家族~幸崎姫~1
逃げてきちゃったなぁ。
誰もいない廊下を走りながら私は冷静にそう思った。
聡いな先生。あんなこと言われたらいやでも反応しちゃうじゃん。
図書室を出る前。鷲野先生が口をひらいていった。
「姫。お前泣いたか?」
「えっ?」
驚いて本を整理していた手を止めて先生のほうを見た。先生がその辺に置いてあった本をペラペラと適当にめくりながら話し続けた。
「涙目だし、涙の痕がある。」
「泣いてないですよ。...........大丈夫。」
ドンっという音を立てて鷲野先生が図書室の机をたたいた。
「大丈夫じゃない!!そういったやつが一番大丈夫じゃないんだ。もう俺は」
ビクっと肩を揺らす私を見て先生はハッとした様子でいった。
「わるい。でもお前自分の顔色を知ってて大丈夫って言ってるのか?」
わかっているどこか体の調子が悪いこと。
だから気まずくなって先生の視線から外れようと目線をそらした。冷や汗をかく。じとっとした嫌な感じの汗だった。ばれた焦りだろうか。それともなんだろう。
沈黙が続く。先生も私もどう話を持っていったらいいのかわからないのだ。そこへ
「あれ~。姫ちゃん。」
嫌な空気感に気が付いていないのか薫ちゃんが入ってきた。そしたら私。そこで何か衝動的な何かに襲われ逃げ出してしまった。先生が心配してくれていることを知っている。
でもこれは自分が弱いからなのだ。
嫌だなぁ。お兄ちゃんの言う通り、のろくてはっきりしない自分が嫌いだ。