突然の異変1
思っていたよりも、探偵ゲームが盛り上がり、連日多くの一年生が顔を見せるようになった。そのことに薫さんは喜んでいるが、鷲野先生は対照的に、疲弊していた。たぶん、薫さんの数多くの無茶ぶりにこたえてきたせいだろう。
今日は一年生たちに、愛想を振りまいた後、図書室の机に突っ伏していた。
「せっ先生。大丈夫ですか?」
いつも、鷲野先生をからかってばかりの幸崎さんが珍しく心配している。
「大丈夫にみえるか??ただでさえブラックな職業なのに薫のやつ。こき使いやがって。」
「先生。いつものホ、いやイケメンの笑みはどこにいったんですか?」
ホストと言いそうになった。危ない危ない。
「どこにも行っていない...........あああ、この後は職員会議だし、俺なんで教師なんかになったんだろう。」
「あれ~、前にかっこよく、ディステニー(運命)なんて言ってなかったっけ???」
本の整理をしていた薫さんが本を棚に直しながら言った。
「そんなこと言ってたかぁ??.......まぁ、ともかく。お疲れ。体験入部は以上。」
「あとは、何人入部するかですね。」
「6人は来てほしいかな~。」
「いやぁ、あんなにたくさん来たんだよ?来るでしょ。」
幸崎さんがそういった。それから、それぞれ本の整理をしている。鷲野先生はというと、休憩するかのように、その様子を眺めていた。
「姫。お前顔色悪くないか???」
鷲野先生が唐突にそう言った。確かに少し顔色が悪く見える。うっすらと青い。
「ほんとだ。姫ちゃん、大丈夫???」
「っ、、えっ、そんなに顔色悪いかな。」
「保健室に行ったほうがいいんじゃない。薫さん付き添いに」
「大丈夫だから。西原君。.............大事を取って今日は帰るね。先生。さようなら。」
そういって、幸崎さんは荷物をまとめて、図書室を後にした。その後ろ姿が何かを背負っているように見えた僕は、自分を見ているようだと思った。
次の日、教室に入るとそこには、先客がいた。
一番乗りだと思っていたんだけど。
その先客は幸崎さんだった。僕に気づいていないのか、こちらを見ようとはせず、窓の外をぼーっと、見つめていた。窓の外に何かあるのかと思い、窓の外を見るが、そこには中庭に生える大きな木の幹しか見えなかった。
何を見ているんだろう?
「幸崎さん。おはよう。」
驚かせないようにそっと、声をかける。
「あぁ。西原君。おはよう。」
「もう、体調は大丈夫?」
「...うん。もう平気。」
少し、泣きそうな声な気がした。けれど平気だって言っているということは、誰にも触れてほしくないんだって、僕はわかっていたからこそ、なんて言ってあげればいいかわからなかった。
ただ、幸崎さんを追い込んでいる何かが、解決することを強く願った。