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piano  作者: 永島大二朗
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嵐の予感(十三)

「説明しましょうか?」

 祐次は真由美に声をかけた。真由美は小さく頷く。増田も、ちょっと聞いてみたいと思った。

「まず、カメラで撮影して頂いた件ですが、貴方はピアノを弾いてくれと頼まれたとき、何も考えずに弾いていませんか? 目的というものを、考えたことがありますか?」

「私の目的は、ピアノを演奏することです」

 祐次は大きく頷いて言う。

「それがこの画像です」

 まだそこに置いてあったデジカメを操作して、真由美に見せる。

「これは、貴方が、デジカメで、目的も聞かず、理由も判らず、ただ単に撮った『画像』です。これは、単なる綺麗な花であって、売り物にはなりませんし、まして『写真』という芸術でもありません」

 祐次はもう一度デジカメの画像を確認すると、真由美に見せた。

「あなたがこれを『写真』と言うのなら、私は怒りに震えることでしょう。あなたはデジカメを通して、プロとしての普段の心構えを、単なる『画像』として私に見せたんです。違いますか?」

 真由美は言葉がなかった。

「お判りになった様ですね。では、こちらへどうぞ」

 祐次はカウンターの席を立つと、奥のピアノへ向かった。真由美は後に続く。増田もカウンターから出て、ピアノの所へ行く。


 祐次はピアノの前に座った。

「貴方は、私が『エリーゼのために』を弾いてくれと言った時、何を考えていましたか?」

 真由美は答えに困った。しかし祐次が微笑んで「ん?」という感じでもう一度問いたので、答える。

「貴方より、上手く弾こうと思いました。写真で負けても、ピアノなら負けないと、思いました」

 祐次はにっこり笑って、うんうんと頷く。そして、ピアノの右手正面を軽くトントンと叩きながら、左足で一番左のシフトベダルを踏み、そのまま右足で中央のソステヌートペダルを二回踏んだ。

 祐次は何の迷いもなく、エリーゼのためにの最初の部分を弾く。ピアノは、何事もなかったように、メロディーを奏でる。

「貴方はピアノで、勝負がしたいのですか? ピアノは音楽という歌を謳う為の道具です。貴方の声です。貴方の気持ちです。ピアノは、自分の心を写す鏡です。貴方に何か伝えたいことがなければ、ピアノは単なる『騒音製造機』です。如何ですか?」

 祐次の長い質問に、真由美は答えた。

「私は素晴らしい曲を、正確に伝えたいと思っています。その為に繰り返し練習し、譜面に書かれていることを守ってきました」

「んー。貴方はまだお若い」

 真由美はちょっとムッとした。しかし祐次は、怒らせるのが上手いと思ったので、その手には乗るまいと思った。

「若いから、未熟であるとおっしゃりたいのですか?」

 真由美は祐次に言った。二年前、増田に言われたことを、祐次も思っているのか、確認したかった。

「そうですね。貴方の音楽は魂がありません。少なくとも昨日までの貴方のピアノは、そうであったに違いありません。CDとコンサートの演奏がピッタリ一致していたら、それは、どちらか一方が存在すれば良くないですか? 私だったらCDを取りますね」

 真由美はコンサートの客が、段々減ってきたのを思い出す。

 臆面もなく、キッパリと言い切る祐次に、増田は、一人ドキドキしていた。

 無論。恋ではない。


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