俺の住むこのアパートには恐ろしい隣人がいる
俺は布団の中に入ったが、いつものような眠気は一向に来ない。多分それは新しく七号室に入った男のせいだろう。
「こんにちは。七号室に引っ越してきた月村洸です。よろしく」
差し出された手を反射的に握る。だが、ハッとして手を放す。
「今、どこから飛び降りて…」
「ああ、屋上ですよ」
屋上?
屋上への階段はない。かといって、ジャンプして上に上がれるほどの強度がこの建物にはない。
フ支持層に思っている俺のことを見たのか、彼は笑っていった。
「ほら、あそこのパイプ上って、屋上に行ったんですよ」
指さされた先を見ると細く、今にも壊れそうな下水用パイプがあった。
いや、それをつたって上るのはさすがに無理だろ。猫かよ、この男は。
「月がきれいで思わず…」
思わずのレベルを超えている気がする。
月村さん、と話しかけると、彼は洸でいいといったので、洸さんと呼びなおした。
「このアパートで屋上に登った人なんてこれまで一人もいませんよ。大家が聞いたら怒られる」
「えッ!本当ですか!ばれたらどうしよう…」
洸が急に慌て始めた。「あの、お隣さん」
「神永誠です」
「誠さん、絶対に言わないでくださいよ!まじで一生のお願い」
子供みたいだ。一応うなずいた。
ああよかったといって安堵のため息をつく彼を見て、不思議な感じがした。
さっきまではまるで氷の女王のような恐ろしい気迫だったのに、今では子犬のように無邪気だ。
容姿も天使のように美しい彼は、もしかすると本当にこの世のものではないのではという気までしてくる。
「洸さん、あなたは一体…」
思わず、つぶやいた。
彼が謎めいた顔でほほ笑む。
「このアパートに引っ越してきた、ただのあなたの隣人ですよ」
そうしてふっと真顔になる。
「今のことは次の瞬間には忘れている。すべて忘れて眠りなさい」
気迫に押されて「はい」と帰ってきたが、やっぱり不思議だ。急に命令口調になったりする。
怖い、恐ろしい、でも少し興味深い。
彼も何か秘密を隠しているのだろうか。
俺と同じように
突き止めてやりたいと思いつつ、やっと来た眠気に抗わずに夢に入る。
下手に抗わないことはたまに合理的だ。
途中で急に挫折したのか、展開が早くなっています。…気にしないでください!挫折なんてしてませんよ!あははは…。
第二話まで見てくださりありがとうございます。引き続き、よろしくお願いいたします。