8 サーベルタイガー売却
サーベルタイガーの骨をギルドに持って帰ると、ルシアが正式な報酬を払ってくれた。
「まるで勇者様ね」
ルシアが軽口をたたく。
「銀貨、初めて見たな」
報酬は銀貨が7枚。部位が足りないので満額ではないが、それでも大金だった。
「牙が残ってたのは運がいい。王都ではこれを装飾してナイフを作るの。宝石を埋め込んだりと最終的には金貨で取引されるわよ」
「そうなのか」
さすが森の王者。
「それにしても、よく見つけられたわ」
「探すのは得意だからさ」
朝霧は銀貨をポケットに入れる。
「なあ、ルクス草は?」
声は飲んでいる男たちだ。ルシアがいるのでとても静かに飲んでいる。
「いや今日は群生地が見つからなくって」
「草の在庫はあるわよ」
ルシアが冒険者たちに言う。
「でも、こいつのがいいんだよなあ」
彼らはぶつぶつ言っている。ちなみにギルド内はルシアによって窓の近くに喫煙スペースができるなど、構造改革が進んでいる。
「じゃあ行くよ」
「ねえ」
ルシアに呼び止められえた。
「ご飯でもどう? お礼をちゃんとしていなかったから」
ちらりとみると、ベスはうなずいた。
「あとで一緒に食べるか。俺たちはその前に買い物に行くけど」
「うん、ギルドも処理を終えたら終わらせる」
ルシアがうなずいた。
ギルドから出て大通りを歩く。
大通りの店はほぼ終わっているが、路地裏に店があるのを発見していた。
職人の個人店などは夕方までやっていることが多い。
「ここだたったかな」
用水路脇のこじんまりとした店。
「何を買うの?」
「ベスに鞄を買ってやろと思ってさ」
ここは革製品の店だ。扉を開けると所狭しと皮が敷き詰められ、店の奥で店主の老人が作業しているのが見えた。
ほとんどが受注だが、既製品もいくつかあった。
「見せてもらっていいですか?」
「ああ」
店主は視線を持向けずに答える。
ベルトに通せる小さな革のポーチがある。なんの皮かはわからないが使いやすそうだ。
ベスにはどんなのがいいだろう。ザック系かそれとも小さめのを提げることにするか。
「でもさ、あれがあるのにカバンいるの?」
ベスが背伸びをして耳元で囁く。
「あれはばれちゃいけないから、必要だよ」
細々としたものをいちいちボックスで出し入れするわけにないかない。
「欲しいものあるかい?」
「え?」
ベスがきょとんとしている。そうかベスはずっと森で暮らしていて、さらにはその記憶の大半を失っている。欲しいものを購入する概念がわからないのだ。
「これとか、サイズはいいな」
肩に斜め掛けするカバンだ。素材が柔らかく大きさもちょうどいい。採取にも持っていくことができそうだ。
「なんか、いいかも」
「別のもの見てみるか」
そんなことをしていると、店主の視線を感じた。
「すいません、採取とかでカバンが欲しくて」
朝霧は今日の採取にて手に入れていたルクス草をカウンターに置いた。
少ししか手に入らなかったので卸さなかったのだ。
「ああ、最近多く卸してるのはお前か」
店長が興味を持ったようで身を乗り出してくる。
「俺は布ザッグがあるんで、小さなポーチが欲しいんですよね。火打石を入れたり、ナイフとかちょっとした道具を入れるような。……これとかデザインいいですよね。フックがちゃんとしてて」
「わかるか。それ端材で作ったやつだから銀貨一枚でいいぞ」
やはり革製品はいい値段がするが、それでもこの作りなら安い。
見るとベスは朝霧が最初に勧めたカバンでポーズをとっている。素材を運ぶには小さいが、ポーチとしては大きいほうだろう。
「あれと合わせて二枚でいい」
「安いですね」
「売れ残ってたやつだからな」
中途半端な大きさなので使いようがなかったのだろう。
だが、そのカバンもとても作りが丁寧だ。ポケットが多いのもプラスポイントだ。
「ベス、それでいいか?」
「うん、すごくいい」
ベスが喜んでおり、店主もそれを見てにやっと笑った。
「大切に使います」
朝霧は銀貨を二枚置いた。
「そうしろ。これはサービスだ」
それは葉っぱに包まれたクリームだった。革製品のケアに使うようだ。
「街から出るのか?」
朝霧が皮の葉材などを見ていると、店主が聞いてくる。
「ギルドの依頼も軒並み終わりましたし、そろそろですかね」
溜まっていた採取の依頼は朝霧がこなしていた。
「じゃあ直接これ持ってきてくれ。無理のない範囲でいい。物々交換してやるから」
店主はルクス草を指さした。
「見つけられたら、持ってきますよ」
朝霧とベスは店を出る。
すでにポーチをつけてみたがなんだかいい。財布もこっちに入れたほうが断然いい。
「なんでも入るね、これ」
「うん、何でもは入らないけどな」
ベスがカバンを提げてスキップを踏んでいる。買ってやってよかった。
そのまましばらく二人で歩く。
とても風が気持ちいい。風にベスのフードが取れ、金髪がきらきら輝いている。とても綺麗だった。
道の先に教会があった。
この王国が公認するソフィア教の教会だ。
朝霧はソフィアという女神に召喚されたという。
この街の教会は小さなものだったが、神父や信者たちによってきれいに整備されていた。
世界樹という神木に宿るという女神。
「女神様、なんで俺たちを召喚したのです?」
朝霧は聞いた。
だが、女神の声は聞こえない。