47.愛に溢れた日常を
ロイの甘すぎる言動にいよいよ限界がきたその時、セスが中庭の花々を背に私の前に現れた。
お昼の日差しを浴びて、セスの色素の薄い白い髪がキラキラと輝く。こちらをまっすぐ見つめる瞳は空と同じ色でとても美しかった。
私を本当に助けに来てくれたかのようなタイミングで現れた光り輝くセスに私は思った。
救世主が現れた、と。
「セス!」
ありがとう!と心の中でお礼を言いながらも、私はその場から立つ。
そして逃げるようにセスの方へと駆け寄った。
「お迎えにあがりました、ステラ様。次の予定がありますので、そろそろ帰りましょう」
「そうなのね!じゃあ行かないとね!うん!そうしよう!」
優しく私に微笑むセスに私は笑顔で力強く頷く。
それから私はすぐに自分がしでかしたことに気がついた。
…皇太子様とお茶会中なのについ安堵して、ほっぽり出してしまった。
「…ロ、ロイ様」
私は慌てて、冷静さを取り戻し、ロイの方へと体を向ける。
するとロイは私を追いかけてきたのか、私のすぐ側で微笑んでいた。
い、いつの間に…。
「大変名残惜しいのですが、もう時間ですので、私はここでお暇させていただきます」
音もなく私の側にいたロイに内心驚きながらも、少しだけ寂しげな表情を作り、ロイを見つめる。
アナタと離れ難いのですよ、私は。決して今すぐここを離れたい訳ではないのですよ、と言いたげに。
「愛しの僕のステラ。僕も君と離れることが名残惜しいよ。だから馬車まで君を送らせて?」
「…はい、もちろんです」
優しくふわりと笑うロイに私も同じように笑う。
本当は一刻も早く、この心臓の悪い皇太子様から離れたかったが、それはもう諦めることにした。
馬車までの辛抱だ。それにセスもいるし、もうあのような心臓に悪いことは起きないだろう。
こうして側から見れば仲睦まじい私たちとセスは共に馬車の元まで向かうこととなった。
*****
私が乗る馬車の元へ辿り着くと、そこには何故かユリウスがいた。
「ステラ、待っていたぞ」
相変わらずの冷たい表情でこちらを見つめるユリウスだが、その黄金の瞳は優しい。
そんなユリウスが何故馬車の前で私を待っていたのかよくわからず、私は首を傾げた。
ユリウスとここで待ち合わせをした覚えがないのだ。
「ロイ殿下。うちのステラが大変お世話になりました。それでは」
私の隣にいたロイに会釈をして、ユリウスが私の手を引く。
ユリウスに手を引かれたことによって、私はユリウスの元へと移動した…と、思われた。
しかし実際は私の隣にいたロイが、私の空いている方の手を掴み、それを阻止したことによって、私はユリウスの元へと移動できなかった。
右手をユリウス、左手をロイに掴まれ、どちらにも行けれない状態になる。
「婚約者である僕が最後までエスコートするよ。お兄義様」
「…そのように呼ばないでください。俺はアナタの義理の兄になるつもりはありません」
「おかしなことを言うね、ユリウス。僕とステラは結婚するんだよ?ユリウスに拒否権はないよ」
「おかしなことを言っているのは殿下の方です。そもそもその結婚がありえないと言っているのです」
「僕は婚約者なのに?」
「その婚約は無効です」
…また始まった。
2人が顔を合わせればいつもこうだ。
ユリウスは不愉快そうに、ロイは笑顔で互いを睨み合っている。
午前中も見た一触即発な空気に私は頭を抱えた。
「ステラはフランドルから出ません。ステラはこの先もずっとステラ・フランドルです」
「囲うの?ステラを?ステラの幸せを願うならステラは自由であるべきだ。ステラは将来ステラ・ミラディアになるんだよ」
「違います」
「違わないよ」
…終わらない。
このまま2人を放置すると永遠に話が終わらない。
「…ユリウス、ロイ様」
2人の話を終わらせる為に、仕方なく私は口を開く。
それから2人のことをまっすぐと見据えた。
「まずはユリウス。私がいつまでもフランドルな訳ないでしょ?いつかは結婚するからね。それからロイ様。その結婚相手は間違いなくアナタではありません。2人ともわかりましたか?」
「「…」」
私の言った言葉をユリウスとロイは無言で受け止め、何か言いたげな視線を私に送ってきたが、私はそんな2人を無視することにした。
これ以上2人に付き合うと次の予定に遅れてしまう。
「セス、行くよ」
「はい、ステラ」
私は私の一歩後ろで控えていたセスに声をかけ、馬車へと乗る。
そして座り心地の良い椅子へと腰掛けると、何となく扉の方へと視線を向けた。
するとそこには扉の枠に手をかけ、こちらを見つめる美しい顔が2つ並んでいた。
…ユリウスとロイだ。
「ステラが結婚したいと言うのなら結婚すればいい。だが、その相手は俺しか許さない。ステラは結婚してもしなくてもステラ・フランドルだ」
まず最初に口を開いたのはユリウスだった。
いつもと変わらない無表情だが、その瞳は真剣そのものだ。
ユリウスのまさかの発言に私は大きく目を見開いた。
いくら私をフランドルから出したくないからといって、義理の妹と結婚しようと考えるとは。何を考えているんだ、ユリウス。
「残念だけど、君ほど素晴らしい女性に釣り合う男はこの世界中どこを探しても僕しかいない。だからステラが望もうと望ままいと僕と結婚すること決定事項だよ。それにこれはあまり使いたくないけれど皇帝として命令もできるしね」
次に口を開いたロイも随分おかしい。
甘い笑みを浮かべたまま、恐ろしいことを口にしたロイの瞳も真剣そのもので、私は言葉を失った。
ロイの考え方はもう怖い。自分の世界に入ってしまっている。
「あ、あははは」
この何故か異常に私に執着を向ける2人に対して私からつい乾いた笑い声が出る。
少し前までの私は何も持たない、何者でもない、もし誰にも知られずに死んでしまっても、誰にも悲しまれない、そんな存在だった。
だけど今の私は違う。
私を愛する両親がいて、メアリーや使用人たちもいる。
実はずっと前から私を主人だと思い、慕ってくれていたセスもいるし、何故か私に執着して、愛してくれるユリウスもいる。
それからロイも。
今の私は持ちすぎているくらいだ。
ルードヴィング伯爵との契約を満了した後の私の夢はリタとしてではなく、私として自由気ままに生きることだった。
その夢とは少し違うかもしれないが、私は今、自由で、私として何不自由なく生きている。
大変なこともあるが、愛の溢れる今の日常を私は愛おしく思う。
馬車の外で睨み合うユリウスとロイ。
それからその後ろで礼儀正しく立っているが、そんな2人を迷惑そうに見ているセス。
彼らを見て私は今度は頬を緩めた。
まだまだいろいろと大変なこともあるだろうが、1人ではない今の私ならきっと大丈夫だ。
end.
ここまで私の趣味全開なお話にお付き合いいただきありがとうございました!
私の好きを詰めすぎて無茶苦茶だったところもありますが、私の大好きな愛重ためな男たちとそんな男たちに振り回られるステラを楽しんでいただけていたら嬉しいです(^^)
このお話はタイトル通り、ステラの逃走のお話なので、まだまだお話を書ける余地はありますが、ここで終わりたいと思います。
いつも更新する度にいただけたリアクション、感想とてもとても嬉しかったです!
さらに評価までいただけた時は嬉しくて嬉しくて舞い上がっていました!(^^)♡
読者の皆様のおかげで最後まで更新できました!
本当にありがとうございましたm(_ _)m




