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きょうだい児の世界

作者: ぱるち

 私は兄の妹としてこの世に生を受けた。兄はうまくしゃべる事ができず、更に音に敏感で外で遊ぶ子供達の声を耳を塞ぎながら耐える。兄は優しくて、いつも私の遊びに付き合ってくれたり、「〇〇ー」と私の事を呼んでおんぶをしたりしてくれた。


 しかし、ある時を境に兄は突然物を投げたり壊したりする様になった。私の大切な幼馴染がくれた貯金箱もこの時に壊れてしまった。


泣きながら物を投げて、壊して。母も突然の出来事に驚きその場に固まっていた。私は必死に「お兄ちゃん」と呼びかけたが、効果はなく、しばらくして母が兄を抱きしめて収まった。


 そんな事が続き、それでも尚、兄が大好きな私は兄の事を「お兄ちゃん」と呼んでいた。しかし母はこの時から兄をすごく気にかける様になった。父があまり帰って来なかった為、母が兄の方に行ってしまうと私は一人きりになった。でも。兄には母が必要だから。大丈夫。私は一人でも大丈夫。そう言い続けた。夜な夜ななく母も、泣きながら物を壊しなにかを訴える兄も見てきたからこそ、わがままは言えなかった。


母の声が兄に対しては優しくなった。

私に対しては厳しくなった。当たり前なんだって。

周りの人は兄に優しく接する様になった。

わたしには憐れみの目を向ける様になった。

父は兄をよく抱きしめた。

私は頭を撫でられるだけだった。

兄は物をなんでも買ってもらえる様になった。

私は…我慢をする事が多くなった。


 父も母も目が離せない兄と私を同じ様に大好きでいてくれていたと思う。仕事と家庭の両立に疲れていた。そう今なら思うが当時の私にとってはとても辛かった。親に甘えたいと思っても甘えられない。欲しいものがあっても兄を刺激する様なものは母を困らせてしまうからダメ。


学校でもどこでもいい子。学校ではそれを面白くないと思った子達から“先生ぶりっ子”と言うあだ名をつけられた。だけどそんな事はどうでもよかった。母に単に褒めて欲しかった。でも。兄ができない分私ができるのが当たり前と言う認識からか私は褒めて貰う事は滅多に無くなった。


しかし。


そんな私を救ってくれたのは兄だった。


私の前にその子達を遮るように立ってくれた。


私の話を黙って聴いてくれた。(そもそも話をあまりする事ができないがそう言うことではなく。)


私の事を「〇〇」と昔みたいに呼び頭を撫でてくれた。


それが私にとってどうしようもなく嬉しかった。


世間が兄を「障がい者」と評価する。


でも私にとって兄は世界で一人だけの大切な「兄」であって、ただ上手く言葉を話せないしうまく表現できない不器用な人。優しい心の持ち主。


「お兄ちゃん」


そう呼ぶと兄は私の目を見て言葉を待ってくれる。

「大好きだよ」と言うと嬉しそうにニコッと笑う。


「普通」って何?


兄は出来ない事が多いのかもしれない。一人で生きていくのは難しいのかも。


だけど、私だって一緒。


巧く絵を描く事ができない。(美術だけ万年成績2)


母だって縄跳びで二重跳びを跳ぶ事ができない。


父はお酒に弱くてお酒を飲む事ができない。音痴で歌を上手く歌う事ができない。



何かしら出来ない事はみんなある。


兄はただそれが多いだけ。


兄は私よりも絵を描くのがずっと上手。


兄は話せなくたってそれを伝える事ができる。


兄は私よりも泣き虫でよく泣くが、その分よく笑う。


みんなが「障がい者」と指をさすその人は私を救ってくれた大好きな兄。


確かに私の家では兄が中心に回っている。

行きたい旅行が急にキャンセルなんてザラにあり、友達ともゆっくり遊ぶ事ができない。

親がいなくなったら私が兄の面倒を見なければいけない。毎日あの怒鳴り声と大きな物音に耐えなければならない。だけどこんな兄弟の悪口みたいな事言うのも気が引けるし軽々しく相談もできない。兄のためにいい人でありたいと思う。友達の兄弟の仲がいい人の話を聞いて羨ましいと思う。私達なんて…喧嘩すら…


嫌だなんて兄に対して思っていいの?

いなくなれば……っそんな事考えるのはいい妹いい人じゃない。ごめんなさい。


そう思いながら毎日毎日。でも受け入れるしか無い。たまたま兄が投げたものが当たって大きなあざができても笑顔笑顔でその場からさって静かに待つ。小さな変化にも気づいてしまい、声音で兄に対する声と私に対する声が違うことに気がついてしまう。視線でなんとなくわかってしまう。


私はそう考えてなんでも我慢して受け入れて乗り越えた。


きょうだい児は、できない事が多い兄弟の事を嫌いではない。大好き…いや、大好きでありたいと思うし実際大切に思っている。けれどそれでも。限界はどこかで来てしまう。嫌だと思う心がある事を否めない。必死に必死にその心に蓋をして心の奥底に厳重に仕舞い込む。その感情は「悪い」感情だから。


 もしあなたの周りにそう言う子がいるのなら、寄り添うんじゃなくて、兄弟の事を受け入れてあげてください。


そしてできれば


「大好きだよ」って言ってあげてください。

できれば喧嘩もしてあげてください。

抱きしめてあげて下さい。


話を聞いてあげてください。




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