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24.愛のかたち





「…ねぇ、そこから離れてくれる?ユリウス様は私のものなのよ?他の誰もユリウス様に触れることも近づくことも同じ空気を吸うことさえも全て許されていないのよ?」




ゆっくりと一歩ずつそう言ってクスクスと笑いながらアリスがこちらに近づいてくる。めちゃくちゃなことを言っているアリスに私は顔をしかめた。

苛烈だとは知っていたが、これは苛烈を通り越して狂っている。おかしすぎる考えだ。




「…ユリウスはアナタのものじゃないよ。その変な考え、改めた方がいいんじゃない?」


「変?私が?何で?愛するとはそういうことでしょう?」


「…」




違うんじゃない?


そう今にも口から出そうになったが、その発言は火に油を注ぐような気がして、何とかグッと私は耐えた。




「離れないのなら死のうね。アナタ1人葬るのなんて簡単なのよ?」




なかなかユリウスから離れない私についに痺れを切らしたアリスが短剣を前に突き出してこちらに突っ込んでくる。


それを私は難なく避け、ついでに自身の剣で短剣を叩き落とした。

落ちた短剣をアリスが拾えないようにそのまま遠くへ蹴り飛ばすことも忘れない。

短剣は私に蹴り飛ばされたことによって勢いよく飛んでいき、カン!と遠くの壁にぶつかって止まった。




「アナタ1人の相手くらい簡単なのよ?」




先ほどのアリスの言葉を少し変えて挑発するように私はアリスを見る。




「…な、な、なっ」




するとアリスは悔しそうにぶるぶると震えて私をその場で睨みつけた。


もうアリスの手には凶器はない。

魔法薬を持っているor今現在仕込まれている可能性もあるが、それでも私の方が一枚上手だろう。

早く状況を理解して諦めて欲しいところだ。




「…私の邪魔をするものは消す!全部!」




だが、さすが苛烈なユリウス信者、アリスだ。

アリスは諦めるどころか懐に忍ばせていた何やら怪しいおそらく魔法薬の入った小瓶を握り締め、腕を大きく振り上げた。




「…っ!?」




あれは何の魔法薬なの!?


アリスのそんな行動を見て私は咄嗟に自身の口元を手で覆う。

だが、アリスの手にある魔法薬がこの場にぶちまけられることはなかった。


ジャンがやってきたからだ。




「そこまでだ!」




ジャンは最初にこの地下室に到着すると、アリスの振り上げられた腕を力強く握った。




「いや!やめて!離しなさい!」




アリスはそんなジャンに激しく抵抗しているが、さすがに屈強なフランドルの騎士相手ではどうにもならず、呆気なくその場で取り押さえられる。


た、助かった…。


ジャンの到着に安堵していると、他の騎士たちも続々とこの場に到着した。




「ユリウス様!」


「今お助けします!」


「この鉄格子を壊せ!」




騎士たちが慌ただしく、ユリウスの救出を始める。




「いや、いやぁあああ!私のお城!私のユリウス様!やめて!やめて!壊さないでええええええ!!!!」




そんな騎士たちの様子を見て、アリスはジャンや他の騎士たちに取り押さえられながらも、ずっと狂ったように叫び続けていた。


こうしてユリウス行方不明事件は幕を閉じたのであった。






*****





「それじゃあ、ステラ、おやすみ」


「…うん、おやすみ」




ユリウスがいつものように冷たい表情のまま私に〝おやすみ〟を口にし、ソファから立つ。

私はそんなユリウスにこちらもいつものように笑顔で〝おやすみ〟を口にした。


今の私は本当にいつものように上手く笑えているのだろうか。ここへ戻ってきてからも私の心はずっとモヤモヤしたままだ。


クラーク邸から帰った後、弱っていたが無事に帰ってきたユリウスを見て公爵邸中の使用人たちは喜び、安堵した。

夫人に至っては安堵しすぎてユリウスの姿を見た瞬間、大粒の涙をポロポロと流していた。




「よかった。本当によかった」




そう何度も言って我が息子を抱きしめる夫人の姿に使用人一同も泣いていた。

そして私も同じ気持ちだった。


ユリウスがちゃんとここへ帰ってこられてよかった。

もし、私があの時公爵たちの会話に気づかなかったら。

もし、私がアリスを疑わなかったら。

もし、公爵が私の話を信じなかったら。

もし、クラーク邸へ行けたとしてもユリウスを見つけられなかったら。

ユリウスは今もあそこであんなふうに囚われたままだったのだ。


天才騎士として名を馳せているあのユリウスが目に見えてやつれ、鉄格子や足枷で物理的に囚われているあの姿を思い出したくなくとも思い出してしまう。


もうあんなユリウスは見たくない。

思い出すたびに胸が苦しくなる。


早くここから離れたい。

早くここから逃げ出したい。

そんなことばかり思っていたはずなのに、気がつけば私の中でユリウスの存在は大きなものとなっていた。


いつか必ず私はユリウスの前から姿を消すが、それでも私はユリウスのことが大切なのだ。




「…ステラ」




ユリウスに変な気は使わせまいとずっと笑顔でいた私だったが、やはり上手く笑えていなかったようで、ユリウスが無表情ながらもどこか心配そうに私を見つめた。




「今日は一緒に寝るか」


「え」


「その方が安心できるだろう」




ぽん、とユリウスが私の頭に優しく触れ、伺うように私の瞳を覗き込む。

とんでもないユリウスからの提案に私は目を丸くするが、どうしてもユリウスからのこの提案を突っぱねられない。


何故だろうか。今日はユリウスと離れ難い。




「…うん。一緒に寝よう、ユリウス」




私は自分の気持ちに素直になり、少しだけ気まずそうにそう言って頷いた。






*****





sideユリウス




同じ布団の中でステラがぐっすりと眠っている。

今日はいろいろなことがあり、疲れていたのか、ベッドに入るとステラはすぐに深い眠りについた。




「…ん~」




少しだけ眉間にしわを寄せているステラの眉間に自身の指を置き、少しでもそれが和らぐようにする。

するとステラの眉間からしわはなくなり、また気持ちよさそうにステラは寝始めた。


今日、俺を助けに剣を持って駆け寄ってきたステラが、俺を庇うように剣を構えたステラが、あのもうしばらく姿を見せない聡明なリタ嬢に見えてしまった。

今までも何度もステラにリタ嬢の幻覚を見てしまうことはあったが、今日は今までのものよりも鮮明なものだった。


あれは幻覚ではなかった。

本物だった。


ステラとリタ嬢は違うが同じなのだ。


俺の横で気持ちよさそうに寝ている少女、ステラの頬に俺は優しく触れてみる。

そこはとても柔らかく、まだこの少女が幼いのだと改めてわからされた。


今日見た勇敢な少女はまだまだ守られるべき子どもなのだ。


それでもこの愛らしい少女はいつもどこかへ消えようとしている。

行くあてなどないのに何故かここから出たがるし、一度自力で勝手に出て行こうとした時もあった。


だが、そんなステラが俺に言ったのだ。


俺の専属護衛だから俺を助けに来た、と。


そう初めて言われた時のあの感覚を今でも忘れられない。

心の内側から喜びが押し寄せ、どのように表現するのが適切なのかわからないほどの高揚感をあの時俺は覚えた。

まるでこれからも俺の専属護衛とてステラが側に居続けてくれると言ってくれたような気がした。


あんな女に出し抜かれて囚われてしまったことは今でも悔しいし、嫌な経験だ。

だが、あのステラの言葉が聞けたのなら悪くなかったとさえ思えてしまう。


今、一緒に寝る選択をしているのも、ステラが離れ難そうにしていたから、というのもあるが、俺もステラと離れ難かったからだ。

俺もステラとできるだけ一緒にいたい。

これからもできればずっと一緒にいたい。


その為にはやはりステラを今のままの中途半端な立場にしておくわけにはいかない。

さっさと家族になってしまった方がいい。

父も母もステラのことを気に入っている。きっと俺がステラを家族にすることを提案すれば、快く受け入れ、共にステラを家族にできるように動いてくれるだろう。




「…ステラ」




愛している。


言葉にまでは出さなかったが、頭に浮かんだ言葉に俺は納得した。

俺はステラを愛しているのだと。

だからこんなにも気になって気になって仕方なかったのだと。






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あぁ、ユリウスよ恋に目覚めたか…… 恋は難しいぞ(偏見でぇす!)
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