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7 スローライフ再開



 次の日。

 朝霧とベスは一緒にギルドに向かった。

「今日も頑張りましょう」

 昨日はあのままベスに抱かれたまま眠ってしまい、起きたときは気恥ずかしさが残っていた。

「ルクス草の群生が残ってればいいんだけど」

「そうですね」


 隣を歩くベスの距離が近い。なんだか心理的な距離も縮まった気がする。

 といよりこれがスタートだ。


 思い返せば、記憶のないままよく朝霧についてきたものだ。

 こちらをずっと警戒してさぞや疲れたことだろう。


 とにかく今は仕事だ。

 目的も決まったのだ。だとしたら金を稼がねばならない。

 はっきりといえば今の朝霧は貧乏だ。

 財布を確認してみたが銅貨が十枚あるだけだ。

 まとまった金がないと次の街への準備ができない。


 しかし、この街のギルドはどうもやる気がない。

 辺境なので仕方がないのだが……。


 ギルドに入り、いつもと違う雰囲気であることに気づく。

 なんだか綺麗だ。

 飲んだくれているはずの男たちもおらず、壁には依頼が整然と貼られている。


「あっ……」

 カウンターに立っていたのはルシアだった。

「おはよう」

 ルシアが平然と挨拶する。


「なにやってんの?」

「ギルドの手伝いも遊撃隊の仕事なの。ギルドの情報を街から街へと伝達するために。だからしばらくここで働き、滞在することにした」

 とっくにこの街を出て行ったと思っていたが、こんなことになっていたのか。

 見ると、いつもの老人は奥で書類などをまとめている。

 姫君直属の遊撃隊のプレッシャーだ。

 確かに酒場で飲んでいる男たちも逃げ出すはずだ。


「こうしてギルドの仕事を確認するのも悪くないわ」

 ルシアがこの街のギルドの構造改革に乗り出したようだ。

「冒険者たちには依頼を受けてもらった。あなたにもお願いしたい」

「まあ、できることと言ったら採取ぐらいだけど」

 朝霧は壁に貼られた依頼を確認する。


「採取系は、割が悪いのよね」

 ルシアが朝霧の横に並ぶ。

「草だもんな。大量に必要だし」

「薬草や滋養系がお金になるけど、この近辺にはないみたい」

「あれは?」

 ベスが指さしたのは蝶の捕獲だ。

 コレクターがいるらしい。


「あの蝶、生きたまま持ち帰るの難しい。だから依頼が残ってるの」

 あの箱を使えばできないこともない、が、やめておこう。

「まあ、とりあえず採取系をこなすよ」

 やはりルクス草やルクスの実の需要が高い。


「ん、サーベルタイガー討伐?」

 妙に古い依頼に目がいった。

 ルシアが整理したので、古い依頼も張り出されているようだ。


「一年前に現れた森の王者。冒険者の矢が当たったけど、手負いの状態で逃げられたっていう話よね」

「はい、そのようです!」

 ギルドの老人が汗を拭きながら返事する。

「一年前だろ」

「万が一生きていたら危険だわ。警告のためにも貼りなおした」


「生きてないだろ」

「死体を見つけたら保証金が入るのよ」

「なるほど」

 とりあえずルシアがまとめてくれたので依頼は見やすくなった。

 もうボックスの力はベスに告白したので、これからは少し積極的にいろいろな素材を集めてもいいだろう。


「じゃあ言ってくる」

「気をつけて。ベスも」

 ベスはうなずくと、朝霧の手を握ってギルドから出ていく。


 そのまま街から出て森に入る。

「ボックスはほとんど空っぽだから、適当に集めよう」

 もう隠す必要はない。

「探知はどうやるの?」

「それはなんとなくなんだよな。魔力が強いものがわかったり、意識を変えると金属とかがわかったり」

 探知野力はレアなのだ。それゆえに試行錯誤で学んだものだ。


 ……本当にそうか?


 ふと疑問が生じた。

 この能力は本当に努力の賜物なのか。

 そんなことを考えると頭がずきりと痛んだ。


「……まあ、とにかく魔力を感じ取るんだよ」

 森には魔力が満ちている。そしてルクス草のように魔力を溜める草は強く反応する。

「魔力が溜まるものほどおいしかったり滋養があるような気がするんだ」

 もう少しトレーニングをして感度やチャンネルを変えるようにできると便利だ。


「でも、目で見てわかるのもあるよね。ほら、この葉っぱは包めるし」

 ベスが大きな笹のような葉を手に取る。

 これは大きく水を通さないので食べ物を包むのに使っていた

「こっちは柔らかいんだよな。トイレにも使えるし」

 いつの間にか植生を覚えていた。

 この肌触りのいい葉っぱはティッシュがわりだ。せっかくボックスがあるので大量にまとめてしまっておけばいい。


「これはメモ書きに使えるし」

 ベスがぶちぶちと葉っぱをちぎる。

 なんだかこの世界の植物は都合よく出来ている。まるで人間の望むようなものを植物として生み出しているかのようだ。

 朝霧はティッシュの葉っぱを百枚ほど集めると、ツタのひもでまとめて縛る。これは売り物にはならないが、自分たちで使う用だ。


「はい」

 ベスもまとめて渡してくれる。お互い手際が良くなっている。

「そろそろ服も何とかしないとな」

 ベスはシンプルな布のワンピース一枚に、フード付きの短いマントというか肩掛けのようなものがあるだけだ。藪の中を歩くと素足が傷つくこともある。


 ……だが金がないのだ。


 レーダー能力をいじっていると、魔力探知に反応があった。

 小さな木があり、そこに赤い小さな実がなっている。


「滋養にいいやつだったな」

 ギルドの依頼にあったやつだ。まとめて集めれば銅貨一枚にはなる。


「あっ」

 実を集めていると指に痛みが走った。

 木には棘だらけだ。乱獲をするなと言っているかのようだ。


「見せて」

 ベスに手を取られる。指先に赤い液体が玉になっていた。

「ベスって回復魔法とか使えるのか?」

「まかせて」

 そういうと、ベスは朝霧の指をくわえて血を吸ってくれた。

 そして葉っぱで傷口を巻いてくれる。

「ありがとう」

 どんな回復魔法よりも気持ちがいい。


「ちょっと休もうか」

 金にならない葉っぱ探しで疲れてしまった。

「ドライフルーツがあるからお茶でも沸かそうか」

 ドライフルーツは浴場で知り合ったおばあさんとルクス草で物々交換して手に入れたものだ。朝霧が見つける草は香りがいいと評判なのだ。


 薪を集めて、ポケットから乾燥させた草を取り出し火打石で火をつける。

 火種ができたので小さな薪をその上に置き息を拭きかける。

 日が安定したらぼこぼこにへこんだ鉄製のカップを置いた。

 後は乾燥させたハーブを適当に入れる。

 火打石とカップは戦場で拾ってきたものだ。


 できれば思い出と一緒に捨てたいところだが、生活するための必需品だ。

 朝霧が大樹を背にして座ると、ベスは朝霧の膝の間に座った。

 朝霧はベスを抱くようにしてお湯が沸くのを待つ。


「もう、頭に顎をのせないでください」

 ベスが不満がるが、なんだかこの体制が気持ちいい。

 なんだか魔力を感じる。

 朝霧はベスを抱きながらセンサーを発動させた。魔力やら金属やらチャンネルを変化させるように意識する。


 ……その時、妙なものを察知した。


 微量の魔力を感じるが生命ではなかった。

 金属でもないが硬度がある物体が……。


 立ち上がった朝霧は、その反応に近づく。茂みをかきわけ、邪魔な枝を鉈で切って進む。すると何かがあった。


「骨だ……」

 それは動物の死体。すでに白骨化している。

「サーベルタイガーか」

 顎部分がしっかりと残っている。サーベルタイガーの牙がギラリと光った。


「どしたの?」

「一年前の依頼のやつだよ」


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