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シナモンロールには齧らせない

作者: 黒楓

結菜(ゆうな)のカレシくんに胸、ガン見された」


私は胸元にお盆を抱き込んでお母さんにボヤいた。


朝陽(あさひ)くんに? 良かったわね! 可愛い男の子から熱い視線をもらえて…リケジョを目指す受験生も『捨てたもんじゃない』って証明できたじゃない!」


「冗談じゃないわよ!これ絶対! 結菜から怒られるから!!」


案の定、ノシノシと足音を立てて結菜がキッチンに飛び込んで来た。


「おねーちゃん!!」


その権幕に私はお母さんの方へ「ほらね!」と振り返る。


「そんな恰好で入って来ないでよ!!」


ここでお母さんが悪戯っぽく言葉をぶつける。

「あなた、朝陽くんを一人っきりにして大丈夫なの?」


「『トイレ行ってくる』って抜けて来たの!! おねーちゃん!! おねーちゃんだってオンナなんだから! それ自覚して!! お客様の前では相応しい恰好があるでしょ!!」


私の今の恰好は…首元が大きく開いた青のボーダー柄のタンクトップ。表編み込みの髪を背中に垂らしている。


「だってしょうがないでしょ! アンタの部屋、暑いんだから!!」


「今日、部屋を交換してくれたのは感謝してるわよ。おねーちゃんが大学受験で大変なのも分かってる…でも、私の部屋のエアコンが壊れたのは私のせいじゃないもん! おねーちゃんの部屋のエアコンみたいに新しくないんだもん!!」


お母さんはこの私達のやり取りにクツクツ笑う。


「確かに! おねーちゃんは私似で“発育”がいいから…その格好じゃ露出度が上がるわね。 朝陽くんは何て言ってたの?」


「『胸元のホクロにドキン!とした』って!!」


「アハハハ!そうなの! めがね女子の胸元のホクロはお色気アイテムなのね」


「お母さん!!」「茶化さないでよ!」


娘二人からの抗議にもお母さんは涼しい顔だ。


「心配しなくても結菜は“我が家の可愛い”担当なんだから! エアコンだって業者さんの都合が付けばすく入れ替えてあげるわよ! だからほらっ! 朝陽くんのところへ戻りなさい!」


「その前にトイレ行く!」


「結局、トイレは行くのね」


結菜の背中を見ながらお母さんは笑っているけど…


私は…またディスられている…


結菜は可愛い。例えて言うなら甘いシナモンロールみたいな感じだ。


絶世の美女ではないけど…クラスで1、2番の立ち位置。そして本人は意識すらしていない程度の“邪悪さ”が…シナモンのようにピリッ!と香り、“甘さ”を倍増させている。


それに比べ私は…奥二重の眠そうな目のメガネっ子。まつ毛だって“アッサリ派”だ…


小六の頃…クラスでイラストを描くのが流行って…私はおっきな瞳にバシバシまつげのお姫様を描いた。

その“お姫様キャラ”を当時小二の結菜がとても気に入って…初めは私に描かせて…そのうちに私から描き方を教えてもらって…今ではしっかり『自画像』としてノートや教科書のそこここへ描いている。


ある一部の例外を除いては…



--------------------------------------------------------------------


結菜と朝陽くんの馴れ初めは…


数学の授業中、黒板に書かれた誰も解けなかった図形の証明問題を…ひとり手を挙げた朝陽くんがみんなの見てる前でカッコよく解いて…『俺の証明より美しい』と先生を感嘆させた事からだ…。


『解き終わってチョークをカタン!と置いた時…窓の外の光が朝陽くんの顔に差して、カレの瞳が輝いたの!!』


文字通り“名は体を表す”という瞬間だったようだ。


それでなくても可愛い顔立ちの朝陽くんに憧れる女子はたくさんいたらしい。

そこで結菜は私に助け船を求めた。


「おねーちゃん! 数学得意だよね!クラブ“数研”だし! 私、絶対! 朝陽くんと友達になりたくて…朝陽くんと数学の交換日記をする事になったの だから助けて!!」


この結菜のお願いは私の心の琴線に触れた。


思い起こせば同じく中学の頃…部長だった興谷(こうや)さんに憧れて“数研”に入部した私だ。


その甘酸っぱい初恋の思い出(もっともそれから今まで…男の子に恋する思いを持ち合わせていないのだけど…)と共に私のテンションは爆上がりして…

気が付けば…結菜の筆跡を真似て、数学の交換日記を代筆している。


もちろんイラストも…


この間は可愛い花柄のタンクトップを着た“姫”を描いた。


『胸はストン!とした方が“あの子”らしくて可愛いのよね…』

イラストの横に♡を書いて独り言ちっていたものだ…



そして今日初めて

実際に

朝陽くんに逢った。


思った以上に可愛い

凛々しい

素敵な子だった。


うん! 結菜には相応しいわ!


二人してリア充爆発!!ってヤツね。


窓の外はまだ薄明るいが


もう七時を回っている…


網戸から来る風はまだ蒸し暑い…


一休みしよっと!


結菜のベッドにドン!と身を投げると、顎にぶつからんばかりに“胸”が弾んだ。



ほくろかあ…


と、また独り言ちる。


ガチャン!


いきなりドアが開いて結菜が入って来た。


私はベッドに寝っ転がったまま声を掛ける。


「朝陽くんは? 晩御飯一緒するんじゃなかったっけ?」


結菜は妙にドギマギして言葉を濁す。


「えっと、朝陽くんね、なんかお腹いっぱいになったって…」


「んっ?!」


「あの、ほら! お昼たくさん食べたし…その後、お母さんがおやつだなんだって、お菓子やジュースを次々持って来てさ!」


「そうなんだ…帰ったんだ…じゃあ、部屋戻っていいかな」


「あ、おねーちゃん!もうちょっと寝てて! おねーちゃんの部屋、まだ片付けていないから」


「そのまま居ればいいじゃん! この部屋まだ暑いよ! 教科書とかも置きっぱなんだから、ついでに今日の復習もしちゃえば」


そう言うと結菜は真っ赤になって

「いいから待ってて」とドアを閉めた。



--------------------------------------------------------------------


自分の部屋に戻ってみると、朝陽くんのにおい…それが憧れの興谷さんが使っていたのと同じ“ドルガバ”のライトブルーなので気が付かない訳はないのだけど…が残っていた。


私が部屋を出る前に整えて置いたベッドが微妙に乱れていて…布団の上にはウェービーな結菜の長い髪と黒の短めの髪が何本かくっついている。


いったい何をしていたのだろう…


またいきなりガチャン!とドアが開いて結菜が顔を覗かせる。


「忘れ物?」



「えへへ…おねーちゃんは明日、塾?」


「うん、夏期講習」


「塾へ行く途中に“LAWSON”あるじゃん!」


「うん!昼パン買ったりしてる」


「ちょうど“LAWSON”の道挟んだ真向いが朝陽くんのお家なの」


「そうなんだ」


「でね、」

と結菜は背中に隠し持っていた“数学の交換日記”を私に差し出す。


「いつものように『姫ちゃん描いて』ついでに朝陽くん()のポストへ投函してくれない!」



『姫ちゃん描いて』…それは二人の間で取り交わされている“代筆”の隠語だ。


「『描く』のはいいけど…アンタが“内容”を把握していないとマズいでしょ!」


「うんそれは…」

結菜はふわあと欠伸をしながら続ける。

「昨日ドキドキして眠れなくて…今はもう夢心地…今日は晩ご飯も食べずにお風呂入って寝るから今度宿題と一緒に教えて…」


「ハイハイ…」


私はため息混じりに“数学の交換日記”を受け取った。



--------------------------------------------------------------------


さて、今日の問題は?


ノートを開いてみると



<問題>


△ABC において辺 BC の中点を M とすると、


ABの二乗+ACの二乗=2(AMの二乗+BMの二乗)

となる。


この事をグラフを用いて証明せよ。



ははあ…中線定理を座標平面で証明しろって言う事ね。

ふふ、可愛い…


答えを書いてやろうとページを持ち上げたら


ん? 次のページにも何か?…


ページをめくると…




。。。。。。



僕はあなたに夢中です。


キラキラと明るいところや…

大きな澄んだ瞳や


ごくまれに泣いた時に涙を露のように宿した長いまつげに…


そのふっくらとした桃のような頬に触れてみたい!!


あなたの…


話したり

笑ったり

ストローをくわえたり

色んなシーンで

表情の変わる

くちびるに目も心を奪われてしまいます。


もし、今日


あなたの家に呼ばれて


僕の指やくちびるがあなたに触れてしまったら

ごめんなさい。


でも!

僕の全てを許してください。


数学の交換日記をこんな事に使ってしまってごめんなさい。


だけど!

僕も驚く明晰な頭脳と

僕を焦がす愛らしさを持ち合わせているあなたに

この僕の気持ちを伝えるのは


ここしかないと思えるのです。


。。。。。。



ラブレターだ!!


どうしよう

どうしよう


自分に対してじゃないのに


どれもどこかのフレーズの切り貼りで

“厨二”に満ち溢れているのに…


気が付くと私は


ノートのページの角をクチクチといじっていた。


ズルいズルいズルい


“ここ”に居る半分は…いや!大半は私なのに!!!




胸の奥でずっしりと重くしかも熱くくすぶる何かを抱えながら私は『解答』を書いた。



--------------------------------------------------------------------


とんでもなくエッチな夢を見た!!!


私は色々と経験は乏しいけど…


TLを始め…読む物はそれなりに読み、観る物もそれなりに観ている。


体が暑くて…熱くて


タオルケットを跳ね除け

上半身を全て脱ぎ散らかした。


夏の夜更けの窓は


魔を映す鏡



私は数学の交換日記を広げた。


左のページには朝陽くんからのラブレター


そして真っ白な右のページに!!

私を!!!



私は鉛筆を取ってその芯先で自分の頬をひと撫でして…芯先にキスをした。


そして感情のままに


魔の鏡の中に浮かび上がる自分を模写していく。


髪を映す時には髪に

頬を映す時は頬に


“あなた”を感じて


唇をなぞってこぼれ出る

吐息まで映したく思う…


そして芯先が


あなたが見とれてくれた“ふくよかな山”に差し掛かると


じわりじわりと舐めるように筆を進めて

快感に打ち震えた。


そのてっぺんは


優しく優しく芯先で舐って(ねぶって)転がした。



そして…激しい鼓動と快楽の打ち震えの中…


私は“胸元のほくろ”という画竜点睛を打った。


昨日の夜に突如沸き起こった感情をエサにして書いてみました(^^;)



ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!<m(__)m>

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「台風直前の熱帯夜」、といったトコロでしょうか? (^o^;) ある意味で似た者姉妹なんですかね〜 (^_^;) [気になる点] …………到来確定な修羅場回 [一言] 【問題】幾…
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