表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしの大切なおとうと  作者: 杏樹まじゅ
【第八章.お姉ちゃんの生き方】
80/85

【八十.封をした記憶・一】

作:杏樹まじゅ

絵:越乃かん

「……思い出せるといいですね?」


 白鷺みそらさんの言葉が何度も何度も蘇る。


 がつん。がつん。


 わたしは、殴られている。こうせいさんにのしかかられ、犯されながら、顔面を。

 何度も。何度も。

 殴られる度、ある景色が頭に何度も再生される。

 何度も。何度も。

 これは……四つの時の記憶だ。

 なんで、四つの時の記憶が? なんでだろう。


 教えて、白鷺みそらさん……教えてよ。


 ……


 平成二十三年五月十五日。日曜日。午後二時十一分。わたし、四歳。かいちゃん、三歳。

 家族みんなで山梨のキャンプに来た。もともとアウトドアとは縁が遠かった荒浜家だけど、去年マンションの自治会で公園でのバーベキューに参加してから、アウトドアの魅力が我が家にも浸透し始めた。去年は一度バーベキューを隣の加藤さんと成功させて、そして今シーズン、初めてキャンプに挑戦することになった。家族四人に、ゆきひこ叔父さんも飛び入り参加した。空は五月晴れ、絶好のキャンプ日和で、新緑のキャンプ場は駐車場に渋滞が出来るほどの混雑だった。

 お父さんのくるまは、運よく駐車場のすみに滑り込む事が出来た。わたしは初めてのキャンプで大はしゃぎだったけど、お父さんもお母さんも、私のことを見ていない。

 朝からかいちゃんの具合が悪く、せっかく買ったばかりの新車の自動車の中で吐いたからだ。

 それでも、具合の悪いおとうとにはお母さんがついて、お父さんがテントを立てた。私の好きな黄色で、可愛いテント。ホームセンターでわたしが一目惚れして、お父さんに頼み込んで買ってもらったのだ。やっと立ったテントだけど、その中でかいちゃんがまた吐いた。今度はお父さんもついて、二人ともわたしを見なくなってしまった。

 だからわたしは、河原で、石を投げて遊んでたけど、それでも一向に大好きなバーベキューも始まらない。暇だったから、どんどん黄色いテントから離れていった。黄色だから目立つから、大丈夫だと思っていた。


「なぎさー? あんまり遠くへ行っちゃだめよー」


 お母さんが遠くのテントの中で呼んでいる。

 でも、渓流の音にかき消されて、わたしの耳にはほとんど届いていない。

 わたしは歩く。ずんずん歩く。

 普段来ない、山の中の渓谷。空気も美味しいし、川のお水もとてもきれい。きらん。あ、魚だ!

 わたしは川に突き出した岩の上に乗った。ピンクのくまのワンピース。ちょうどサイズアウトしていて、かなり丈が短くなっていた。でも、そんなの気にしない。わたしはきらきらと背中を光らせる小魚に夢中になっていた。

 その時。


「やあ、お嬢ちゃん……ひとり?」


 知らないお兄さんが、声をかけてきた。

 なんだろう……なにしてるのかな。カメラ? みたいなのを持っている。


「あっちにお兄さんのお友達がいるからさ、いっしょに遊ぼう?」


 わたしは、お兄さんの差し出した手に右手を預けて岩から飛び降りた。


 ……


「思い出しましたか、先輩」


 また、白鷺みそらさんの声が、頭の中で響いた。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ