変身5
その日の放課後、僕はカフカの変身について話し合った以来。久しぶりとなる本部へと向かった。その足取りは軽やかでいかに楽しみにしていたかが自分自身よく分かった。何かが起こることへの高揚感と昔の僕にまた少しずつ近づいていくことの恐怖が僕を支配していた。
だが、そんなことも少し見慣れた図書室の扉を開けるとどうでもよくなってくる。不思議な感覚だ。
そんなことを考えていたせいかぼーっとしていたのだろう。目の前に薫さんが近づいていたのにも気づかなかった。一歩遅れてうわッといった僕をニヤニヤと笑いながら見つめてきた。そこで、気まずくなった僕はバッと目をそらすと急いで別のことを考えようと頭を働かせた。
やっぱ可愛んだよな。(見た目は。)黒のストレートの髪に、切れ長だけどどこか愛嬌のある瞳。マドンナとか言い始めたやつの気持ちもわかる。性格以外は!
そこまで考えると、目の前の薫さんの顔をそっと見ると、まるでゴミでも見るかのように、こちらを見ていた。
「な、なに......?」
「いや、...........なんか失礼なこと考えてない?たとえば~.........性格悪いとか。.....」
「お、思ってないよ。」
「ふ~ん。ならいいけど。」
少しばかり動揺を見せてしまったが、なんとかごまかした僕はホッと息をついた。
(エスパーか?次からは、気を付けよう。)
「そ、それで今日は何するの?」
話をそらすためもあってそう質問すると
「あ~。なんかね。探偵ごっこするらしいよ。」
予想外の答えが返ってきた。
「は?」
「いや、私も『は?』って思ったよ。海ちゃん発案なんだって。シャーロック・ホームズの気持ちをわかろうみたいなことも言ってたよ。..........たまに変なことするからなぁ~。あの人。..........だから私も具体的に何するかはよく知りませーんー!」
「つまり、鷲野先生待ちってことか。..............ってか鷲野先生は?」
「今日、委員会でちょっと遅れるって。...............本でも読む?」
「うん」
「そだな~。これなんかどう?..........どうせシャーロック・ホームズみたいな謎解きゲームをするんだしこれを機に読んでみるのもいいんじゃない?」
「まだらの紐?」
「殺人系が多いからね。ちなみにシャーロック・ホームズシリーズは5作品は読んだけど、それもおもしろかった!海ちゃんが来るまで読んでましょ。」
「うん。......そだね。」
なんかこの状況デジャブだなぁ。僕は、次はぶん殴るんだろうか?前の薫さんの見事な平手打ちを思い出した僕は思わず笑ってしまった。