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魔王の日常  作者: НАЯЦ
21/28

第11話 地底からの来訪者 前編

長らくお待たせしました。

今回は予想以上に長くなってしまった為、前・後編に分けて書きたいと思います。


では、お楽しみ下さい。

グラッ……ゴゴゴゴゴ……


「ほぇ……?」


魔王・ライリの部屋を掃除していたチサトの視界がグラグラと揺れる。その感覚に目を回したチサトはフラフラと着地し、床に膝をつけた。しばらくしてそれが収まると、チサトは再び宙に浮かび上がる。


「また地震かぁ……最近多い……」


そう。近頃地震が頻発していた。今までは一月に1回あるか無いかだったのに、今は七日間で5回も起きていた。


ガチャッ


『魔王の間』の扉が開き、ライリの姿が現れた。すぐにその事に気が付き、チサトは声を掛ける。


「ライリ様、お戻りですか」

「ん、あぁ。ちょっと、な」


ライリの声は沈んでいる。チサトは『何かあったのか』と訊きたい所だが、無用な詮索のような気もして言い出せずにいた。


「なぁ、チサト」

「はい、なんでしょう?」

「最近、地震が多いと思わないか?」

「そうですね……確かに多い……と言うより、多すぎな気がします」

「ふむ……やはりそうか。よし、一丁捜査と行こうか。また部屋を空ける。留守を頼む」

「かしこまりました」


そう言って部屋を出ると、向かったのは訓練場。そこには、部下との組手をしているバスクがいた。組手が一段落した所を見計らって声を掛ける。


「やってるな、バスク」

「おぉ、ライリ様!どうなされましたか?」

「うむ。このところ地震が多い。もしかしたら人間どもが地中から攻めてくるのかもしれないと思ってな」

「むぅ、そうですか……俺に出来ることは?」

砂男サンドマンたちを貸してくれ。地中の捜査をして貰いたい」

「了解しました、すぐに呼び集めましょう」


そう言って奥の部屋へと向かうバスク。待つこと数分、バスクが戻ってきた。


「砂男隊の隊長に声を掛けました。まもなく、ここに来る筈です」

「すまないな、手間を掛けて」

「いえいえ!ライリ様の命令ならこれくらい何でもありません!」


ガハハと大口を開けて笑う。この大柄さが、バスクの良いところの中の一つだった。


「お待たせしました、魔王様」


現れたのは、先が尖った丸いツバの帽子を目深に被り、足の方が所々擦りきれたローブを纏った男。襟を立てているため顔はほとんど見えないが、ゴツゴツとした岩の肌が僅かに見える。


「うむ、地中の捜査をして貰いたい。最近頻発している地震の原因があるやも知れん。動かせるだけの人員を動かして早急に頼む」

「了解しました、すぐに手配します」


一礼して駆けていく砂男の隊長。


その姿を見送り、ライリは自室に戻った。


† † †


砂男に調査を命じて3時間後。砂男の隊長が部屋に入ってきた。


「ご苦労、結果を簡潔に頼む」「我々が行動できる、山のふもとまで捜査しましたが、地震の原因と思われる物は何も見付かりませんでした」

「それ以外の物を何か見付けたのか?」

「はい、魔術の心得がある者が言うには、大量の魔力がばら蒔かれている、と言うことです。しかしそれは活発的な魔力ではなく、静動的、つまり、空間に存在するのと同じ性質であるとの事です」

「ふむ……わかった、ありがとう。隊の者も休ませてくれ」

「かしこまりました」


ライリは玉座に座り直し、息をつく。地中には何もなし、ばら蒔かれた大量の魔力。『何か』が起きて、その結果、もしくはその影響で大量の魔力が生じた、と言うことなのだろうか。


「ライリ様」「む、ラムか。どうした?」

「ご覧になっていただきたい物があります」

「わかった、行こう」


椅子から立ち上がり、ラムについていく。行き着いたのはドールの部屋。部屋の中央に置かれたテーブルには、真っ白で四辺の長さが均等な正方形の板。なにやら魔方陣が描かれている。


「お待ちしておりました」

「これは何だ?」

「地中の動きをるための魔方陣です」


ドールとラムが用意していたのは、物体の動きを物体オブジェによって簡単に追い掛ける、と言う物だった。


「この板に置かれた物を簡単に説明すると……」


ドールが説明を始める。まず、魔方陣に描かれた円は、魔方陣の力で調査する対象の範囲のみを区切る。例えば海に小石を投げても大した波紋にはならない。しかし、小さな桶の中に小石を落とせば、大きな波紋になる。魔法を発動させる区域を限定する事で、大きな力を発揮させる。これが、魔方陣による魔法の基本だ。魔方陣は東西南北を正確に描いている。中央付近に置かれた黒く小さな箱はこの魔王城。魔王城の近くに置かれた小さな丸い石は、見張りの兵。東から北まわりに西まで続く緑色の糸は、山を示す。他にも、小さな丸い石が至るところに置かれている。これは、他の生物を示し、魔方陣が発動すると共に動くと言う。


「なるほど。肝心の地震の原因と思われる物は?」

「これです」


そう言って小石よりだいぶ大きいみどり色のガラス玉を取り出す。


「魔方陣が発動した時点でこれを陣の上に置きます。強い力のある場所に、この玉は引き寄せられます」

「なるほど。早速、やってみてくれ」


はい、と頷くドール。ラムと目を合わせ合図を送ると、魔方陣にそっと両手を置く。


「『この星に生まれし元素よ、大地の動きを識りて陣に記せ』」


ドールが詠唱すると、魔方陣の線が輝く。ラムがコトリ、とガラス玉を置くと、ゆっくりと動き始めた。くねくねと曲がりくねった軌道を描きながら玉は動いていく。そして、魔方陣の端までたどり着く。

カッ……


ガラス玉は床に落ちた。どうやら、陣の感知する範囲を出てしまったようだ。


「ふむ……」

「何か強力な力を持ったモノがうごめいているようですね」

「ならば、引きずり出してやろうじゃないか。このままにしておくのも、何となく気にかかるしな」

「ですが、どのようにして捕まえるのですか?」


ラムの問いに唸るライリ。とにかく、今は魔方陣は常に発動させて動静を見る、と言うことになった。


† † †


3日後。


ゴゴゴゴゴ……


「来たか!」


ライリは椅子から立ち上がり、ドールの部屋まで駆けていく。ドールとラムは既に魔方陣を眺めていた。翠のガラス玉からは朱色の線が伸び、魔方陣の上で奇妙な図形を描いていた。やがて揺れが収まり、ガラス玉は床に落ちた。魔方陣の上には、おおよそ東から西まで続く線が描かれていた。


「……何かわかったか?」

「はい。これを見てください」


ラムが取り出したのは一枚の地図。魔王城周辺が描かれ、東から西へと続く、くねくねと曲がった線が印してある。


「これは、昨日魔術の使える砂男サンドマンの方に手伝って貰い、魔力の濃い部分を描いたものです。そして、今日の地震で強い魔力を持ったモノが通った場所」

「……ほぼ一致、か」

「はい。この地震の発生源は同じ場所を通っていると言えるかも知れません」

「よし、ならば次に来る日時を予言して『アースニードル』か何かの魔法で地中から押し出してやろう」

「了解しました。予言は……」

「予言は私がやる。見てるだけなど、つまらないからな」

「……分かりました。では作戦は後程立てましょう」


ライリはドールの部屋から出るとすぐに魔王の間の奥、ライリのプライベートルームに入った。様々な物品の入った棚の中から紅い紐で纏められたカードを取り出し、机に向かう。


「ふっふっふ……どこの誰か知らんが、私の手からは逃れられんぞ」


そう言うと、カードを混ぜ始めた。


† † †


そして、ライリの予言した日。


「あー、あー、聞こえるか、ラム」

『はい、はっきり聞こえます。そちらはどうですか?』

「良好だ。ドールも聞こえているか?」

「はい、大丈夫です」


ライリとドールは魔王城の前の平原を歩いていた。話しているのはラム。今回の作戦は、魔方陣上に描かれた、地震の原因と思われるモノの進行ルート上にライリとドールが立ち、ラムのナビゲートに合わせて『アースニードル』の魔法で地中から押し出す、と言う物だ。どれほど大きいモノか分からない為、『アースニードル』はライリとドールが2人掛かりで詠唱し、巨大な柱を出す、と言うことにした。地中深くから柱を出すため、素早い詠唱と速効性のある発動が鍵となる。


『反応あり!東から来ます!』

「了解、進路の変更は?」

『今のところありません』

「わかっ……」


ゴゴゴゴゴ……


「来ましたね」

「あぁ、準備しておけよ」

『3、2、1、今です!』

「「『この星に生まれし元素よ、土の槍を生みだし敵を貫け』!!」」


ゴ……ドンッ!!


2人が同時に詠唱した魔法は、瞬時に巨大な柱を生み出した。しかし。


「何も出ないだとっ?!ラム、目標はっ!?」

『以前の進行経路を依然として進行中です』

「……外した、と言うことでしょうか?」

『いえ、場所と時は一致していました。魔方陣にもお2人の発生させた柱の後が残っており、陣上の玉は持ち上げられました』

「ふむ……。その、魔法の心得がある砂男サンドマンを大至急、寄越よこしてくれ」

『了解しました』


待つこと数分。砂男サンドマンが3人現れた。


「この柱の中を潜行出来るか?」

「はぁ、一応出来ますが……」

「なら、潜行して魔力が濃くなっている部分がないか調べてくれ」

「了解しました」


丸い柱に2人の砂男サンドマンが溶け込むように入っていく。その様子を見ながら、ライリはおもむろに残った砂男サンドマンに声をかけた。


「なぁ、今、この私が潜っている砂男サンドマンに『アースニードル』をぶち込んだらどうなる?」

「あぁ、それは効きませんよ。我々は地面や土で出来た物の中に入り込むときは、土に一体化してますから」

「なるほど……じゃぁ、『天』属性の魔法を叩き込んだら?」

「それは喰らいますよ。基本的に『大地』の性質のモノは無効ですが、それ以外は普通に受けます」


ふむ、ありがとうと言って考え事を始めるライリ。ドールはそんな主を見ながら、砂男サンドマンの帰還を待った。


† † †


所変わってドールの部屋。砂男サンドマンの報告によると、柱の中に魔力の濃い部分があったとの事。性質も、以前の物と同じだと言う。


「仮説として……だが、相手は砂男サンドマンと同じような能力を持っているのだと思う」

「その仮説は恐らく正しいかと思います」

「うむ……問題は、いかに『大地』属性以外の魔法を使うか、と言うことだが」

「難しいですね……相手は地中深く潜っています。そこまで届き、かつ地上まで引き上げる事の出来る魔法と言うのは……」

「まぁ、それは考えておく。次に出現する時を予言するから、私は一旦部屋に戻る。分かったら伝えに行くから、今は解散としよう」


ドールとラムが頷くのを見て、ライリは部屋を出た。


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