出会い2
2話目です。
「西原君だよね?」
休み時間に入った途端 あの、峰川さんが僕に話しかけてきた。思わず、は?と言ってしまった僕はなにも悪くないだろう。僕みたいな陰キャに話しかけてくるなんて普通は考えられない。は?といったことは、水に流しておこう。それ以上に、クラスメートの視線が痛い。主に男子からの....。だから早く切り上げよう。心のなかでそう決意したものの。
「う、うん。そうだけど?なんかよう?」
「あのさぁ~もし、よかったらだけどさ本部に入らない?」
「えっ、嫌だ」
ギロっという効果音がするぐらい背中に男子に視線が刺さる。この状況を、峰川さんはどこまで理解しているのだろうか。
つい即答してしまったことを後悔して心の中で言い訳をする。だいたい、コミュニケーションがうまくない僕に部活なんて向いていない。それに、人とのコミュニケーションをあまりしてこなかった僕が、うまく断るなんてことが、できるわけがないじゃないか。コミュニケーションを強調しておいた。
「うん。そっか。見学だけでもって思ったんだけど、部員が私だけで廃部寸前……。西原くんだけが頼りなのに…残念だなぁ。仕方ない他を当たるか…」
「やらせていただきます!」
反射的に言ってしまった僕はもう一度言うが悪くないだろう。こんなに可愛い女子が、悲しそうにしてるんだもの。良心が少しやられただけだ。僕は彼女がニヤリと笑ったのにも気づかずにそう考えていた。
そして、━━━━本部の顧問が鷲野先生だということも忘れて
その日の放課後。早速僕は本部の部室、図書室へ来ていた。外では、桜が静かに散っている。コンコンコンとノックする。は〜いという可愛らしい声が聞こえる。カタカタという音の後ドアが開いた。
「いらっしゃい。」
「どうも、峰川さん。」
「薫でいいよ。同い年じゃん。……適当な所に座って」
「いや…呼び捨てはちょっと…」
表面上平然としていたが、心の中は、大パニックである。
いや、話したこともないのに呼び捨てとか難易度高すぎでしょ…。僕は生まれてこのかた女子を呼び捨てで呼んだことないよ!?どういう神経してんのこの子は?!
……もしかして、世の中ではこれが普通なのか。
僕の心の中のあれ具合も知らずに、峰川さん、いや薫さんは言った。
「早速だけど、凪輝くん。どんな本が好き?」
僕の心の中の状態も知らずに彼女は話しかけてきた。もうどうでもいいや。
「う〜ん、ファンタジー小説とかしか読まないね。えっと、薫さんは?」
「えっ。私?
そうだなぁ、……カフカの変身とかかな?」
なにを言ってるんだろう。というかカフカって誰。もはや暗号にしか聞こえない。またもや、僕は、生きてる世界が違うと思ってしまった。
「本部は、基本、先生が来てから読みたい本一冊を全員で読んで感想や考えを次の部活のときに発表するの。」と簡単に、教えてくれた。それっきり特に会話がなかった。
カチカチと学校で一番古そうな時計が鳴っている。僕と、薫さんの中に無言の空気が流れる。すると、チラリと時計を見た彼女が、
「ん〜、海ちゃん遅いなぁ。職員会議かな。」
ん?僕の聞き間違いだろうか。僕と薫さん以外に部員はいないと言っていた気がするが。
海ちゃんって、誰のことだ?
「あの~、海ちゃんって…誰…?」
「あれ〜、私言ってなかったっけ?うちの担任の鷲野先生は、私の従兄弟だよ。」
初耳だ。そんなことってアリか?ここの部活の顧問、僕があまり関わりたくない先生じゃないか!?……いや、言ってたわ。自己紹介のとき聞き流しすぎて忘れてた…。はぁ〜。
今日は、驚くことが多すぎてストレスがたまる一日だ。
数分すると、ドタバタガラと大きな音を立てながら、男が駆け込んできた。
「すまない…。薫。遅れた…」
「海ちゃん!遅い!」
こうして見ると絵になる二人である。ついでに言うと、怒っている薫さんも可愛い…すると、先生が不思議そうな顔をする。
「うん?西原じゃないか。こんなところに何んのようだ?…まっ、まさかおまえたち付き合って━━。」
そういった瞬間、薫さんがきれいに平手打ちをした。
「えっ…えーー!」思わず図書室だということも忘れて叫んでいた。
僕は、自分の目を生まれて初めて疑った。い、今先生を殴ったような…気のせいだよね。
というか、僕みたいな陰キャが薫さんと付き合えるなんて思ってないけどさぁ。それはなくないですか?……なんか告ってもいないのにふられたし。
━━━「なるほど。薫の巧妙な演技に騙され、西原は本部に入ることになったと…」
簡単に事情を話すと、先生はそう言った。
「演技だけど、わざとじゃない。............それに凪輝君なら断れないかなぁ~って。」
「それはさすがに西原がかわいそうだぞ?」
思わずといったように鷲野先生が薫さんの発言に秒で反応してつっこんだ。
いやいや、たしかに見た目はこんなザっ陰キャだけどさぁ。ちょっとそれは.....くる。
とりあえず、一応簡単に自己紹介しておく。
「西原凪輝です。本、あまり読まないですけど…よ、よろしくお願いします。」
僕はいったいどうなるんだろう。
すると、先生が
「じゃぁ。今回の本だが、これだぁ!.......テッテェレ......変身。」
国民的なアニメの道具を取り出すときのリズムで鷲野先生は本を取り出した。
「えっ?まさか、カフカの?」
「それ以外あるのか?」
この二人盛り上がっている空気の中で言うのもなんだが、言うしかないか。
「あの~、変身って難しそうですが......、僕でも読めますかね。」
突如、訪れた沈黙に、焦る僕は、忘れてくださいと言おうとしたとき、
「いや、お前、成績いいんだろ?余裕だよ。ただ、読んだ後に、もやもやするかもしれん。まぁ、読んでみろ。......明日、それぞれの見解を言ってもらうからな、凪輝読んどけよ。」
あれ、いつの間に、呼び捨てに変わったんだ?
僕は、妙に距離感が近い先生に戸惑うばかりだった。
読んでくださりありがとうございます。感想もよろしくお願いします。