第7話 妖精の戦い #2
こちらの不注意で書き上がっていた文を消してしまいました……。
そのショックから立ち直る前に文を思い出しながら書いたので、いつもの3割り増しでグダグダです。
申し訳ないorz
丑の月、第15日。
ざわ……ざわ……
辺りは騒然としていた。
この魔王城にいるほとんどの者が、魔王ライリの近衛人決定戦の会場に集まっているのだ。
この会場にライリはいない。『自分が一定の参加者に肩入れして何かをしないように』と自ら辞退した。ライリのご機嫌を取ろうとしたピクシー(チサトではない)は、その言葉を発したライリの表情に背筋が凍り付く思いをした。
所変わって。
チサトは参加者の控え室でじっとしていた。力の強そうなオーク、聡明な雰囲気を漂わせるウィザード……まわりにいる者全てが、自分よりも強そうに見えた。
ドンッ
「キャッ…」
誰かにぶつかられ、小さく悲鳴を上げてしまう。常に浮いているピクシーは、小さな衝撃でもバランスを崩してしまう。チサトも例外ではなく、体勢を維持できずに床に落ちそうになる。その時、後ろからスッと手が伸び、チサトを支えた。振り返ってみると、透き通るように白い肌、すぐに折れてしまいそうな細い腕、誰もが一瞬で虜になってしまいそうな美麗な顔をしたエンプーサが立っていた。
「ごめんなさいね、ぼうっとしていたものだから」
「あ、いえ…気にしないでくだ……さい……」
チサトはエンプーサの顔を見て赤くなっていた。
「ふふ……私の顔に何かついているかしら?」
「え、あ、わっ……ごめんなさい、綺麗だったからつい……」
「うふふ……貴女も十分可愛いわよ。縁があればまた逢いましょう、噂のピクシーさん?」
そう言い残して去っていく背中に、何か冷たいモノを感じたチサトにとって、出来れば対戦したくない相手だった。
進行役の男が簡略に説明を始める。参加者が多いので、予選はステージではなく、特別に用意された空間で戦うこと。
武器は刃がない、もしくは潰された物なら何をつかってもいいこと。
魔力の回復薬は沢山用意してあるから、対戦と対戦の合間なら好きなだけ飲んでもいいこと。
対戦はお互いの存在を認知してから開始すること。最初から姿を消して不意討ちするのは反則にあたること。
などが伝えられた。
「では早速、予選を開始させていただきます。対戦の組み合わせはあらかじめ此方で決めてあります。健闘を祈ります」
その言葉を聞きながら、チサトは転移魔法独特の感覚を味わった。
† † †
目をゆっくりと開けると、そこには無機質な空間が広がっていた。床は打ちっぱなしの石の床。壁らしき物は見当たらず、所々に石で出来たブロックが置いてあった。
そのブロックの中の1つ。柱のように高いブロックの上に、対戦相手がいた。
銀髪に整った顔立ち。真っ赤な唇から覗く尖った歯。黒い燕尾服に、表が黒、裏が赤のマントを羽織ったヴァンパイアが初戦の相手だった。
|(上位の魔属……初戦で当たるなんて……)
ヴァンパイアはニヤリと笑った。
「棄権するなら今のうちですよ」
「私は……棄権なんてしません」
「そうですか……なら、遠慮なく潰させていただきます!!」
ヴァンパイアはチサトに向かって一直線に翔ぶ。
「『我が内に秘められた妖精の力よ、我が足となりて力を貸せ』妖精魔法加速」
加速されたチサトの動きは、ヴァンパイアの大振りな初撃を易々と回避する。先程までチサトがいた地点の後ろにあったブロックが粉砕されて破片が飛び散った。着地、ターン、跳躍。ヴァンパイアは再び翔ぶ。だが今度はチサトの目前で着地し、左右の拳からのラッシュで攻める。チサトはそれを紙一重で避けながら魔法の詠唱をする。
「『我が内に秘められた妖精の力よ、我が腕となりて力を貸せ』妖精魔法蒐気、力」
詠唱完了。もう避ける意味は無くなった。チサトは迫ってきた拳を掴んだ。
「むっ?ふん……貴女程度の力では私を拘束出来るわけ……なっ、離れない?!」
チサトは強化された腕力でヴァンパイアの拳をしっかり掴んで話さない。ヴァンパイアは掴まれていない拳を振ったり膝蹴りをしたり色々するが、焦りで狙いが甘くなった攻撃は全てチサトに防がれる。そして詠唱開始。
「『我が内に秘められた妖精の力よ、我が内に生まれし想像を具現せよ』…召喚、妖精槍!」
チサトの腹の辺りの空間が揺らぎ、そこから槍が飛び出した。槍はヴァンパイアの胸に直撃し、ぐ…とくぐもった声を発する。いつの間にかチサトは消えていた。
「この……くそ……妖精風情が調子に乗るなよ!何処へ行った!!」
「ここですよ」
「なんだ……」
なんだと、とは言えなかった。チサトの槍による横薙ぎで後頭部を強打されたヴァンパイアは気絶し、倒れた。
『Winner チサト』
空中に浮き出た文字を見て、チサトはホッと息をついた。
† † †
ここにもホッと息をついた者が1人。ライリだった。
「ふぅ……この調子なら、チサトは大丈夫だな」
そう言うと、満足そうに酒を飲んだ。