12.【一方勇者パーティーは(3)】
女王との謁見の翌日、昼前。
「マイカはいねぇな。あのクソガキもだ」
「ガハハハッ! ダンジョンで死んだんじゃないか?」
「クソガキはともかく、あのマイカがB級ダンジョンごときで死ぬことはねぇよ」
「そうですね。彼女は、無能なトカゲ召喚士とは違いますから」
アキラの声に、タイガとトモユキが反応する。
戦力補充が必要となった彼らは、まずはマイカとリュウを見つけるべく、王都内を捜索していた。
……とは言ったものの、恐らく、あのクソガキも死んでねぇ。生きてやがる。そんな気がする。
もしマイカが最下層でリュウの死体を見付けていたなら、冒険者ギルドに報告しているはずだ。それがないってことは、生きてる可能性が高い。
「もしあのクソガキが、『お願いします! 勇者パーティーに戻らせて下さい!』と頭を下げたら、仕方ねぇから考えてやる」
そう言って探し始めてから、既に一時間が経過していた。
普段使っている宿も、行きそうな店も全て探したし、店主に話も聞いたが、目撃情報はない。
「きっとあのクソガキは、俺様が怖くて尻尾巻いて逃げ出しやがったんだ」
「ガハハハッ! 無様だな!」
「クックック……滑稽な後ろ姿が容易に想像出来ますね」
ただ、もしその場合は、マイカも一緒だろうが……チッ!
「ぐぁっ!」
昨晩の深酒のせいで今日も二日酔いのアキラは、頭を押さえる。
「少し休憩しましょう」
「……そうだな」
トモユキの言葉に、アキラは頷いた。
※―※―※
レストランで休息した後。
「このままじゃ埒が明かねぇ。アイツらはもう王都にはいないと考えて、新しいメンバーを入れる」
そう言って、アキラたちは冒険者ギルドへとやって来た。
「まずは、マイカの代わりだ」
魔法での攻防をどちらもこなす賢者なんてレア職業は、まずお目に掛かることは出来ない。
仕方がないから、魔導士と治癒師の二人を雇うこととする。
A級レベルと言われる塔を今後攻略するに当たって、さらにメンバーを追加することは不可避。ただ、人数が増えすぎると一人当たりの利益の取り分が少なくなるので本当は避けたいのだが、背に腹は代えられない。
「あれは、確か……」
そんなことを考えながらギルド内の者たちを観察していると、見覚えのある顔が見えた。
LV58とLV61の美女魔導士と美女治癒師の二人だ。
以前いたパーティーから脱退し、新たに加入を望んでいるらしくて、早速「知ってるかな? 俺、勇者なんだけど」と声を掛けて勧誘し、成功した。
「これから宜しく」
「「こちらこそ宜しくね」」
アキラは、新しくパーティーに入ったばかりの女性たちに、ここぞとばかりに、リュウのことを話す。
「以前うちのパーティーに召喚士のガキがいたんだが、そいつがもう、どうしようもなく使えない奴だったんだ」
「ガハハハッ! そうそう、トカゲしか召喚出来ない奴でな」
「クックック。あんまり言うと可哀想ですよ。彼も肉壁くらいにはなれたでしょうから」
「へぇ~、それは大変でしたね」
そして、さり気無く美女二人の間に入ったアキラが、同時に肩を組んだかと思うと、その手を下にずらして素早く胸と尻を揉むと。
「きゃあああ!」
「何すんのよ!」
「ぶごぼッ!」
強烈なビンタを二発を食らって、吹っ飛んだ。
「こんなパーティー、やってられないわ!」
「さようなら!」
女性陣が去った後、アキラは鼻血を拭いつつ立ち上がった。
「クソッ! なんでこの俺様がこんな目に!」
「ガハハハッ! このタイガも、そうしたくなる気持ちは分かるぞ!」
「いや、初手セクハラは悪手ですよ。もう少し時間を掛けて――」
「うるせぇ!」
※―※―※
再び冒険者探しをすると、運よく、それ程時間も掛からず、また違う美女魔導士を見つけ、更にその後、別の美女治癒師を探し出すことが出来た。
早速二人を誘って、承諾してもらう。
「LV54とLV57か……さっきよりも下がってるじゃねぇか」
「いや、貴方のせいですよね?」
小さな声でボソッと呟くアキラに、トモユキが突っ込む。
ちなみに彼らのレベルは、アキラが55、タイガが52で、トモユキが50だ。
「よし、取り敢えずこれでマイカ脱退分の戦力は取り戻してやったぜ。あとは、塔攻略に向けて更なる強化だ!」
「ガハハハッ! 〝美女〟という要素は外せないんだよな!」
「ったりめぇだろうが! 何が悲しくてこれ以上野郎を増やさないといけねぇんだよ」
「誰か心当たりはあるんですか?」
「おう、任せろ!」
アキラは、建物内にはいないことを確認した上で、受付嬢に、とあるA級ソロ冒険者の名前を告げた。エルフにもかかわらず胸がでかいという美人で、以前から目をつけていたのだ。
「エルアっていう名のエルフなんだが、そいつをパーティーに勧誘したくてな。次はいつ頃ここに来るか分かるか?」
受付嬢は、手元の資料を見ながら答えた。
「エルアさまですが、既に他パーティーに所属されていらっしゃいます」
「なっ!? どこの野郎だ!?」
「えっと、パーティー名は〝ドラゴンの偉大さ〟で……」
「ドラゴン……? 代表者名は?」
嫌な予感がする。
「代表者の方のお名前は、リュウさまです」
「!」
あのクソガキ! やっぱり生きてやがった!
しかも、俺様のハーレム要員にする予定だった女を横取りしやがって!
「あの……大丈夫ですか?」
「あ?」
「ヒッ!」
「受付に当たっても仕方ありませんよ」
「チッ」
トモユキが宥めると、アキラは、気を取り直してもう一人の名前を告げる。
「仕方ねぇな。じゃあ、次だ。ウルムルってのがいるだろ? 貴族の。そいつがここに来そうなタイミングを教えろ」
こちらはS級冒険者かつ貴族令嬢であり、美貌と実力更には家柄までもを兼ね備えているため、ハードルは高い。
まぁでも、所詮は女だ。
世界を救う勇者であり長身完璧イケメンの俺様に誘われれば、あの狼獣人女も尻尾振って擦り寄って来るに違いねぇ。
資料に目を落としていた受付嬢は「あっ」と声を発し、何故か深呼吸した後に、意を決して言った。
「ウルムルさまも、残念ながら既に〝ドラゴンの偉大さ〟に所属されていらっしゃいます」
「はあああ!? ふざけんなよ! あのクソガキがああああああああああああああああああああああ!!!」
冒険者ギルド内に、アキラの叫び声が響いた。
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