第5話 魔王に仕える翼
どうして、魔王――ライリ様は私を傍に置いてくださるのだろう。
ラムは、廊下を歩きながら物思いに沈んでいた。
今は深夜。仕事を終え、自分の部屋に戻る途中だった。
「ラム」
「ライリ様」
ラムはいつの間にかライリの部屋の前を通りかかっていたらしい。ライリに呼び止められていた。
「今から少し飲もうと思うのだが……どうする?」
「私でよろしいならば…」
「よし、決まりだ。入れ入れ」
ライリは嬉々としてラムを部屋に入れる。
† † †
2人で飲むこと暫し。ライリもラムも顔が赤らんでいた。コップに注がれた酒をぐいっと飲み干すと、ラムは口を開いた。
「ライリ様……」
「うん?」
「どうして、『落ちこぼれ』と言われ一族から棄てられた私を拾い、あまつさえこのような立場に置くのですか。もっと適任な人がいるでしょうに……」
一瞬、ライリは目を丸くした。ラムがこんな事を胸に抱いているとは思ってもいなかった。
ライリはフッと笑い、こう言った。
「理由なんて……いつも簡単だ……」
コップの酒を飲み干し、ラムと自分のコップに酒を注いだ。
「一族に有ってお前には無いものは有るが、お前には有って一族には無いものも有る」
「一族に無くて私には有るもの……?」
「あぁ……なんだと思う?」
「…………私には、さっぱり分かりません」
まぁ、そんなものだと言って酒を一口。
「その、誠実さだよ」
「誠実さ……?」
確かに、ハーピーは一族でまとまって動いてはいるものの、上下関係は無いに等しく、誰かに仕えようとするなどと言う心は芽生えることはなかった。自分の好き勝手に相手を魅了し、富や命を奪う……それがハーピーであった。
しかし、ラムは違う。ラムは、自らを生んだ両親は勿論、歳上や目上の者にはきちんと敬意を払い、私利私欲のままに他人を魅了することはなかった。それが、『落ちこぼれ』と呼ばれた所以であった。
「ハーピーは本来、頭がいいからな。その頭を使わない、使おうとしないから大して栄えない。だが、お前は、別格だ」
「………」
ラムは静かに聞いている。ライリは、ラムの考えていたことを全て打ち崩した。
『私は、決して落ちこぼれ何かじゃない。ライリ様に仕える、れっきとした側近の1人……!』
ラムの口から言葉が漏れ、目には大粒の涙が浮かび、流れていた。
「おいおい……涙には弱いんだ、泣かないでくれよ」
ライリは困ったように言う。
「はい……私は、もう泣きません……!」
涙を払い、酒を一気に飲む。
その姿に、ライリは満足そうにうなずく。
一族から棄てられた時に味わった屈辱の涙を振り払い。
ラムは、過去との完全なる決別を遂げた。
いかがだったでしょうか?
ちょっとは感動モノっぽく……なってますかね?
ライリの部下に対する心遣いと、側近の1人であるラムの姿を描いてみました。
自分で書いてて泣きそうだったことは内緒です←実話