第8話 妖精の戦い #3
やっと書き上がりました!
戦闘の表現ばかりで色々読みにくいかも知れませんが、多目に見てやってください(汗
『Winner チサト』
今日何度目かの文字。これで、準決勝までコマを進めた。そろそろ、手の内も読まれて来た頃だろう。皆がチサトに『噂のピクシー』として注目している以上、何とか倒して嘲笑ってやりたいという者も出てくる。十分注意するように、とラムから言われ、ここまであまり戦闘パターンに変化をつけずに戦ってきた。変えた事と言えば、自己強化の魔法を重ね掛けするようになった程度。今まで、これで何とか勝ってきた。だが、それももう限界かもしれないな、とチサトは考えていた。さっきの戦闘では強化系魔法しか使ってこないと読まれ、遠、近距離両方での魔法攻撃に相手の隙を作る事が出来ずに、魔力切れを狙った長期戦になってしまった。さすがに、もう一度同じ戦法で戦ったら勝てないだろう。準決勝まで進む相手だ、攻撃範囲が広い魔法を連射されて逃げ切れないだろう。だからと言って、多くは無い手の内を晒す気にもならない。
|(仕方ない……幾つか、技を使うしかない……)
そう決めて、魔力の回復薬を一気に飲み干す。念のため、もう一本。魔力を消耗する戦い方をするからには、それなりに準備をしておく必要があった。
『準決勝第1戦を開始します。出場者はステージに出てください』
|(あ、私の番だ)
チサトは控え室から出る。ここからは閉鎖空間ではなく、ステージで戦うことになる。とは言ってもステージはとても広く、石でできたブロックが設置されている点は今までと何も変わらない。
チサトは暗い廊下を抜け、外に出た。
ワァァァァァァ!!!!
ギャラリーの歓声。
向かい側を見れば、チサトの対戦相手もちょうど出てきたところだった。
「あら、また逢ったわね。噂の妖精さん?」
対戦相手は、チサトにぶつかったエンプーサだった。
「はい……また逢いましたね。私にとっては、『遭った』ですが」
「あら、他人を災害扱い?」
「出来ることなら、貴女とは当たりたくありませんでした。なんと言うか、オーラが違うんです。貴女は、ただ者じゃない」
「ふふ……私に勝てたら、教えてあげるわ」
『対戦を開始します。Ready?……Fight!!』
「『我が内に秘められし妖精の力よ、我が足となりて力を貸せ』妖精魔法加速」
「『我が内に封じられし淫魔の魂よ、我が足となりて力を貸せ』技、加速」
戦闘開始の合図と共に魔法の詠唱を開始する。2人の詠唱は文句こそ違うもののほぼ同時に詠唱が完了、効果が現れる。一定の距離を保ちながら再び詠唱。
「『我が内に秘められた妖精の力よ、我が腕となって力を貸せ』妖精魔法蒐気、力」
「『我が内に封じられた淫魔の魂よ、我が腕となって力を貸せ』技、力」
チサトの詠唱は少し長いため若干遅れるが、2人はほぼ同時に詠唱完了。2人は互いに互いを目掛けて翔んでいく。
「『我が内に秘められた妖精の力よ、我が内に生まれし想像を具現せよ』召喚、双剣『白』『黒』」
「『我が内に封じられた淫魔の魂よ、我が内に生まれし想像を具現せよ』召喚、『ディモンズディナーフォーク』」
2人の手元の空間が揺らぎ、一瞬にしてチサトの右手には白い、左手には黒い剣が握られ、エンプーサの手には銀色に輝く、その背丈ほどもあろうかと言うフォークの形をした武器が槍のように握られていた。
ガキィィィン!!
チサトが2本同時に振り下ろした剣は、フォークの先で防がれていた。一瞬戸惑ってしまうチサトに向かって横凪ぎにフォークの柄が襲い掛かる。それを右手の『白』で受け止めようとするが、力で負けて弾き飛ばされる。体勢を立て直し、距離を取ろうとするがエンプーサは距離を開けさせない。チサトは防戦一方だった。
(やっぱり強い……!もう手の内云々とは言ってられないわね……)
そう思ったチサトは、下から振り上げられたフォークに乗って自ら空高くに舞い上がる。
「ふぅん……ピクシーならではの芸当ね。でも、空から攻めるには厳しいわよ?私のフォークの方が攻撃範囲が広いもの」
エンプーサは追いかけようとはせず、地上で槍を構えていた。チサトはその様子を見て、滞空するために羽を羽ばたかせた。
「『この星に生まれし元素よ、我が武器と共になりて力を貸せ』元素魔法、付加、火炎」
詠唱が完了した。みるみるうちにチサトの持つ剣が熱を発し、赤みを帯び始める。その様子を確認したチサトは、エンプーサ目掛けて急降下を始める。ニヤリと笑ってフォークを構えるエンプーサ。
ガッ……シュゥゥゥゥ……
チサトの剣とエンプーサのフォークが激突する。すると、激突した部分から煙が上がった。よく見ると、煙が上がっているのはフォークの先から少し離れた所だった。
「やっぱり。その武器、打撃用では無くて魔力媒体ですね?」
「くっ……」
「貴女はそれを通して魔力を結界のように広げてる。だから、剣を止められた」
「バレてしまっては仕方ないわね。でも、それでどうするつもり?見破られても魔力の盾は消えないわ!」
「いいえ、消えます。カラクリさえ分かれば、壊すのは簡単ですから」
「そんなの、ハッタリよ!」
エンプーサは大きくフォークを振り、チサトを引き離す。そして詠唱。
「『我が内に封じられた淫魔の魂よ、我が手に集まり敵を貫く槍となれ』必殺、ハートブレイク!!」
エンプーサはフォークを左手一本で持ち、右手に紅く輝く魔力の槍を生み出す。そして、チサト目掛けて投げ飛ばした。かなりの速度が出た槍は、チサトの右腕を掠めて反対側の壁に激突。大きな穴を開けた。
「うっ……」
槍が掠めた所からは血が滲み出ていた。綺麗に切られるよりも抉るように傷が付いた方が遥かに強い痛みを伴う。チサトは右手に持った『白』を落としそうになる。だが、落とす直前で何とか握り直した。
「かわいい体にこれ以上傷が増えないように、早く棄権したらどーぉ?」
「私は……棄権なんか、しません!!」
「ピクシーのクセに、生意気言うわね……。いいわ、もっと痛い目を見てもらおうじゃない!!『我が内に封じられた淫魔の魂よ、鎖を成して運命の輪を描け』惨め《みじ》な運命、ミゼラブルフェイト!!」
エンプーサの掌から、碇のような物が付いた鎖が伸びる。碇を剣で押さえようとするが、上手く剣を避けてチサトを追いかける。チサトは押さえるのを諦め必死にそれを避けるが、碇が自らを追いかけるように進むため逃げ切ることができない。チサトは右腕からの激痛で上手く飛ぶことが出来ず、いつものようなスピードは出せなかった。
(ここは使うしかない……!)
ぎゅっと剣を握る。
「『我が内に秘められた妖精の力よ、我が影に生を与えよ』召喚、シャドウパートナー!」
チサトは『左右に』飛んだ。鎖は右往左往し、ぐるぐると回り始める。
「ど、どういう事……?ピクシーが2人……?」
そこには、チサトが2人いた。容姿も、服も、持っている剣も、さっきつけられた傷も、全てが同じ。
「ちょ、これって反則じゃないの?!2対1よ?!」
『これはチサト様の技による一種の召喚術、武器を生み出すのと同じ原理であることから、ルール違反ではありません』
アナウンスが流れ、エンプーサは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「なら、どちらとも潰すまでよ!!『運命の鎖よ、我が指示に従え』!!」
エンプーサの鎖は右に飛んだチサトに向かっていく。
「今の貴女の弱点その1、鎖は片方しか追い掛けられない」
「クッ……!」
左に飛んだチサトはエンプーサのすぐそばまで肉薄する。振られた剣をエンプーサは何とか左手のフォークで防ぐ。
「弱点その2、片方しか手を使えなくなる」
チサトは両の剣で連続して攻撃を続ける。
ガギンッ!
「その3、魔力を鎖に集中する分、結界が弱まる」
チサトの攻撃によってフォークに張られた結界が少しずつ弱まっていく。
「その4。興奮してしまって、作戦を立て直すことを忘れてしまった。『白』、『魔力解放』」
ガガガガガガッ
チサトが振った『白』は解放された魔力に耐えきれず、途中で炸裂する。剣の欠片は全て前方に吹き飛び、まるで散弾のようにフォークの生み出す結界に突き刺さった。
バリィィィィィン!!
音を立てて結界が崩れる。それと同時にエンプーサの手からフォークが弾き飛ばされた。衝撃でエンプーサは体勢を崩し、鎖に注ぎ込まれていた魔力が弱まる。その一瞬で鎖を切断。エンプーサの頭に魔力で強化された『黒』の一撃を叩き込み、気絶させた。
先ほどまで鎖に追い掛けられていたチサトは、エンプーサを気絶させたチサトに近付くと、
「お疲れさま。『パートナー分解』」
労いの言葉を掛けて短く告げる。『シャドウパートナー』で生み出した、エンプーサを打ち倒したチサトの分身がチサトの前で消えた。
『Winnerrrrrrrr!!チサトォォォォォ!!!!』
アナウンサーの気合いの入ったアナウンスに、会場は沸き上がった。
いかがだったでしょうか?
チサトは頑張りました。
今回は色々とネタ要素が盛り込んであります。分かった方はニヤニヤしてください。分からなかった方は調べるか、スルーしてください。
なお、今回のネタの著作権は元になった作品、及びその作者様に帰属します。