41.彼女の真実 sideロイ
sideロイ
ピエールが採取していたステラとあの女性、僕の探していたリタの血を魔法薬で分析した結果、2人が同一人物であることが判明した。
最初こそ大人であるあの女性と子どもであるステラが何故、同一の人物なのか訳がわからなかったが、宮殿所属の魔法使いによる、魔法研究会に参加していたキースを見つけ、問い詰めたことによって僕は全てを知ることとなった。
ちなみにキースは最初はステラのことを一切僕に話そうとはしなかった。
だが、僕はあの手この手を使い、最後には権力にものを言わせ、キースのあの頑な態度を折った。
ただキースはただではステラの話をしようとはせず、
『ぼ、僕と命をかけて契約をしてください。あの子に絶対に危害を加えない、と。でなければ僕は絶対に何もお話しするつもりはありません』
と、少しだけ震えながら言ってきた。
僕はもちろんステラに危害を加えるつもりなど一切ないので、ステラの情報を少しでも知るためにも迷わずキースと命をかけて契約をすることを選んだ。
こうして命をかけてまで手に入れた情報を元に僕は今日までユリウスを味方にし、ステラの未来の為に動いていた。
そして今日、ステラの最大の脅威であるルードヴィング伯爵を断罪し、捕える。
「失礼します」
今まさに伯爵を問い詰めていたところに何者かがノックもせず、この部屋の扉を開ける。
扉を開けた人物を確認する為に、扉の方へと視線を向ければ、そこにはリタの専属執事のセスがいた。
セスの登場に机を挟んで向こう側に座る伯爵は怪訝そうに、僕の隣に座るユリウスは相変わらずの無表情で、それぞれがセスに視線を向けている。
「…セス、急にどうした?無礼にも程があるぞ」
「無礼も承知の上でございます。緊急を要することですので」
「緊急だと?」
「はい」
セスを責めるように睨む伯爵の視線など気にも留めずに、セスは僕とユリウスをまっすぐ見据える。
「ステラ様が…いえ、とある方が今リタ様の手によって命を狙われております。ですからどうかあの方を…」
「…ステラ?」
ユリウスほどではないが、表情の乏しい印象のあったセスが切実に僕とユリウスに訴えかける。
そしてユリウスはセスから出た〝ステラ〟という言葉を見逃さなかった。
「ステラをお前は知っているのか」
恐ろしいほど冷たくユリウスが口を開く。
声や表情は冷たいが、その瞳には抑えきれないほどの激情が宿っており、セスを射抜くその視線は学院や帝国中の者から美しいが恐ろしいと評される、ユリウスらしいものだった。
そんなユリウスにセスは「…え、ええ。ステラ様は俺の主ですので」と、ユリウスの迫力に押されながらも、困惑気味に答えていた。
「ロイ殿下、ユリウス様、どうか私のステラ様をお助けください。ステラ様はたった今、リタ様に命を狙われているのです」
「…な、何を言っている!リタがそんなことをする訳がないだろう!惑わされないでください!殿下!」
セスと伯爵、2人の瞳が僕を捉える。
セスの切実な瞳と伯爵の狼狽えている瞳。
どちらが本当のことを言っているのか一目瞭然だ。
「伯爵、お前が影武者として用意した女性はステラだね?そしてもう不必要になったステラを始末しようとした。その証拠がこれだよ」
俺は余裕のある笑みを浮かべ、用意しておいた証拠をまとめた書類の一部を懐から取り出す。
「これは婚約式の時に使われたリタの血判とリタ本人の血を魔法で照合したものの結果だ。これを見ればわかると思うが、婚約式の時のリタとリタは全くの別人だった」
婚約式では皇帝の元、お互いに誓約書にその場で血判を押す。
なのでその血判とリタ本人の血が違うはずがないのだ。
あの婚約式にいたリタが影武者ではない限り。
「僕はとある筋からステラの血も持っていてね?ステラの血も調べたら、婚約式の時の血判とステラの血は完全に一致していたよ。だからこそ、ステラがリタの影武者だとわかったんだ」
「…っ」
僕の言葉にいよいよ伯爵は何も言えなくなり、表情を歪ませる。
「言い逃れはできないよ?伯爵。それでステラは今どこにいる?」
「…し、知りません」
「知らない?この状況でまだとぼけるのか?」
苦々しい顔でこちらから視線を逸らす伯爵に僕は逃げることは許さない、と強い視線を向ける。
本当に伯爵はステラの居場所を知らないのか。
疑い深く伯爵を観察していると、焦った様子でセスが口を挟んできた。
「伯爵様は本当にステラ様の居場所を知りません。ステラ様は俺が匿っておりましたから」
「場所は?」
セスの言葉にユリウスが反応し、素早くその場から立つ。
「今すぐ教えろ」
冷たく周りを圧倒する雰囲気を放つユリウスにはもう余裕はないようだった。
帝国一の天才と謳われる騎士の本気の殺気はこんなにも痺れ、息をすることすらも苦しくなるとは。
さすがとしか言えないユリウスの迫力だ。
たった数分であったとはいえ、セスからステラの名前が出て今までよくユリウスは耐えたものだ。
きっと今すぐにでもステラの居場所を聞き、駆けつけたい気持ちを必死に抑えていたのだろう。
「ステラ様は俺の屋敷にいます。そこにリタ様とルードヴィングの騎士の精鋭たちも向かったと思われます」
「わかった。すぐに向かおう」
「はい、ご案内いたします」
セスとユリウスがこちらの様子など一切伺うことなく、早々にこの部屋から出て行く。
2人が慌ただしくこの部屋から出て行ったことによって、この部屋には僕と伯爵だけが残された。
ユリウスはステラのことになると周りが見えなくなるようだ。
「皇族を欺いたこと、罪のないステラを殺そうとしたこと…、詐称に殺人未遂、罪はまだまだたくさんあるけど、一先ずはこの2つで伯爵を連行しようかな。ピエール」
「はい」
部屋の外へと待機さえておいたピエールの名前を呼ぶとピエールは何人かの屈強な騎士を従えて、この部屋に入ってくる。
「ルードヴィング伯爵を連行して」
「かしこまりました」
そして俺にそう指示されたピエールは騎士たちに視線を送り、俺の指示通り伯爵を捕えさせた。
伯爵は案外あっさりと騎士たちに囲まれながらも連行されていった。
「…さて」
一仕事終えた僕もさっさとこの部屋から出て、馬車へと向かう。
僕だってステラのことが心配だ。
本当はユリウスと同じようにこの部屋から飛び出して、ステラの元まで駆け付けたかったが、伯爵を捕えるという仕事が僕にはあった。
その仕事を放棄する訳にもいかないだろう。
僕は馬車へ向かうまでに適当に使用人たちに声をかけ、セスの屋敷の場所を知る者を見つけると、その者と一緒にセスの屋敷へと向かったのであった。
どうか無事でいて。ステラ。




