃんと帰って来るんだぞ?」

「はい。行って参りますわ」


 ドレスに着替えたウルムルさんが、優雅にカーテシーで挨拶する。


 決闘の後、ウルムルさんはすぐにでも旅立ちたそうにしていたが、ゼラグドさんが寂しがって、もう一日だけ親子の時間が欲しいと言われた。


 そのため、取り敢えず今日は僕たちと共に冒険者ギルドでパーティーへの加入手続きだけして、また家に戻って親子水入らずの一時を過ごすことになったのだ。


 既に泣きそうなゼラグドさんは、当初の厳格な印象から打って変わって、まるで別人のようだ。


 明日には旅立つ娘に、感情を抑え切れない父親、か。


「……父さん、母さん、元気してるかな……」


 ふと、両親のことを思い出してしまう。


 って、いけない! 僕は、魔王を倒すんだから!

 寂しがってる場合じゃない。


 魔王のせいで苦しんでいる人たちがいる。


 みんなを救うこと。

 それが、異世界に召喚された僕の使命なんだから!

 

 もちろん、世界を救った暁には、ドラゴンがどれだけすごいかってことを、全員に知ってもらわなきゃだけど!


 決意を新たにした僕は、仲間たちと共に歩み出した。


※―※―※


 ウルムルさんの家は、貴族たちの居住区にある。

 王都の中心部に王城、そして外に向かって、貴族、裕福な平民、貧しい平民、という順番で住宅街が広がって行く。


 そこから中央通りに出て、冒険者ギルドへ歩いて行く。

 

 道を行き交う人々に交じって歩いていた猫と目が合ったけど、プイッと顔を逸らして歩き去ってしまった。


「ちょっと光輝こうき教っぽいなぁ」


 この世界唯一の宗教団体の真似でもしているのか、全身をローブに包み、フードを被って顔も隠している業者が現れ、幌馬車に大量の商品を載せて王城へと向かっていく。


 王室御用達の商人は既にいるのだが、そこに食い込みたい、自分たちも甘い汁を吸いたい、という者たちが何人もいるらしい。


 他国ならば門前払いだろう。加えて、そもそも商業ギルドを通すのが筋ではあろうが、平民出身のしかも獣人を貴族として取り立てた件といい、女王さまは寛容らしく、数々の直談判を許容していた。


 まぁ、直接陳情を聞いたところで、基本的に首を縦に振ることはないらしいので、狭き門であることに変わりはなさそうだが。


「あれ?」

「どうしたの、リュウ君?」

「いえ、何でもないです」


 左手に見えるレストランに入っていった男性三人組が、アキラさんたちだったような気がするけど……


 まぁ良いや。

 僕はもう勇者パーティーを追放された身で、関係ないし。


※―※―※


「やった! 〝ドラゴンの偉大さ(ドラゴングレイトネス)〟! 格好良い!」

「リュウ君、良かったわね!」

「ハッ! これで晴れてあたいらは同じパーティー仲間ってわけだ!」

「お二人と同じパーティーになれたこと、誇りに思いますわ」

「コラ、明らかに今、あたいを人数に入れてなかっただろ!」

「あら、いたんですの、エルアさま」

「喧嘩売ってんのかい、この狼女!」


 パーティー名を登録しつつ、冒険者カードを見せて、構成メンバー四人全員分を登録をした。一種の簡易的な魔導具である冒険者カードが更新されて、パーティー名のところが〝ドラゴンの偉大さ(ドラゴングレイトネス)〟となった。


 ちなみに、ウルムルさんは、以前既に冒険者登録だけはしてあったらしい。


 貴族令嬢ではあるけど、幼少時代から鍛えていたため、十代後半になった頃にゼラグドさんから、「もうそこら辺の冒険者などよりも余程強くなったから、一人で出掛けても良い」という許可をもらって、冒険者ギルドへと赴き登録を行ったとのことだ。


※―※―※


 冒険者ギルドの外に出ると。


 ぐぅ


 音に反応して視線を横に向けると、マイカさんが赤面している。


「お昼時だし、お腹空きましたね。ご飯にしましょう!」

「そ、そうね」

「それじゃあ、えっと……あっちの方のレストランで!」


 鉢合わせすると気まずいので、先程アキラさんらしき人影が見えた店舗から出来るだけ離れたレストランに入った。


「ドラゴンと言えば、やっぱり肉ですよね!」

「駄目よ、リュウ君! ちゃんと野菜も食べなきゃ!」

「え~。でも……肉が良いです!」


 マイカさんには悪いけど、僕は肉料理を頼んだ。

 マイカさんとウルムルさんは、ちゃんと野菜も取れるバランス良いメニューを、エルアさんは、僕と同じように肉料理を頼んだ。


 ……エルフが肉料理、というのは意外な感じだけど、ワイルドな彼女にはピッタリだ。

 エルフ村の野菜料理は美味しかったけど、食事の嗜好という点でも、エルアさんは少しエルフの慣習とは相容れない部分があったのかもしれない。


「わぁ~! 美味しそう!」


 テーブルの上には、美味しそうな料理が並んだ。

 皿の上の羊肉ステーキが香ばしい香りを漂わせ、食欲をそそる。


 アキラさんはグチグチ文句を言っていた気がするけど、異世界の料理、僕は普通に美味しいと思うんだけどなぁ。


「ほら、リュウ! あ~ん」

「え?」

わたくしも。リュウさま、あ~ん、ですわ」

「ええ!?」


 何故かエルアさんとウルムルさんが、自分の料理を切ってフォークに刺し、僕に差し出してくる。


「えっと……その……恥ずかしいですよ……」


 俯いた僕に、「そうよ、駄目よそんなの! お行儀が悪いわ!」と、真面目なマイカさんが援護射撃してくれる。


 だけど、ワイルドエルフ女性と狼獣人女性は攻撃の手を緩めない。


「良いじゃないか。減るもんじゃないし。あ~ん」

「ためには良いこと言いますわね。あ~ん、ですわ」

「誰がたまにはだ! あ~ん」


 それでも僕が抵抗していると、ふとウルムルさんが、意味深な笑みをマイカさんに向ける。


「良いんですの? リュウさまの〝初あ~ん〟はわたくしが頂きましてよ?」

「!」

「〝初あ~ん〟を頂いた後は、リュウさまのその他全ての〝初めて〟を頂きますが、それで文句ないのですわよね?」

「くっ!」


 よく分からない会話を繰り広げた後。


「わ、私も!」

「マイカさん!?」


 どういう訳か、マイカさんがウルムルさんたちの色に染められてしまった。


「リュ、リュウ君! わ、私の……を食べて……」

「!」

「あ、あ~ん」


 頬を紅潮させながら上目遣いで告げるマイカさんに、思わず僕は。


 パクッ


 気付いたら、野菜炒めを一口食べてしまっていた。


「ハッ! やるじゃないか、マイカ」

「少々甘く見ていましたわ。そんな手練手管を弄する方だとは思わず」

「え? 私何か特別なことした?」

「だって、『私の……を食べて』だなんて、まるで男女の情熱的な逢瀬を連想させるようなはしたない台詞、わたくしには到底口に出来ませんわ」

「!」


 理由は分からないけど真っ赤になるマイカさんに、ぴょこぴょこと狼耳と尻尾を動かしながらウルムルさんがニヤリと笑い、〝あ~ん戦争〟は終結したとばかりに、ガツガツとワイルドに自分の肉料理を食べながら、エルアさんは満足そうに目を細めた。


※―※―※


 食事が終わり、店を出た後。


「では、参りますわよ。王城に」

「え?」


 そのまま家に帰るのだと思っていたウルムルさんの一言で、僕らは王都の中枢にある白亜の建物へと向かうことになった。


 旅立ち前に女王さまへ挨拶をすることは、貴族令嬢として決して欠かすことが出来ない重要事項なのかもしれない。


「でも、丁度良かった!」


 僕も女王さまに恩があるから、改めて挨拶出来るのは嬉しい。


 当たり前だけど、S級モンスターであるドラゴンを召喚するには、かなりの魔力が必要だ。


 ましてや、二体同時、などとなったら、膨大な魔力が必要になる。


 何とか魔力を増やせないかなと思っていたら。


「それならば、これを使うと良いのじゃ」


 女王さまが、貴重な魔力量アップ用の魔法薬を大量に譲ってくれたんだ。


 ちなみに、普通に考えれば、冒険者であれば喉から手が出る程欲しがる品だけど。

 実際には、入手しようとする者は皆無に等しい。


 値段の高さもあるけど、それだけが理由じゃない。

 マズいのだ。それも、常軌を逸する程に。


 百人中九十九人が吐いてしまうため、体内に入れることすら難しい。


 だけど、僕は、


「もっとたくさんのドラゴンを同時に、長く召喚し続けるためだ!」


 と飲み込み、吐き気を我慢した。


 さらに、その状態で魔力が無くなって気を失うまで魔法を発動し続けなければならなくて、そこまで行って、初めて魔力量が少しだけアップする。


 ということを知った僕は、


「どうせ限界まで魔力を使うなら」


 と、ドラゴンとの一対一での戦闘訓練の直前に、魔力量アップ用の魔法薬を飲むようにした。


 地獄の苦しさだったけど、おかげでかなり魔力量が増えた。

 まぁ、戦闘能力の方はまだまだ弱くて、ちょっとマシになったかなくらいのレベルだけどね。


※―※―※


「女王さま、御久し振りで御座います。この度は謁見の御許可を頂きまして深く感謝申し上げます」

「ウォーレローズ家の娘じゃったのう。元気そうで何よりじゃ」


 女王さまの眼前で恭しく片膝をつくウルムルさんは、所作一つ一つが優雅さに満ちている。


 ちなみに、たくさんの赤色と少しの金色で彩られた謁見の間は、女王さまの肌ケアのために、じめじめしている。

 男の僕には分からないけど、女性には大事なことなんだろうなぁ。


 女王さまは、僕が勇者パーティーから追放されたことも、マイカさんが脱退したことも知っていた。アキラさんたちが話したみたいだ。


 独自にパーティーを組んで魔王討伐すると言ったら、喜んでくれた。

 「勇者パーティー以外が勝手なことをするな」とか言われなくて良かった。


 チラリと横を一瞥すると、左端にいる優美なウルムルさんと違って、同じ姿勢のはずのエルアさんは、ワイルドさが隠し切れず、どこか窮屈そうにしている。


 「勇者パーティーにも伝えたのじゃが」と、四ヶ国に一本ずつある四つの塔を攻略し、幹部を倒すことと、塔近辺に位置し、広がり続ける毒に呑み込まれようとしているズイポ村の人たちを王都に避難させるという勅令を発した後、女王さまは「仕事の話はそこまでにして」と、話題を変えた。


「リュウ。其方は本当に可愛いのう。どれ、頭を撫でさせてもらうとしようかのう」


 鼻息荒く立ち上がった彼女だったが。


「あっ」


 つまずいて、両腕を広げながら数段の階段の上から跳躍。


「んちゅ~」

「え?」


 唇を突き出しながら、僕を目掛けて一直線に飛んで来て。


「駄目!」


 マイカさんが僕らの間に咄嗟に差し込んだ魔法の杖の最上部に、女王さまは唇を押し当てていた。


「邪魔をしおって……」

「邪魔って言いましたよね、今! はっきりと!」


 女王さまは、玉座に戻り、「コホン」と咳払いして威厳を取り戻すと。


「では、女王の名のもとに命ずる! リュウ、マイカ、エルア、ウルムルよ! 魔王幹部、そして魔王を討伐し、この世界を救うのじゃ! 勇者パーティーに負けるでないぞ!」

「いや、今更格好つけられてもな……」


 バッと立ち上がって手を翳し、格好良く台詞を決めたものの、エルアさんにポツリと突っ込まれた。

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