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piano  作者: 永島大二朗
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嵐の予感(三十)

『タラララータラララー。ティタリラリラリラー。タラリラータラリラー。ティラララーティラララー』

 相沢が再現するのを、会場内は黙って聞いていた。

 Slowtimeでは録音が出来ないので、この再現が全てである。つい癖で『Slowtimeポーズ』を取っている人が多かった。


 演奏が終わっても、拍手をする者はいない。それがいつも通りだ。だからか、本日の出席者が『スタンディングオーベーション』で拍手を再現した。

 相沢が、右手を上げて挨拶をする。

「演奏終了と同時に、電気が付きました。再現を終わります」

 そこで会場から拍手が沸く。これは、再現者に向けた感謝だ。

「再現率は何パーセントですか?」

 会長が相沢に確認した。

「そうですね。五パーセント位です。とても心地よく、聴いてしまいました」

 すると参加者の脳内で『エリーゼのために』が流れ始める。

 それぞれが先ず、残りの九五パーセントを補強する作業に、取りかかったのだ。


 エリーゼのためには、会場の全員、聞いたことがある。それを相沢の再現した速度、強弱、曲想で再現するのだ。

 通常なら、再現率三十パーセント位なのだが、今日はかなり低い。A級の腕をもってしても、五%とは低い。

 マスターのエリーゼのためになら、再現率八十パーセントを誇る。省略されて『エリ八』と報告される位だった。そんな日は、只の飲み会になってしまう。


 会場は、徐々にざわめき始める。

「どういうことだ? 再現不可能だ。五パーセント? 過去最低じゃないのか?」

「俺もダメだ。五パーセントは、低すぎる」

「俺もギブアップだぁ」

 次第に会場内が騒がしくなった。各人の再現が終わった後、実際に聴いた人の所感を、聞くことになった。

「山村です。おっさんの演奏は初めて聴きましたが、やわらかなタッチで、それでいて力強く、ある時は優しく、そして語り掛けるようでした。私は、恋人に向けてというより、子供に向かって演奏しているように感じました」

「相沢です。私も山村さんと同じように感じました。花火で肩車してもらって、そのまま帰って行くような、そんな、ほのぼのとした感じがありました」

「柿沢です。私も同じように思いました。恋人ではなく、子供に話しかけるような感じ。そうですねぇ、ちょっとワッて言って脅かしたり、優しく抱きしめたり、懐かしい感じがしました」

 八人がそれぞれの所感を語った。全員が悩んだ。

 何故に恋人でなく子供なのか。ホワイトボードにも『子供に語る様』と記される。


「判った! バイトねーちゃんの親だ!」

「おぉ! それだっ! バイトねーちゃんの為に弾いたのか!」

「でも、似てねぇよなぁ」

「きっと、お母さん似なんだよ!」

 誰かの言った一言で、議論の方向性がバイトのねーちゃんの親説が有力になる。

 そこで、バイトねーちゃんと、おっさんの関係を確認すべく、検討に入った。


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