24 ギルド依頼処理
次の日の朝、三人はカルナのギルドにいた。
ギルドの壁に溜まっている依頼をこなすことにしたのだ。
もちろんほとんどが冒険者にとって割に合わない採取依頼だ。
だが、誰かが必要としている。街から出る前にやっておくべきだった。
「古いのがいっぱいだね」
「採取は安いからねえ」
ベスとミュウが依頼を見つめている。
「アサギリ、どうしようか?」
「全部受けよう」
朝霧は壁の採取系の依頼を全部はがしていく。
このまま貼っていても誰もやる冒険者はいないだろう。
残りも少ないしせっかくなので全部やってしまおう。
「いいですよね」
「ええもちろん」
受付嬢が嬉しそうに言う。
「あのカルナの花の依頼を成功させてくれた人だからね」
あれで信用されたようだ。
「それで、ね……」
受付嬢が両手を合わせる仕草をした。
「はい?」
「カルナの花の依頼がまた入っているのよね。あの依頼をこなせた人ならいいのを持ってこられるだろうって、つまり指名依頼が……」
受付嬢に渡されたのは紙の束だった。
「カルナの花はちょっと大変なんで、これ以上受けないようにしてください」
朝霧はため息をつきつつもそれを受け取る。
できないことはないが、あまりに目立ちすぎるとボックスがばれてしまう。
「ごめんなさい」
「いいです。ギルドに寄ったら間に合わないので、直接持っていきます」
他の依頼はカルナ草に気付け薬の材料や薪などが多い。
薪といってもなんでもいいわけではなく、燻製用に使うチップとしての薪だ。
ちなみに木を切ることは基本的に禁止されている。森を痛めると反動があると言われており、伐採は街ぐるみで計画的に行うのだ。
つまり薪は落ちているもので、できるだけ大きなものを探さねばならない。そしてある程度古いほうがいいなどと条件が細かい。
「薪はこれで、ピコの実がこれ……」
ベスがギルドの辞典を確認してメモを取っている。実はある程度のランクがないとギルドの植生辞典は見てはいけないのだが黙認されている。
頑張っているベスを止める無慈悲な人間はここにはいなかった。
まあこの街の出身のミュウがいるので植生は問題ないのだが。
「行こう、できるだけ早くこなしたい」
採取は時間をかけるほど赤字になる薄利多売形式だ。
「ベスちゃん、気を付けてね」
受付嬢に見送られながら、三人はギルドを後にする。
「できれば明日までに終わらせたい。そして明後日に街を出るぐらいのペースがいい」
ちらりとミュウを見る。
「うん、ついていく」
もうミュウは街を離れる決意を終えたらしい。
「まあ、住んだことのある街ってだけだし。私の出身は砂漠を超えた東の亜人の郷」
会話をしながら三人でいつものように街を出る。
なんだかもう慣れた感じだ。ビギナーから中級者にはなっただろうか。
「あっち側はまだ探してないほうだったかな」
ミュウにガイドされ森の中に入る。
ひんやりとした空気が流れる。早朝に雨が降ったのだろう草木が湿っていた。
木漏れ日を受けて森がきらきらと光って見える。
「よし、見てみるよ」
朝霧は目を閉じる。
ゲームのように欲しいものがわかる便利なものではないが、この世界の魔力を感知できる。
周波数を合わすような感覚で森を見ると、魔力が濃い部分がある。
「あっちだな」
「お、カルナ草の群生」
ミュウがばっと走って草を見つける。
「あと、この辺に何かが散らばってるような……」
「ピコの実! 辞典で見たのと同じね」
カルナ草はミュウに任せ、小さなピコの実をベスと一緒に拾っていく。滋養の薬とも痛み止めともなるらしい。
「実はこの葉っぱに入れておこう」
葉っぱで作った入れ物に小さな実を入れていく。
「なんか楽しいね」
「そうだな」
あまりない、というのがいい。これは木の実というより、木に寄生するツタの実なので、発見しづらいのだ。
ミュウは慣れた様子で、カルナ草を引き抜き、泥を払ってから十本ずつにまとめている。それが終わると一緒にピコの実を集める。
「このキノコ食べれるかなあ」
「なんか禍々しい感じがするからやめておこう」
「キノコは種類がありすぎてわからないんだよね」
その横に朝霧は倒木を見つけた。
「おっ、これは薪になるな」
ブナ系の木だ。ある程度古いもので乾燥しており、含まれる魔力が凝縮されている感じもあった。これなら文句ないだろう。
同じ長さに折ってまとめて縛る。
そして誰もいないことを確認してからアイテムボックスにインだ。
「相変わらず便利だねえ」
ミュウがカルナ草を入れながら言う。
「これがなければ、薪集めの依頼なんかやらないよ」
さすがに赤字になってしまう。
「あとはカルナの実だな……」
なんとなく一度レーダーで当てたものは感覚を覚えている。
しばらくサーチしながら歩くと、それらしき反応があった。
「あったねえ」
ベスがカルナの花を見つけた。
「ちょうどこのぐらいの蕾のがいいんだよ」
ミュウがベスにレクチャーしている。
膨らんだ花のつぼみを切り、葉っぱに包んで丁寧にボックスにしまっていく。
ミュウが選別しベスが切り朝霧が葉っぱに包むという流れができ、そのまま集中してしまう。
……思った以上に集めてしまった。
なんか一度集めると集中してしまう。
そのまま森を抜けると小川に出た。
そこで三人は休憩する。
ボックスからパンとチーズを取り出して簡単な朝食にする。
火を熾そうかと思ったがやめておく。
「こういうときストーブがあればな」
「ストーブ?」
ベスが首をかしげる。
「暖を取るってより、小さな枝でも簡単に焚火ができるようなのがあると便利なんだよ。簡易コンロみたいな感じ」
たとえるなら小さなブリキバケツに穴をあけたやつだ。
元の世界でキャンプが趣味の朝霧はそれをストーブとして使っていた。
せっかくこっちに来たのだから、かっこいいストーブを作りたいところだ。
「おっ」
なんとなくレーダーを使っていると、小川がきらきらと光った。
……いい石があるようだ。
朝霧は小川の底を漁る。
ベスがくすくす笑いながら一緒に石を探し始めた。
「すぐ集め始めるんだから」
「だって、楽しいもんね」
苦笑いするミュウにベスが笑顔を返す。
三人でしばらく川底を探って石集めに没頭した。
*
街に戻ってきたのは昼過ぎだった。
カルナの花はすでに依頼主たちに配り終えている。
街の外でボックスから出してあえて少し痛ませていたが、それでも評判は上々だった。
昨日のおばあさんの家にも持っていき、昼ご飯の相伴に預かってからギルドに戻った。
「ピコの実がこれで、カルナの花のサインがこれ、薪はこれだけ持ってきました。いつものカルナ草……」
ギルドのテーブルに置いていく。
もう慣れたものだった。
壁を見ると採取系の依頼はほぼ消えていた。
あとは子供でもできるものなので、少しは残していくべきだろう。
「確かにお預かりいたしました。これが依頼料です」
カウンターに銅貨が数枚置かれた。
「あまりお金にならなかったね」
ベスが言う。
「でも、皆さん喜んでいましたよ。ありがとうございました」
なんだかギルド嬢の微笑が優しい。
朝霧たちが街を出ることを察しているようだ。
「そろそろ出ようと思ってまして」
「それでしたら、手紙配送の依頼をいたします」
ギルドからギルドへの手紙配送も冒険者の仕事だ。
「あと、ランクアップも」
冒険者プレートにカルナのギルドの星が打たれた。
「いいんですか?」
「ええ、頑張っていただきましたから」
ギルドから出て、三人は顔を見合わせた。
「褒められるのっていいね」
「そうだな」
仕事が報われた気がした。