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23 ギルド依頼を

 


 朝霧たちはカルナの街から出る準備を進めていた。

 まず最初にやったことは、ミュウにアイテムボックスの力を教えることだった。


「すごいギフトね」

 ミュウはそれほど驚かなかった。

 何か特別な力があると察していたのだろう。

 あの砂漠の横断に成功したこと、さらに隙を見ては物資の出し入れをしていた。

 怪しまれないほうがおかしかった。


「てことでさ、これを利用して依頼をこなす」

 ギルドに入って依頼を確認する。

 残っているのはやはり採取だ。

 気付けや滋養強壮の元となる草、さらにカルナの花の依頼もある。


「ハーブはある程度量がないといけないけど、大丈夫ね」

 アイテムボックスを理解したミュウがうなずく。

「よくやってくれてると思うけど無理しないでね。カルナの花は無理なんだから」

 受付の女性が警告してくれる。


「その依頼、直接持って行きますよ」

 朝霧はその貼られた依頼をはがした。

「気難しい人なんだから」

「俺は採取者ですから」

 そう言い、朝霧たちはギルドから出ていく。


 森でまずやったのはハーブの採取だ。

 レーダー能力を使い魔力を感知する。

 薬となるハーブは基本的に魔力含有量が多い。

 さらにミュウの土地勘もあり、ハーブはどんどん集められていく。

 それらをベスが手際よくまとめてくれる。


 さらにカルナの花。

 群生地が見つかり、三人はそれを丁寧に摘み取る。


「このくらいが一番おいしいのよ」

 ミュウがレクチャーしてくれる。

 開きすぎても駄目だし蕾でも駄目だ。ちょうどいい大きさがあるらしい。

 摘んだ実は柔らかい葉っぱに包み、アイテムボックスに入れていく。

 まだまだ容量には余裕がある。丁寧にまとめているので気持ちがいい。


「すごい力だけど、アサギリも几帳面ね」

 ミュウが褒めてくれた。

「よく言われたよ」


 幼馴染に神経質だとからかわれた。

 ふと彼女を思い出す。今頃彼女はどうしているだろう。

 戦争が終わってけっこう時間がたってしまった……。


「アサギリ?」

 ベスが包んだカルナの花を渡してくる。

 なんだかベスには心を見透かされているようだ。

「また明後日ぐらいに来てもいいかも。蕾のがいい感じになってると思うよ」

「そうだな。そしてそうしたら次の街を目指すか」

 すぐにでも街を出ることができる。


 だが、せっかくならば採取者の責任としてギルドの依頼はこなしておきたい。

 その後も採取を続け、街に戻ったのは昼過ぎだった。


「えっと、この辺だな」

 直接渡すからと、ギルド員の女性に地図を描いてもらったのだ。

 街のはずれあるこじんまりとした家だった。


 カルナの花が咲いており、放し飼いの大きな犬がベスにじゃれている。

 庭でカルナ草を干している老女がいた。

 あれが恐らく依頼主だ。冒険者相手の商売をしていただけあって、腰は曲がっているがオーラを感じる。


 声をかけると、不審げに目を向けられる。

 だが、犬とじゃれるベスを見てその視線は穏やかになった。

 ベスのフードが取れ金髪がなびいている。

 エルフだとわかってもおばあさんは平然としていた。


「あの依頼を見たんですが」

 依頼書を見せると表情を曇らせる。

「ああ、それはもういいわ」

 おばあさんは首を振った。


「昔世話した連中が持ってきてくれるが、あれじゃあ駄目だ」

「駄目って何に使うんです?」

「食べるに決まっておろうが。昔は森に行ってその場で料理したんだがね。あの香りは森のものじゃないと出ない」

 おばあさんは庭のカルナの木を指さした。

 やはり栽培では駄目なようだ。


「それでも酢漬けにしたりと、工夫はできるんがな」

 聞くとおばあさんの趣味は漬物らしい。

「持ってきたんですが、見てもらえます?」

 朝霧は皮袋に入れたカルナの花を取り出す。

 先ほどボックスから取り出したばかりだ。


「だから、カルナの花は……」

 葉にくるんだカルナの花を受け取ったおばあさんの表情が変わった。

 慎重に葉を取って目を見張る。


「あんた、どうやって……」

「頑張って、走ってきたんですよ」

 朝霧は平然と言った。


「まだあるのかい?」

 依頼書には質が良ければいくらでもと書かれていた。

「それほど持ってこられませんでしたが」

 朝霧は庭のウッドテーブルに十個ほど花を置いた。

「おお、おお……」

 おばあさんが感極まっている。


「えっと、この依頼書にサインを」

「そんな暇はない! さっさと処理して半分は酢漬けに、もう半分を……」

「サイン……」

 おばあさんの動きは速かった。

「アサギリ、しょうがない」

 ミュウが苦笑いしていた。


 ……ベスも犬と楽しそうだし、まあ待つか。


 その後、老人とは思えない動きでおばあさんはカルナの花を漬け、そして残りの半分はその場で料理した。

 約一時間後、やりきった表情で家からおばあさんが出てきた。


「ほら、あんたらも一緒に食べよう」

 庭のテーブルに料理が置かれた。


「いいんですか?」

 と言いつつもご相伴に預かる気は満々だ。

 カルナの花の蒸したもの、焼いてチーズをのせたもの、豪快な丸焼きまであった。


「やっぱり火を通すんですねえ」

 生でかじってみたこともあったが苦みが強かった。


「そりゃそうだよ。さっさとお食べ」

 テーブルに料理と果実酒が並べられる。

 すでにベスは座っていた。


「すいません。ご相伴に預かります」

 朝霧とミュウも頭を下げてから座る。

 まずはおばさんがカルナの蒸し物をナイフで切り分け口に運ぶ。


「ああ、香りがいいわねえ」

 とてもいい笑顔だ。

 朝霧は焼いた花を切り、チーズをのせて口に運ぶ。


「え?」

 花の香が鼻孔に広がった。

 いままで食べてきたのは何だったのだ?

 さくっとした触感とそのたびに広がる芳醇な香り。それがまたチーズにあう。


「おいしい。こんなにおいしいんだね」

「そうだろ、栽培ではこうはいかん」

 おばあさんはベスに優しい瞳を向けている。

 さらに果実酒にこれが合う。


「このほくほくがいいのよね」

 ミュウは丸焼きを崩して食べている。

 森で採ってそのまま焚火で焼くという料理がメジャーらしい。


「本当に採取者のご褒美なんだな」

 自ら樹海に入らないと食べられない味だ。

「あたしがもっと若ければねえ」

 おばあさんは一口ずつ思い出すように食べている。

 幸せそうな顔を見て、依頼を受けてよかったと思った。

 人の役にたったのだ。これほどうれしいことが他にあるだろうか。


「おばあさんのお料理もうまいんですね」

「うれしいことを言ってくれる」

 ベスはコミュ力が高い。あっという間に人に取り入ってしまう。

 和やかな雰囲気で食事は進んだ。


 こんなにおいしいのだったら、別の街に行く前に少し集めておいてもいいだろう。

 基本的に冒険者は街にとどまらない。

 拠点を持つ者もいるが、やはり金が要るし、ある程度の功績が必要だ。


 つまり朝霧のようなルーキーは街から街へを移動し続けねばならない。

 それによって情報を流すこともギルドの目的だ。

 だからこのシーンは、旅と旅のほんの一幕にすぎない。


 それでも朝霧は忘れないだろうと思った。

 もう二度と来ることがないかもしれない、辺境の街の穏やかなシーンを。

 風が吹き、見上げると空が真っ赤だった。


 犬の遠吠えが響いた。


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