10.「空間転移した先は」
エルフの村を後にした僕らは、森の中を歩いていた。
「ハッ! <経験値増加(パーティー全体)>ねぇ。それであの黒霧モンスターを倒した際に、あたいも一気にレベルアップしたって訳かい。あんたは本当にすごいね、リュウ」
「僕じゃなくて、ドラゴンがすごいんです!」
「ああ、そうだったね。本当、ドラゴンはすごいね」
「ふっふっふ~。そうです、ドラゴンはすごいんです!」
僕は胸を張り得意顔をする。
ドラゴンのすごさを分かってくれる人が増えて嬉しい!
「くすっ」と、僕の隣でマイカさんが微笑んだ。
「ってことは、あの時既に、あたいを仲間として認識してくれてたってことかい?」
「当たり前じゃないですか!」
「仲間……良いもんだね。サポートメンバーとして冒険者パーティーに入ったことは何回かあったけど、ちゃんとしたメンバーってのは、初めてだよ」
朝の木漏れ日が、優しく木々の間から降り注ぎ、ワイルドな笑みを浮かべたエルアさんの顔を照らす。
僕らが向かっているのは、空間転移魔法陣がある場所だ。
本来の目的は、空間転移指輪を使えるような人目につかない場所に行くことで、別に魔法陣を使う予定は無かったけど、あそこは森の外れだったらしく、丁度良かったのだ。
「仲間と言えば、王都の冒険者ギルドでメンバー登録はするとして、パーティー名はどうするの、リュウ君?」
「パーティー名!? 僕たちのパーティーの、ですか?」
「そうよ。だって、代表者はあなただから」
「僕が? 良いんですか?」
「ハッ! 当たり前じゃないか」
そうか、なんで気付かなかったんだろう!
僕は、ドラゴンが活躍して、それを見た人たちが「すごい!」って言ってくれて、ってことだけをただ繰り返して、強くて格好良いドラゴンのすごさをみんなに分かってもらおうとしていた。
でも、冒険者パーティーとして活躍して、もしそこにドラゴンの名前が入っていれば、ドラゴンの知名度もすごさも世界中に広めることが出来るんだ!
マイカさん、すごい!
「えっと、パーティー名……パーティー名……そうですね……」
僕は立ち止まり、うんうん唸って考えると、バッと顔を上げた。
「〝ドラゴンの偉大さ〟が良いです!」
「素敵ね! 格好良いわ!」
「良いじゃないか。強そうだし」
こうして、僕らのパーティー名が決まった。
ちなみに、昨日レベルアップした際に、召喚レベルも上がって、新しく召喚出来るドラゴンが増えた! 会えるのが今から楽しみだなぁ!
【基本ステータス】
LV270
名前 リュウ
年齢 15歳
性別 男
種族 人間
職業 ドラゴン召喚士
状態 ミックスドラゴンブラッド(3種類)
称号 ドラゴンマスター
【スキル】
召喚<LV 6>(※アースドラゴンを新たに追加)
硬化<LV 6>
身体強化<LV 6>
【耐性】
状態異常(麻痺・石化・呪い)
攻撃魔法(炎・土)
それと、攻撃魔法に対する【耐性】だけど、ファイアドラゴンを召喚出来るようになった時に炎の耐性がついて、今回獲得したのが土耐性だから、召喚可能なドラゴンの種類によって増えていくのかもしれない。
※―※―※
「『召喚! ラックドラゴン』!」
「ラクガアアア!」
僕が手を翳すと、地に魔法陣が描かれ、虹色のドラゴンが現れる。
しばらく歩いた後、僕らは空間転移魔法陣のある広場に到着、空間転移の準備をしていた。
「何度見ても、召喚魔法ってのはすごいもんだね!」
「ラクドラは色んな力を持っているんですが、その一つに、幸運値を上げるっていうのがあるんです」
「へぇ~。幸運値ねぇ。やるじゃないか、ラクドラ」
「ラクガ!」
ラクドラの脚をパンッと叩くエルアさんに、ラクドラが誇らし気に上を向く。
「エルアさん。これから空間転移指輪で移動しようと思いますが、良いですか?」
「ああ。悪いね、気を遣わせちまって。本来なら、あたいらの故郷を救ってくれたあんたらは恩人であり英雄だ。魔法陣を使ってもらっても、何の問題も無いと思うんだけどねぇ」
「良いんですよ。伝統も大切で、蔑ろにしちゃいけない、ですよね?」
「ハッ! ……そうだね」
エルフの人々の保守的なところを嫌い、伝統をぶち壊そうとしていたエルアさんは、今回の騒動を経て、零か百かじゃなくて、バランスを取るようになったみたいだ。
何だか、エルアさんの野性味溢れる笑顔に深みがプラスされたみたいで、すごく格好良い!
「それじゃあ、マイカさん、お願いします!」
「分かったわ!」
「王都に着いたら、冒険者ギルドでパーティー名を告げなきゃね。あ、まずはあたいのメンバー加入登録が先だったね」
「え、何言ってるんですか、エルアさん? 空間転移指輪の行き先は、ランダムですよ?」
「……へ? ランダム? なんでそんな危険なものを使――」
「格好良いからです! 〝ランダムなんて気にしない〟っていうのが! だって、ドラゴンだったら、そんなの気にしないと思いますし! 大丈夫です! そのためにラクドラに幸運値を上げてもらっていますから! だから、死にません! 多分!」
「多分て! あんたたち何考え――」
「大丈夫! リュウ君とラクドラちゃんを信じて! 行くわよ!」
「何も大丈夫じゃない! ちょっと待――」
「『空間転移』!」
足下に魔法陣が展開、僕らは飛んだ。
直後。
バシャーン
ラクドラ共々、僕らは全員、脚がお湯に浸かっていた。
辺りは湯気が立ち込め、少し熱いくらいの丁度良い温度だ。
「え? ここって――」
「お風呂……よね?」
「た、助かった……」
公衆浴場――かとも思ったけど、それにしては誰もいないし、巨大な浴槽は何本もの大理石の支柱に囲まれており、壁も天井も装飾がキラキラ輝いて、豪奢過ぎる。
貴族の豪邸――という単語が、脳裏を過ぎった時。
「まさかウォーレローズ家に堂々と浸入する輩がいるとは、驚きですわ。しかも、大胆にも浴場とは」
「「「!」」」
湯気が薄れ現れたのは、湯船に浸かる、高貴な雰囲気だが艶めかしい狼獣人の若い女性。
焦げ茶色の長髪が胸を、くるりと回された尻尾が下腹部を辛うじて隠しているだけで、グラマラスな肢体を露わにする彼女に、僕は慌てて両手で顔を覆って謝る。
「ご、ごめんなさ――」
が。
「これはもう、死罪ですわね」
「「「!」」」
どこか楽しそうに女性はそう告げ、狼の耳をぴょこぴょこと動かすのだった。
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