↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしの大切なおとうと  作者: 杏樹まじゅ
【第六章.迷子のいのち】
57/85

【五十七.居場所】

作:アンジュ・まじゅ

絵:越乃かん

 今令和何年? 何月何日? 何曜日? 今何時? わたし何歳だっけ?

 おとうとのかいちゃんも、身体を重ねて精神を安定させていた森田りく君も、どちらも失ったわたしの心は、ますます不安定になった。現実からの乖離も酷くなっていった。


 ……


「りっくん」という名の妄想の彼氏が出来た。ちょうど読んでた青春もののウェブ小説で、主人公が窓際に座るヒロインに告白しているシーンがあった。だから、現実の記憶とフィクションがごっちゃになってしまった。帰りのバスの中でも、ハンバーガー屋さんでも、ひとりでぶつぶつ話していた。


 ……


 六月八日。命日だと勘違いしていたあの日。つわりが酷かった。トイレでげえげえ吐くわたしのことを、心配したおばさんと喧嘩になった。そのまま家を飛び出して、視界の端にかいちゃんを見かけて、走って、小平まで行ったりもした。

 もはや家はわたしにとって、ただ寝に帰るだけの場所になっていた。


 ……


 飛び降り自殺騒ぎも起こした。

 お姉ちゃん、うちもうだめかもしんない。頭の中でかいちゃんのその声が突然よみがえって、無数に乱反射して、頭が割れそうになった。だから日本史の時間、教室のある二階の窓から先生の静止を無視して飛び降りた。頭を打って脳震盪を起こした。多摩南部地域病院に運ばれたけど、大した怪我じゃなくてその日のうちに返された。お腹のかいちゃんは無事みたいだったし、幸い誰にも気付かれなかった。

 でも、この前のコンドーム騒動と相まって、好奇の目がいやで、だんだん学校にも行かなくなっていった。


 ……


 バイトは森田りく君が死んだあとも続けてた。一生懸命働けば、二人のことが忘れられるかと思っていた。

 けれど、仕事で事務所に入った時。トイレに入った時。何度も何度も川原さんは、わたしのことなんかお構い無しに迫ってくる。正直毎日のように相手にしていて痛くて痛くてしかたない。

 二分遅刻したある日。その日はつわりが酷く出た。トイレで吐いてるところを彼に見られた。そのまま、避妊もなしにされた。わたしはこれ以上はお腹のかいちゃんに悪影響がでそうで怖くて、いつもよりうんと必死に暴れた。彼の腕から逃げ出して、事務所から出た半裸のわたしを川原さんは追った。だけど、彼は跳ね飛ばされた。わたしが音を聞いて振り返った時、トラックに跳ねられた川原さんは、反対車線を走っていた別の乗用車に更に轢かれて、ぺしゃんこになっていた。大きな事故だったので、その日のニュースで取り上げられていた。即死だったと、アナウンサーが淡々と説明していた。

 わたしもバイトは、その日のうちに辞めた。


 ……


 そうしてわたしは、この世のどこにも。

 居場所を無くしてしまった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。