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piano  作者: 永島大二朗
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ディアノの行方(二)

 冬の冷たい風が吹いていた。日陰に入ると物凄く寒い。新田は佐藤と田中に指示を出すと、山田の運転で寺に来ていた。

「編集長、斉藤家の墓がこっちにもあるんですか?」

「いや違う。こっちにあるのは、山本家の墓だ」

「え、誰っすか? 山本さんって?」

 山田は手帳を見ることもなく聞き返してきた。一応今回の登場人物は押さえているらしい。そう思った新田は、山田に答える。

「斉藤の元妻で、昔事故で死んだんだ。早苗の実母だからな。もしかしたらそっちに来るかもしれん」

「おぉ、さすが編集長! いつの間に調べたんすね。で、いつ死んだんですか?」

 そう言えば山本の名前は会議では出ていなかったことに気が付いた。しかし山田はそれには触れなかった。こいつは記憶力が悪いのだ。きっと会議の内容は右から左に脳を素通りしたに違いない。

「四月一日だ。一九八六年のな」

「凄い! 命日まで調べてあるなんて、流石っす」

 新田は少しにやけたが、余り思い出したくない事柄だったので、「まぁね」とだけ答えた。山田は暢気に地図を見ながら、先にある寺を指差した。

「あそこの寺みたいですね」

「住宅地の近くに、ポツンと開発から取り残された様な所だな」

 少し田んぼの中を歩いて、山門を潜った。やがて大きな池が二人を出迎えた。山田は観光にでも来た様に、はしゃいでいた。

「あ、綺麗な池ですねぇ」

「そうだな。これは桜が咲いたら綺麗だな」

「いいですね。花見に来ますか?」

 まだ正月も来ていないのに、花見のことなんて知らない。新田は呆れた。

「馬鹿。仕事しろ仕事!」

「仕事っすよ。仕事。だって、山本夫妻の命日って、四月一日ですよね?」

 新田はそう言われてハッとした。

「お、そうだったな。親の命日なら墓参りするだろう。そこを捉えて取材だ」

「来ますかねぇ」

「いや、それは判らん」

 言い出したのは山田である。それに、来るか来ないかを俺に聞かれても困る。新田はそう思った。新田と山田の二人は池の淵を抜け、墓地へ行ってみた。手ぶらで行くのも気が引けるので、新田は店で線香を買った。その間に山田は先へ行っていた。新田が追いつくと、宝探しでもするかの様に、山田が陽気に山本家の墓を探している所だった。

「山本、山本、あ、ここか?」

 山田が見つけた山本家の墓に、新田は近付いた。

「どれどれ、いや、違うな」

「山本さんって、結構いますよね」

「こういう時は、変わった名前が良かったなぁ」

 ここには何故か山本家の墓が沢山あった。山田に毒されたのか、新田はちょっと不謹慎なことを言った。その時山田が大きな声を上げた。

「あ、山田家発見」

「お前の墓じゃねぇよ」

「まだ何も言ってませんよ」

「判ってんだよ。そういう下らないこと言ってないで探せ」

 新田は一応、山田を同名のよしみとして蹴り込んでも良いか、墓の主に訪ねた。しかし、返事はなかった。

 今日は御用納めを済ませてから来たので、もう直ぐ日が暮れる。早く探さないと面倒だ。

「あ、山本家、あそこじゃないですか?」

「お、あったか。どれどれ。山本由紀夫、亜希子四月一日没。お、あそこだな。向こうへ回ってみよう」

「はい」

 裏面の墓碑を見て目的の山本家の墓を発見した二人は、表に回ってみた。先に着いた山田が不思議そうに言った。

「あれ、花が飾ってある!」

 そこには燃え尽きた線香があり、花が飾ってあった。

「え? ホントだ。誰か来たのか? 墓碑見てみろ?」

 今見たばかりの墓碑だったが、何か見落としがあった様だ。新田は山田に指示した。山田は表から裏を覗き込み、そこに書かれている文字を読み取った。

「はい。えーっと、山本春香、七月五日没」

 それを聞いた新田は考えた。

「おい、全然関係ないじゃないか。他にいないのかよ」

「いませんね。三人だけです」

 自分で覗き込めば良いのだが、寒いので首を竦めたまま新田は山田に聞いた。

「誰だ? 婆さんか?」

「いや、若いっす。二十四歳って書いてあります」

「随分若いな。かわいそうに」

 それを聞いた新田は眉をひそめた。新田は自分の娘が二十四歳で死ぬなんて、考えたくもなかった。娘の真由美が今年の成人式で、振袖を着ていたのを思い出す。

 着物選びは、どちらかと言うと響子の方が熱心で、あれやこれやと大変だった。博は真由美が気に入れば何でも良かったので、着た物を片っ端から買っても良かった。きっとレンタルじゃなかったら、娘一人で、倉一つが潰れていたに違いない。それから四年なのか。短すぎる。博は首を横に振った。

 一命を取り留めたとは言え、ディアノこと斉藤早苗は、確か二十七歳。だったはずだ。新田は頭の中で年数を数えていた。

「でも、誰が来たんでしょうね? 花まだ新しいし。これ、今日か昨日ですよ」

 山田の声に新田は引算が判らなくなり、現実に戻った。頭の血を計算回路から思考回路に送って、考えをめぐらせる。しかし、寒さの余り、中々血は流れていかない。

「うーむ。判らんな。でも関係者であることは確かだな。まぁとりあえず線香あげようや」

 新田はポケットから手を出すと、ライターで線香に火を付けた。山田も手を出すと、ライターの火で暖を取ろうとする。

「何だお前は」

「風除けですよ。風除け」

 確かに冷たい風がライターの火を揺らしている。しかし例えライターの火が消えようとも、山田の手を温めるために、この火が使われるのは、納得が行かない様に思えた。

「点きませんね」

「もっとこっち来いよ」

「編集長! 止めて下さい!」

 山田がふざけて黄色い声を上げた。それを聞いて新田は、自分の発言を頭の中でもう一度再生した。判らないのでもう一度再生した。

「馬鹿! 火点けるぞ」

「止めてください」

 笑いながら山田が後ずさりした。線香にはもう火が点いていた。新田はそれを思わず振り上げていたが、不謹慎なので直ぐに下ろした。山田はそういう奴なのだ。

 新田はその線香を墓に供えると、手を合わせた。後ろで山田が同時に頭を下げていた。

「なんまいだぶ」

「お嬢さんどこにいるか教えてください。なんまいだー」

 二人は少し不謹慎だったが祈りを捧げた。冬の風が二人の体を冷やしたが、新田と山田は寄り添うこともなく車に戻った。冷え切った車内が温かくなるまで時間がかかる。そこで二人は、携帯電話で斉藤家の墓に行った佐藤と田中から報告を受けた。こちらと違って、向こうに花はなかった。

「お疲れさん。それじゃ良いお年を」

 新田は電話を切った。それを見て、山田は車を出発させる。

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