表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしの大切なおとうと  作者: 杏樹まじゅ
【第一章.命日まで】
1/85

【一.告解】

作:アンジュ・まじゅ

絵:越乃かん

 わたしはくるりと、空を舞った。頭が物凄い勢いで冴えて、今までの人生がコマ送りに再生される。……これって、走馬灯ってやつ? 世界も同じに、ゆっくりになる。


 歩く人は誰もいない。区画整理された巨大な分譲マンションが整然と建ち並ぶ、夜の街。ここは多摩ニュータウン。日本で一番大きなニュータウン。その南大沢。午後十一時四十二分。

 よく見ると、遠くで一棟、煙が出ているマンションがある。火事だろうか。まだオレンジの光を放つ炎が、窓から吹き上がって上の階をも巻き込んで焼いていく。野次馬たちを掻き分けて、消防士たちの怒号が響く。サイレンの音が津波のように押し寄せる。

 数秒前まで、そこをけらけらと大笑いしながら走っていた「わたし」は、赤信号すらもう認識できていなかった。制限速度を大きく超えた時速六十五キロで走っていた銀のクーペが、そんなわたしを跳ね飛ばした。跳ねあげられた身体がひしゃげる。愚かで馬鹿なわたしは、ゆっくりと宙を舞う。でも、どうして跳ねられたのか、どうして自分がここに居るのか。……わたしにはもう、わからない。

 あら、きれい。見て? お月様がミラーボールみたいだよ。わたしの頭の上でくるくる回ってる。くるくる。くるくる。わたしのひしゃげた身体も回る。くるくる。くるくる。

 ……あっ。ねえ。大切なおとうとが。かいちゃんのいのちが。わたしの中で消えていく。待って。行かないで。わたしをひとりにしないで。かいちゃん、かいちゃん。ねえ、かいちゃん……お姉ちゃん。お姉ちゃんね。あなたが、あなたが大好きだった。大好きだったの。ただ、それだけだったの。

 くるくる。くるくる。地面が近づく。終わりが近づく。わたしの、終わりが。かいちゃんの、終わりが。

 ……ああ、そうだ、そこのあなた。そう、あなた。あなたに、今日まで生きたわたしの足あと。教えてあげる。要らない子だと言われた、女の子の一生を。わたしみたいに間違えないように。わたしみたいに大切なひとを亡くさないように。

 お願い。どうか、どうか。……どうか、聞いてくださいますか? わたしのこれまでの、一生を。どうか。


 ……ぐしゃっ。


 鈍い音を立てて、私は三十メートル先にあるアスファルトに大きくなったお腹から落ちて、そのいのちを潰した。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ