32.魔法薬の真相
私から全てを聞き終えたキースのリアクションはこうだ。
「え、えぇ…。僕ってやっぱり天才だったんだぁ。さすが帝国一…いや大陸一の魔法使いだよ」
私の話を全て聞き終えたキースは波乱万丈な私の半年を労うでも心配するでもなく、自身の魔法薬の功績をうっとりとした表情で称えていた。
キースらしい反応だ。
「…それで現状について何だけど私の体に一体何が起きているの?」
キースらしさに呆れながらも、ここまで来た目的である私の体の現状についてキースに聞く。
するとキースは緩み切った顔に力を入れ、改めて真剣な表情を作り、難しそうに話し始めた。
「…まず、僕が試験的に作った〝時間を戻す〟魔法薬は君を見ればわかるけど、まぁご覧の通り失敗に終わった。だけどこれがただの失敗ではなかったんだ。
僕が作った魔法薬の本当の効能は〝体の時間を戻す〟ものだったんだよ。だから君の体も時間が戻って幼い姿になった。
…天才だ。天才だよね、僕。〝時間を戻す〟ことには失敗したけど、〝体の時間を戻す〟ことには成功したんだ。
まだ世界には時間に関与できる魔法薬は存在しない。それを僕は作ったんだよ!」
せっかく真剣な表情を作り、難しそうに話していたキースだが、喋りながらもまた興奮し始め、最後にはこちらに力強く自身の功績を訴えかけてきたので、私は思わず苦笑いを浮かべる。
〝体の時間を戻す〟魔法薬など、見たことも聞いたこともないので、キースがどれだけ凄いことを成し遂げたのかはわかるのだが、別にそれを私は求めてなどいない。
私が求めていたのは、全てをやり直せる〝時間を戻す〟魔法薬だ。
〝体の時間を戻す〟魔法薬で幼くなりたかったのではない。
まぁ、そんなことは不可能に近く、難しいことなのは重々承知しているので、もちろん本人に面と向かっては言えないが。
「それでその天才が作った〝体の時間を戻す〟魔法薬で今の私があることはわかったけど、どうして私の体は完全には戻れなかったの?」
大興奮のキースによって話が逸れてしまったので、改めて私は次の疑問をキースにぶつける。
するとキースは「んん」とわかりやすく咳払いをし、また改めて真剣な表情を作った。
どうせゆるゆるになるのだから表情など作らなくてもいい気もするが、雰囲気を大事にしたいのだろう。
「ステラ、君の体が完全に戻らなかったのは、それは僕が作った〝体の時間を戻す〟魔法薬がまだまだ未熟で失敗作だったからだ。最初こそ、成功していたけど、未熟なものだったから、今の結果があるんだと考えられる。それもあの様子から見て君の体は今、無理矢理体の時間を戻したり、本来の姿に戻ったりしている。このままだと君、死ぬね」
「え」
死?
突然淡々とキースに死を宣告されて眉間にしわを寄せる。
え、待って。
ルードヴィング伯爵に殺される以前に、私このままだと死んじゃうの?
誰かに殺されるとかじゃなくて、あの生き残る為に飲んだ魔法薬のせいで?
「え、死?死んじゃう?」
軽くパニックになりながらも、何とか言葉を発するが、頭の中はこんがらがったままだ。
確かにこのまま放置すれば死ぬかも、とは思っていたが、まさか本当に死ぬなんて。
少しずつ状況を理解し始めた私はその場で項垂れた。
ここまで何の為に頑張ってきたんだ…。
「大丈夫落ち着いて。このまま放置すれば死ぬって話だよ。要は今、君の体にある〝体の時間を戻す〟魔法薬の効力を消せばいい。僕たち魔法使いは基本、魔法薬を作る時は万が一に備えて解除薬も作るんだ。それを飲めば君は死なないよ」
死を宣告された私を慰めることなく、淡々とただ大丈夫だとキースが私に伝える。
それを聞き、今度は安堵から私の体から力が抜けた。
よ、よかった…。
「君、ロイ殿下もそうだけどフランドル公爵家のユリウス様にも追われているでしょ?どうせ魔法薬の解除には時間がかかるし、しばらく僕がここで君を匿うよ」
「あ、ありがとう…」
「別にお礼なんていいよ。君のお陰で僕の研究は大きく前進した訳だしね。それに解除することも研究の内だ。…それで魔法薬解除後はどうする予定?」
「…帝国外に逃げるつもりだよ。ルードヴィング伯爵にも命を狙われているしね」
「じゃあ、解除後はここでその逃走の準備をすればいいよ。帝国外に無事出る為には準備が必要でしょ?その間に僕は〝体の時間を戻す〟魔法薬についてさらに研究を進めるから。実際に魔法薬を服用した君から取りたいデータもたくさんあるし。いいよね?」
「うん、もちろん」
私の話を聞き、最高にいい条件を提示するキースに私は頷く。
キースの反応が予想通りでよかった。キースなら私の姿を見て研究のついでに保護してくれると思っていた。
これで何とか死なずにこの帝国から脱出できそうだ。
「…いい顔しているけど、これから1週間、覚悟しておいた方がいいよ?未知の薬の解除なんだ。おそらくとんでもなく苦しい思いをするはずだよ。それこそ死を意識するほどの」
安堵する私にキースが不気味な笑顔を浮かべる。
あれ?まだ安心できる感じではない?