トラブル発生
ご覧ください。と幸崎さんが言ったら、動画が流される予定だったのだが、流れず、一年生も僕たちも混乱していた。
小声で薫さんが話しかけてきた。
「どうなってるの。」
「たぶん、トラブル発生だね。再生できなくなったとかかな。」
「よし、わかった。ここで動画の内容をできるだけ再現するしかないね。」
「えっ!あれやるの......。」
僕は黒歴史とかした出来事を思い出しながら、返した。黒歴史だけでなく思い出すだけで恥ずかしくなるものに仕上がっているからだ。
「申し訳ありません。うまく再生できないようなので、ショートコント的なやつしたいと思います。」
薫さんは僕らの了承を取ることなく、勝手に話を進めていく。
「ちょ、薫さん!」
「凪輝君。これしかないでしょ。舞台袖に行くよ。........姫ちゃん。ナレーションお願い。」
「りょーかーい。熱々でお願いね。二人とも。」
そういった幸崎さんはマイクを手にいった。
「お待たせいたしました。では、『本部に入るといいこと』です。内容に関しましてはフィクションとなっておりますのでそのあたりも考慮していただけると助かります。ではどうぞお楽しみください。」
「凪輝君。おそいなぁ。用があるって言ったのに、なにしてるんだろう?」
と演技っぽすぎる声で薫さんが言った。
次は僕の番だ。ワックスで長い前髪を整えた僕は舞台袖から駆け足で薫さんのところまで行く。その瞬間、なぜか一年生たちのほうからキャーっという悲鳴?が聞こえたが、薫さんが気にするなという顔をしてこちらを見ていたのもあって気にしないことにする。
「薫さん。ごめん。委員会が長引いて。」
「委員会なら仕方ないよ。......で、用事って?」
「いや、その」
この時が一番緊張する。演技でも緊張はしてしまうものなのだ。
「しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思うと 人の問うまで。」
「解説入りまーす。
コホン。隠していた恋心が顔色にまで出てしまったのだろう。恋で悩んでいるのかと人に言われるまでになってしまった。です。では続きをどうぞ。」
と幸崎さんが解説してくれる。
「百人一首だね。本部で鷲野先生が解説してくれたよね。...........ん?私のこと、その.......好きってことでいいんだよね?」
「はい。付き合ってください。薫さん。」
台本に書いてあった通り低音ボイスでそういうと、また悲鳴が聞こえる。なぜだかよくわからないけれど、なんとか終えることができたことにホッとした。
体育館の裏では、鷲野先生が待っていて、「何とか乗り切ったな。」と声をかけてくれた。
そして僕が恐る恐る聞いた。
「でも、先生。一年生たち悲鳴が上がってましたよ?何かあったんですか?」
「ん?お前がイケメンだったからだろ?」
「は?」
「えっ?!凪輝くん自覚なかったの。」
「私なんて、鼻血でそうだったよ?」
と幸崎さんと薫さんも言うのだった。