第4話 幻術師の回想
私――ドールはこの日1日の仕事を終え、床に就こうとした。したのだが……
(眠れない……)
困ったものだ。明日も何かと動き回らなくてはいけないのに。
ふっと天井を見つめると、なぜか私がここに、ライリ様に仕えることになった時の事が思い出された。
† † †
雨がどしゃ降りだった。
辺りは薄暗く、少々肌寒い。
そんな森の中を颯爽と歩く1つの影。漆黒の布地に白でいくつもの複雑な紋様が描かれたローブを纏った男が、魔王の棲む城へと向かっていた。
目指すものはただ1つ。
魔王の玉座
魔王を倒し、自分が魔王として君臨する。その野望を胸に、男は歩く。
城の扉を開け、中へ侵入する。その時、何人かの手先と思われる者に囲まれたが、一瞬で幻惑の世界に墜とす。出来る限り、未来の手下は傷付けたくなかった。この時のために磨きを掛けてきた幻術は、完璧に敵の行動力を奪い取る。
『魔王の間』
そう書かれた扉を見付けると、男はニヤリと笑い、扉を開けた。すると、魔王の玉座にドカリと座る者が1人。魔王は何ともない、普通の来客が来たかのように口を開いた。
「やぁやぁこれは遠いところからご苦労だったな」
「……魔王の玉座、この私がいただく」
「ふむ……そいつは出来ないな」
「なら、実力で奪わせて……」
ヒュン!
「実力で……なんだって?」
一瞬の風切り音がしたかと思えば、魔王の持つ2本の短剣が男の首からわずか1ミリの所で止まっていた。男は焦った。なぜ、反応できなかったのかと。男は悟った。自分は、魔王に勝つことは出来ないと。
「なぁ幻術師よ。この魔王の元に仕えないか?」
「な……」
「仕えない、と言うなら斬って捨てるが……それには少々惜しい人材だからな」
男の中に『仕えない』という選択肢は無かった。
† † †
気が付いてみると、朝だった。回想しているうちに眠っていたようだ。
しかしあの時、私は一歩も動けなかった。なのになぜ、『惜しい人材だから』と言えたのか。
……それは、本人のみが知ることか。
私は今日の務めの支度を始める。
ドールのエピソードでした。いかがだったでしょうか?
ちなみに、ドールは幻術の他に結界術にも長けています。『閉鎖空間』(一話参照)も結界術の1つです。
何はともあれ、ドールの事を書けて良かったー*´ω`