俺の住むアパートには隣人がいる
俺はこの「もみじアパート」に住んでいる。
さくらアパートが多いから、対抗してもみじ、だそうだ。大家は入居者には絶対これを言う。
部屋数は八つあるが、今実際に人が住んでいるのは一号室と五号室、そして俺の住む八号室だけだ。家賃は驚くほど安いが入居者が少ないのは、いくつか理由がある。大きな理由は、壁が薄いことだ。大声を出せば、普通にガンガン響くし、普通に話していても耳をそばだてればよく聞こえる。水を少しこぼしただけでも下の階の天井にシミができるし、多分ジャンプしたら床が抜けるのではないか。
こんな安いアパートでも風呂場があり、キッチンがある。そう考えると、ずいぶんとお得な物件だと思う。だが、世間一般的にプライバシーの方が大事だと思われているらしい。入居者はここ二年いない。
俺がもみじアパートに決めた理由は、単に交通に便利だからだ。勤めている会社へは走って五分で行ける。また行こうと思えば、徒歩十分で繁華街にもいける。駅にも近いっちゃ近い。
財布にもやさしいし、何より人がいないのがいい。住人同志で顔を合わせることも年に何回かしかない。つまり、便利な物件なのだ。
だが、その俺の住むこのアパートは人がごった返す、最悪の場所となり果てる。
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朝、出勤しようと外に出ると、何やら大きなトラックがアパートの前に止まっていた。それを大家が興味深そうに見ている。
俺は軽く挨拶をした。「おはようございます」
「おお。おはよう。すまんのうトラックが邪魔になって」
大家の頭が朝日に反射しているのはいつものことだ。まだ時間的余裕もあるし、冗談で聞いてみる。
「入居者ですか」
「そうだ」
…うん。冗談ではなかったようだ。
「七号室に入るから。君の隣だ。仲良くしてくれ」
隣か、面倒だな。
適当に返事をして、また歩き出す。七号室の住民らしき人は見当たらなかった。まあ、興味ないが。
この日は満月だった。美しいほど晴れ渡る空に、お盆のように光る月はどこか寂しそうだ。
夜、レポートを書き終えて、アパートに帰ると、何人かがアパートの敷地内をうろうろしていた。
変だな、と思いながらも、部屋に行くため、裏の階段を上り始める。
「ドン」
衝撃音がした。建物が軽く振動している。それから何度もどんどんと音がした。なんだか、嫌な予感がする。
「あの、ライトさん、いるんですよね。ライトさん!」
見ると、七号室の戸を大きなひげがもじゃもじゃした男がたたいている。いや、震度3はあるだろ…。このアパートでノックは困るんだよな…。
と思いながらも無視して自分の部屋に入る。よし、今日もつかれたし、早めに寝るか。
「ライトさん!ライトさん!お顔だけでも!」
…うるさい。
「あの、うるさいからやめてくれませんか」
玄関から顔を出す。
「ああん、誰だよお前」
「いや、迷惑なんですよ。壁薄いから」
「はああ?」
ひげもじゃ男は、こっちを見た。怒ってる。いや、こっちが怒るべきだろ。
「お前、マジで誰だよ」
「こっちが聞きたいですよ。隣に住んでいると、そのノックがうるさくて眠れないんです」
「関係ないだろ?早く耳栓して寝ろ」
「うるさくて眠れないです」
「聞かなきゃいいだろ」
あ、こいつめんどくさい。帰ろうかな。
男はまた七号室の戸を叩きはじめる。帰れないな…。
てか、七号室の住民は誰だよ。早く出てやりなって。
「いいから、お引き取りください」
「うっせーんだよ」
やばい、やばい。巨体が迫ってくる。さすがにまずいか?退散か?
その時、頭上からふわっと黒い人影が落ちてきた。いや、舞い降りた、なのだろうか。
伸ばし気味の髪の毛が月明かりをバックにして宙を泳いでいる。
華奢な体つきに高い鼻。
その中に青白く光る眼は鋭く、その人物が女性なのか男性なのかは一目見ただけでは分からなかった。
「ライトさん!」
巨体が叫ぶ。人影は彼の前に降り立つといった。
「すまんな。帰ってくれ。今、取り込み中なんだ」涼しい男の声だ。
巨体は興奮して言う。「いやいや、あ、サインを…」
「帰ってくれ」
「じゃあ、握手は?写真は?」
「だめだ」
尚も巨体は興奮したようだったが、急に冷めた声で言った。
「…そうか。釣れねーな」
そういうと巨体は男(多分男だと思われる)を羽交い絞めにした。
「やっぱりな」と男は言う。「だから関わりたくなかったんだ」
「これから、お前には来てもらう。きっちりと代償を、ウグっ」
巨体は泡を吹いて倒れた。
なぜなら俺が彼の頭を殴ったからだ。
男は倒れた巨体と俺を見て、にっこりと笑った。
「こんにちは。七号室に引っ越してきた月村洸です。よろしく」
こんにちは。うまく書けないかもしれませんがよろしくお願いします。
感想を頂けたら嬉しくて宇宙まで飛ぶでしょう。…冗談です。