第9話 妖精の戦い #4
長くなってしまいました。
うん、疲れた……
やっぱりPCで書きたいです´`*
ワァァァァァァァァ!!!!!
(なんだか外が騒がしい……決着ついたかな?)
そう思ったチサトは控え室の出入口からステージを覗いた。すると、対戦していたと思われる2人が倒れていた。
『おおっと!両者最後の力を振り絞った魔法で、ダブル・ノックアウトだーっ!!しかし、これは困った!両者ともに決勝戦に進出出来ないとなると、すでに決勝戦にコマを進めたチサト選手が優勝となる!10カウント以内にどちらかが立ち上がれなかったら、その時点でチサト選手の優勝!カウゥゥゥゥゥント!!!!!』
ワン、ツー、スリー……
チサトは、出来るなら立ち上がらないで…と願った。
フォー、ファイブ、シックス……
ライリに仕えたいという強い想いを込めて念じる。
セブン、エイト、ナイン……
あと少し……!
『テン!両者立ち上がれず!優勝はチサト選手に決定!!』
………
『………あれ?』
アナウンサーの気合いの入った宣言。当然、会場は沸き上がる……はずだった。しかし、現実はまったく逆。あたりは静まりかえってしまった。
『えっと………』
アナウンサーは行き場をなくして戸惑う。会場はざわつきはじめた。
「なんか、興醒めしたな」
「結局、あのピクシーは運で生き残ったのか」
「裏で手を回してたんじゃないの?」
「失神させる魔法でも使ったんじゃね、どーせ」
「もしかしたら魔王様に頼み込んだ、とか?」
「あーあ、時間の無駄だった気がしてきたな」
「ちょっと、例のピクシー、覗いてるわよ。やっぱり何かしたんじゃない?」
各々《それぞれ》が各々に勝手な事を言い出し。果てにチサトに『出てこい』などと言うものが居て。それが波紋となって会場に広がり。負の感情を伴った空気が場を満たす。
「『まぁ、俺ならあんなヤツ、一撃だろうな〜。なんちて』」
よく通る、調子に乗った、誰のものだか分からない声。
この声が、チサトの『触れてはいけないスイッチ』に触れた。
「―――――っ!!!!!」
「え?うわ!あぁっ!!」
先程軽口を叩いた、声のよく通るオークが宙に浮かぶ。そして、観客席からステージの中央まで放り投げられた。
「いってて……なんなんだよまった……ヒィィッ?!」
「『私の事なんか、一撃なんでしょう……?だったら、やってみなさいよ……』」
チサトはステージの真ん中に向かってゆっくりと進む。その両手には、チサトの背丈の倍はあろうかと言う棍棒状の武器が一本ずつ。その目は虚ろだった。
「それはその、もののはずみというか……はは、嫌だな、本気にしないでくださいよ……」
オークは半笑いの状態で言い訳をする。それが、かえってチサトの中のリミッターを吹き飛ばす結果に繋がった。
「『言い訳するヤツ、嫌い』」
チサトは一瞬でオークの目の前に移動。
は?とでも言いそうな間抜けな顔をしたオーク。
次の瞬間、オークは消えていた。――否、吹き飛ばされていた。リミッターが外れた、チサトの狂撃はオークをステージの壁に叩きつけ、めり込ませる。オークはすでに気を失っていたが、チサトは容赦無く追撃するためにオークに向かって突進していく。
「『アハハハ!!私なんて一撃?アナタみたいなクズが、笑わせないで!!』」
チサトは左右の棍棒を振り上げる。そして――
ガッ!!
棍棒は、受け止められていた。
「『ライリ様まで、私の邪魔を……。たとえライリ様でも、容赦はしません』」
「ほぅ?なら、やってもらおうじゃないか。久々に本気で戦えて嬉しいぞ」
ライリはチサトの棍棒を握ったまま、詠唱する。
「『砕けろ』」
たった一言。チサトの棍棒は砂のように崩れ去った。チッと舌打ちをしてライリから距離を取る。その両手にはすでにエンプーサと戦った時の『白』と『黒』が握られていた。
|(詠唱無しで召喚……やはり、魔力は増幅……いや、もしや……暴走……?)
ライリは左右の手を開く。双剣『いざなみ』と『いざなぎ』が現れ、ライリの手中に収まる。そして――
ガガガガガガガッ
ライリとチサトの高速の戦いが始まった。2人の振るう4本の剣は鋭い閃光となって両者の間で閃く。チサトの剣には魔力が付加されているらしく、その一撃ずつが重たい。だが、ライリはそんな事は関係無いとばかりに剣を振るい、チサトの攻撃を防いでは攻めていく。チサトはチサトで、ライリの剣の一撃の重さをモノともせずに剣を振るう。
バリン!!
ライリの剣『いざなみ』が砕けた。と、思うと次に剣を振る動作をする間に新しく召喚されていた。今ライリが持つ剣は『いざなみ』、『いざなぎ』の劣化コピー。チサトを傷付けないために刃の潰れた武器を召喚していた。
「埒があかない……。召喚させて貰う!『我がうちに秘められた妖精の力よ、我が影に生を与えよ』召喚、シャドウパートナー!!」
瞬間、チサトの分身が召喚され、ライリに向かって4本の閃光が襲い掛かる。
「『我が魔王に与えられし民を守る為の力よ、我が剣を操り我を援護せよ』」
ライリが詠唱する。両手の双剣が浮かび上がり、チサトの攻撃を迎撃し始める。ライリも再び剣を召喚し、チサトに攻撃する。煌めく8本の閃光はまさに白黒乱舞。なんとも言えない美しさだった。だが、そんなことを言っていられない当事者の戦いは激しさを増す。
「『元素魔法、ファイアボール!!』」
「なっ?!『元素魔法、ブラストウィンド!!』」
チサトが『元素魔法』を使ったことに驚き、ライリは咄嗟に風系列の魔法で打ち消す。互いが4本の剣を持った、至近距離の戦い。その中で魔法を撃ち合う。
「喰らえッ!『フレイムランス』!!」
「防ぐ!『ロックブラスト』!!」
「チッ!『ダイヤモンドブリザード』!!」
「吹き飛ばしてやる!『エアロストーム』!!」
「焼き尽くせ、『業火灰塵』!!」
「真似事で倒せると思うな!『アッパーウィンド』!!!」
激しい魔法のぶつかり合いに、周囲にあった障害物は全て消し飛んだ。その粉が舞うのを見たチサトは舌打ちをする。
ガッ……ギィィン!!
2人の刃が激しくぶつかり、火花が散った。
「ヤバッ……」
「しまった!」
ドゴォォン!!!!!
2人の周囲で巨大な爆発が起きた。跡形もなく砕けた障害物の『粉』が充満し、それに火花が点火したことで発生した粉塵爆発だった。
「さすがに危なかったな……」
ライリは遥か上空で爆発を見下ろしていた。チサトがステージの端に待避しているのを見つけ、安心する。
(ライリ様)
(ドール!遅いぞ!)
(申し訳ありません。チサトの魔力を奪う魔方陣の用意をしていたもので)
(おぉ!それはちょうどいい!効果はどれくらいだ?)
(チサトの魔力を奪うには十分すぎる威力かと……)
(ダメだ)
(は?と言いますと?)
(『ちょっと強いピクシー』の魔力を奪うのに十分な魔法では足りない、と言うことだ)
(……。では、どのくらいに?)
(そうだな……。魔王級の魔力を奪い去るぐらい、だ)
(……。効果の及ぶ範囲は半径15センチ、時間は10秒)
(それで十分だ。合図をしたら設置。場所はステージの中央だ)
(了解しました)
ライリとドールは『意識』を介して行う『念話』で作戦を立てる。意識レベルで会話しているため、実際に掛かった時間はものの数秒だった。念話が終了すると、ライリは地上に降り立つ。チサトはライリに接近するように動いている。
「ライリ様……決着をつけましょう。私は、切り札を使わせていただきます」
「……良かろう、掛かってこい」
ライリは再び剣を召喚。そして自立行動の魔法を掛けた。
「『千にして一なるモノよ、ここに集いて敵を切り裂け』……妖精千撃」
チサトの詠唱。詠唱完了後に『シャドウパートナー』を召喚してライリに向かって突進していく。チサトの周囲の空間は揺らいでいた。
「『千撃解放』。『付加、火炎』」
ライリとチサトがぶつかり合う。2人の持つ4本の剣の閃光……だけではなかった。チサトの周囲の空間から槍が次々と飛び出し、ライリを襲う。その上、それぞれの槍には打撃力を高める『火炎』系列の魔法が付加されていた。4本の剣で防ぎきろうとするが、手数の差が圧倒的に違った。自立行動の魔法を掛けた剣が、チサトの攻撃の前に砕け散る。
「くっ……!」
思わず声を漏らすライリ。
「ここまで……か」
「ライリ様ともあろうものが、敗北宣言ですか?」
「『今のままで戦う事』が『ここまで』だ。魔王ライリの真の力、見せてやる!『我が力を縛りし結界よ、今我が力を解き放て』……解放!!」
パリィィィン!!
ガラスが砕け散るような音。それと共に、ライリの動きに変化が生じた。
「ハァァァァッ!!」
ライリの持つ剣は、途中で刃が3つに分かれた奇妙な形に変化する。気合の声と共に振られた剣は、チサトの剣と生み出す槍との攻撃を全て防ぎ、剣と槍を全て粉々に粉砕した。
「くっ……!!」
今度はチサトが声を漏らす番だった。くるりとライリに背を向け、距離を取るべく高速で移動しはじめる。
「逃がさんよ。『張れ!!』」
ライリは光速でチサトを追い掛ける。一瞬で追い付き、チサトを捕まえた。そして、チサトが逃げようと必死にもがくのを完全に無視して投げ技の姿勢に入る。持ち上げたまま空高くジャンプ。魔力を放出して地上へ。
「必殺……『天空落とし』!!」
チサトはドールの張った、魔力を奪い取るための魔方陣の中央に叩き付けられる。
「うっ………あぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!!」
チサトの絶叫。強く輝く魔方陣によって、一気に魔力を奪い取られる。
「ぅ………」
ぱたん。
チサトは気を失って倒れた。
「チサト!!」
大急ぎでチサトを抱えると、ライリは医務室へと飛んでいった。
この戦いをもって、近衛人決定戦は幕を閉じた。
優勝は変わらず、チサトだった。
『妖精の戦い』のバトル編はこれで終了。
次の話は、チサトがここまで強くなった理由、暴走の原因などなどを話す後日談となります。
色々と分からないことを多くした|(意図的なんですごめんなさい)ので、しっかり解説出来たらいいなと思います。