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第32話

「じゃあ、例の件について報告してくれる?」


 早朝の白い日差しが窓から差しこんでいる。


 ほとんどの生徒が登校していない時間。教師すら、まだ職員室に現れていない者もいる。

 こんな朝早くに部活動以外で学校にいる生徒は、この部屋にいる二人だけだった。


「はい」


 自分に向けられた声に、女子生徒は機械的に答えた。

 鞄から几帳面にまとめられた資料を取り出し、眺めながら続けた。


「問題の生徒に関して、こちらで情報収集を行いました。以前の彼は、成績優秀ですが体育は苦手。交友関係は男女問わず問題なく、品行方正な生徒という印象です。彼のファンクラブまで秘密裏に作られ、一部の生徒から熱烈な想いを向けられていたようですが、特に大きな問題は起きていません。これといったトラブルもない、極めて無害な生徒でした」

「うんうん。それで、最近は?」


 続きを促す唇はリップクリームの艶が怪しく光り、どこか楽し気な笑みが浮かんでいた。


 その生徒は部屋の一番奥に腰かけ、部屋を見渡せる専用の机に頬杖をつき、女子生徒を見ていた。


 女子生徒の前には二つの長机が向かい合って並んでおり、前の二つと右隣りに置かれた椅子は空席となっている。それはこの場にいないメンバーの指定席であり、今のように当人がいない状況でも勝手に座る者はいない。


 現に話を進める二人も自分の席に座っており、あえて近づこうともせず、微妙な距離を保っていた。


 女子生徒は無表情で続けた。


「はい、最近は彼への苦情が寄せられています。学校の備品の紛失や破壊による授業の中断。例の水谷事件から、素行の悪いクラスメイト三人とよくいっしょに行動しており、その威圧感を怖がる生徒もいます。彼自身の成績も下がっているみたいですし、アニマ後の性格変化の可能性が疑われます」


 話を終えると、女子生徒は持っていた資料を渡した。


「そっか。アニマ前はかわいい顔してるのに、残念」

「今や、校内はもちろんこの町で彼を知らない者はいません。彼を倒して名を上げようと画策する者や、近隣の中学生には英雄視している子も多いと聞きます。早急に対処しないと、その存在が取り返しのつかない事態を招く危険があります」


 女子生徒の声に力がこめられた。


「物騒ねぇ。ちょっと大げさじゃない?」

「いいえ。というか、あなたも無視できないと思ったから、私に調べるように言ったんじゃないんですか? こういう問題を解決するのが、私たち生徒会の仕事でしょう? しっかりしてください会長」


 女子生徒に説教をくらい、会長と呼ばれた生徒は笑いながら「はいはい」と席を立った。 


「じゃ、さっそく準備をしましょうか。考えはあるんでしょう、副会長?」

「ええ。もちろんです」


 女子生徒は得意げに微笑んだ。


「……さて。試させてもらうわよ、早乙女あゆむくん」


 艶やかな唇が、不敵に笑った。


 登校してくる生徒が増え、学校ににぎやかな一日が訪れたが、二人が生徒会室にいたことを知る者はだれもいなかった。

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