第13話 月光の独壇場《ステージ》
ヒュゥ……
大きな円い月が世界を優しく、穏やかに照らす。強くもなく、弱くもなく、ゆったりと吹く風は暖かな春を垣間見せるようで、未だ冬の冷たさを見せるようで。何とも言えない心地よさがあった。
ライリは、そんな夜空を翔んでいた。
別段目的があるわけでは無い。地上で生きるものが気ままに歩きまわる『散歩』と同じように、気ままに空を翔ぶ、ただそれだけの事。
その、『ただそれだけの事』がライリが最も気に入っている時間。日常に不満があるわけではない。むしろ充実した、ライリにとって全てが素晴らしい日常の中で、殊更気に入っているだけ。
ふわりふわりと、月を眺めながら浮かぶように翔んでいると、いつの間にか海の上にいた。いかん、と思って城の近くに戻ろうとすると、月の光が強く照らす島が1つ。ライリは興味を持ち、近付いて行った。
その島は、全てが静かだった。
様々の草木が根付き、そして生物が在るはずなのに、その息吹が全く感じられない。先程まで心地よく吹いていた風も、突然息を潜めてしまった。
空をふと見上げてみると、大きな円い月。いつもは穏やかなはずの光は今夜に限ってはあまりにも強く輝いていた。
その円い月は、一筋の光の柱を生んでいた。その先にあるのは、小高い山。何となく翔ぶ気になれなかったライリは、大きな円を見上げながら歩いていった。
山の麓に着くと、洞窟を見つけた。
ぼんやりと明るい洞窟の中を歩いていく。歪曲した道を行くと、視界が開けた。洞窟の天井に穴でも空いているのだろう、月光が独壇場を照らすように降り注いでいる。そして、照らされていたのは。
長く、輝く白銀の髪を白いリボンで結った少女。
少女は天を仰ぎ見るように立っていた。時折嗚咽のような声が聞こえる。
「そこに、いるのは、だれ?」
少女は震える声で問う。ライリは、気まぐれでやって来た者だ。迷惑だったらすぐに立ち去る、と言った。
「そんなことは、ないよ。ちょっと、おはなし、しよう?」
振り返った少女の頬には輝く銀の粒。
「あたしね、ひとりぼっちなの。おひさまに、あたっちゃ、いけないから、ここでくらして、いるの」
舌足らずな言葉で話す少女に、なぜ太陽に当たっちゃダメなんだ?と問う。
「わかんない。おひさまにあたっちゃ、いけないって、いわれただけ、なの」
なら、この島から出た事はあるのか?
「ないよ。あたしは、ずっと、ここで、くらしているの」
なら、外の景色を見せてあげよう。そう言って微笑みかけると、少女は表情をぱっと輝かせて、
「ほんと?うれしい!」
ライリに抱きついた。ライリは少女を抱き上げると、ふわり、と宙に浮かび上がった。そのまま月の光が差し込む穴をくぐり抜け、ゆっくりと回る。
「すごい!わたし、このしまを、こんなふうに、みるのは、はじめて!」
怖くないのか?とライリが聞くと、
「おねえちゃんが、いっしょだから、へいき!」
と答えが返ってきた。よし、島の外に出てみよう。そう言ってゆっくりと翔んでいく。やがて白銀の波の上に出ると、少女は興奮したように言う。
「きれいだね……。これが、『うみ』っていうものなの?」
あぁ、そうだよ。こんなに綺麗なものを知らないのは、勿体無いだろう?
「うん、もったいない!」
そのまま翔び続けて人間の住む場所に近付くと、腕の中の少女は急に震え始めた。どうした、と聞くと、
「そっちに、いっちゃ、だめ。あたし、こわいの」
と震える声が答えた。そうか、と言うとすぐに進む向きを変え、再び海の上に戻る。
夜の海で跳ねる魚を見せたり、水に触れさせたり。その水を舐めて塩辛い思いをしたり。その時、
ヒュゥ……
強い潮風が吹き、少女の髪を結わいていた白いリボンが風に飛ばされた。水に濡れる前に、と一瞬加速してリボンを掴むと、
「いまの、びゅんって、どきどきした!」
その後、ライリは何度か急加速をする事になった。
そんなことをしている内に月が傾いてきた。
「おねえちゃん、そろそろ、あたし、もどらなきゃ」
残念そうに呟くのを聞いて、ライリは来た道を戻る。
「ばいばい、おねえちゃん」
月光の独壇場まで少女を送り、2人は別れた。ライリがふと、ポケットに手を入れると、少女の白いリボンが。引き返して洞窟に入ると、少女の姿は無かった。代わりにあったのは、月の明かりに照らされ輝く、一輪の花。葉は銀色に輝き、花弁は雪のように白い。
『おひさまに、あたっちゃ、いけないの』
そう言った少女の言葉を思いだし、ライリは木の枝と自らの黒いマントで即席の日傘を作り、その場を後にした。
† † †
翌日の早朝。
ライリは、ドールを連れて少女と出逢った島に向かった。洞窟に入ると、ライリの作った日傘の影に入る、白い花。ドールは驚きの声を上げた。
「これは、遥か昔に絶滅したと言われた『月光草』と言うものです。どうしてこれを?」
ライリは、昨晩逢った少女の事を話した。
「にわかには信じられませんが……。この、『月光草』は日光に当たると枯れてしまいます。また、薬草や魔術の触媒としての効果も高く、一時期乱獲されていたようです。もしかしたら、この一本が最後の生き残りで、ライリ様に助けを求めたのかもしれませんね」
この草を栽培して増やすことは出来るか、そう問うたライリは真剣な眼差しだった。
「出来ますとも」
ドールは自信ありげに答えて、こう続ける。
「こんなにも珍しい種です。絶滅させるなんて勿体無い。今晩、城に移しましょう。それまでに、月光草専用の栽培機を作り上げますよ」
そうか……。安堵の声。今は立ち去りましょうと言うドールに頷き、歩き出そうとするライリ。
『ありがとう、おねえちゃん』
少女の声が聞こえた気がした。
今回、少し違った書き方をしてみました。いかがだったでしょうか?
以下、作者の独り言です。
興味の無い方は流して下さい。
この13話、ネタに困っているときに、ふと思い付いたストーリーを書いたのですが。実はプロットを用意せずに思い付くままに書きました。
敢えてプロットを用意せずに、今自分が何を思い描いたのかを表現してみたかったのです。書き終わってからドールとの対話の場面や文章の誤字脱字などを修正しましたが、『少女』との件は一切変えていません。
そんな事はもっと上手くなってからやれ、と言われそうですが、私の中に生まれる世界に少しでも、触れていただけたら嬉しいです。
最後に。本当にネタが思い浮かびません。誰か助けて(ぉぃ




