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わたしの大切なおとうと  作者: 杏樹まじゅ
【第八章.お姉ちゃんの生き方】
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【八十四.生き方】

作:杏樹まじゅ

絵:越乃かん

 平成二十四年九月三日。月曜日。午後二時十一分。わたし、五歳。かいちゃん、四歳。


「うわあっ」


 どっどっどっ。

 心臓が早鐘のようにアバラの中で響く。

 またあの夢だ。あのワゴン車で、あのお兄さん達に酷いことをされる。そして、窓の外にいるかいちゃんに、決して声は届かない。


『おねえちゃんだもんな。守れるよな? おとうとのこと』


 その声がした後、わたしの目の前で、かいちゃんが酷いことされる。全身血まみれのかいちゃんが、たすけてたすけてと泣き叫ぶ。

 もう、何度目だろう。夜寝た時も、お昼寝の時も。毎回毎回この夢を見て飛び起きる。

 ずきん。

 あの赤いメガネのお医者さんに縫ってもらった下腹部が、すごく痛む。


 あれ。


 かいちゃんと、わたしと、いっしょに寝てたはずのお母さんが居ない。


「あ……あ……」


 なんか、へんな声がする……? どこからだろう。お母さんはどこ?

 わたしは、お父さんとお母さんの寝ているお部屋の戸をそっと開けた。


 ……


「何見てんのよ」


 目の前で、裸んぼのお母さんとゆきひこ叔父さんがベッドの上にいる。寝そべった叔父さんの上で、裸のお母さんが座ってる。


「なにしてるの」


 お母さんは()()()()()()()()()()()()()、わたしに言った。


「私の子だからね、あんたも、すぐわかるわ……こうするのよっ」

「ううっ、ようこさんっ……もうっ……」


 びくん。わたしは身体を強ばらせた。


「はあ、はあ……ふふ、いいこと教えてあげるよ。あんたもね、欲しいものがあったら、こうやって盗るのよ。あんたみたいな汚れちゃった女はね、こうやって生きるしかないのよ」

「ははは、ようこさん、悪女だねえ」


 そうか……そうか。

 わたしは、ようやく理解した。

 わたしの生き方を。


 わたしは要らない子。

 わたしは汚れた子。


 わたしみたいに汚れた子は。

 お母さんみたいにして、ああやって、生きるのだ。

 身体の全部を使って。


 ゆきひこ叔父さんが笑う。お母さんも笑ってる。


 そのひと月後だった。お母さんがかいちゃんを連れて出ていってしまったのは。


 ……


 それから、わたしは生きた。

 おとうとを守るため、生きた。

 おとうとに一ミリも傷を付けないようにするため何でもした。出来ることの全てをやった。

 そうやって生きた。


 そうやって、生きてきた。


 ……その結果、おとうとは死んだ。それでも、生きた。生きようとした。


 ……


 そして令和七年一月二十日。月曜日。午後十時七分。わたし、十七歳。

 かおりさんを殺したあと。わたしの上にのしかかって殴りながら、こうせいさんが、言った。


「おねえちゃんだもんな。守れるよな? 今夜のこと」

挿絵(By みてみん)

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