06-02 魔物たち
06-02 魔物たち 『ヒミツキチ』の屋上 暮れてゆく空の下 黄昏の空の下。
「と、言うわけでコヨミちゃんは、勇者になってしまうための旅をつづけるのでしたー、まる♪」
ルラが、旅を始めた時の言葉を繰り返す。
あの時はピクニックで、今夜のこれは臨海学校のキャンプみたい。
これがホントに夏休みだったら、随分と充足しているなとは思う。
「ルラ、魔王って何なのかな?」
「魔王は、
あの子の、ただの自称だよ」
「自称、魔王?」
「うん、そうだよ、
そして、僕達の、ただの友達。
ついでで、魔物の全ての王様で、魔法の出来たモノの絶対支配者で、魔法の王でしかない子なんだよ」
「それ、前後逆じゃないのかな?」
「あの子のお願いだしねー」
あの子いったいなにお願いしたんだろ?
「じゃあ、魔法って、何?」
「魔法は、魔法だよ、コヨミちゃん」
「それだけ?」
「? そだよ?」
? ルラに疑問符? ちゃんと伝わってないのかな?
「うーん、じゃあ、魔術って何?」
「魔術は『魔法模造科学技術』の略だよコヨミちゃん」
「うん?」
うん、急に、話が、ぶっ飛んだ。
「うん
『魔法模造科学技術』
人が、いつか出来たかもしれない科学技術到達点を、魔法で、この世界でも問題なくした、見た目は魔法みたいな、物理現象だよ。
発達した科学は魔法と見分けがつかないって、クラークさんは少年に大志を抱くように言ったけど、魔法がある世界では科学は進めようがなくなるんよ、十分に発達した科学の、その先の先の、まだ向こうの向こうまで、魔法で創造できちゃうから。
でも、そんなもんなんか現実だと意味ないから、科学の到達点の直前までを、3分クッキングみたく『出来たものこちらになります』を教材として、分解・解析・解剖やらなリバースエンジニアリングとかしでかして、ここまでは科学でガンバれるよってなのを模造・創造・幻想したのが『魔法模造科学技術』」
「うーん、ファンタジーなんだか、SFなんだか、それとも何かのパラドクス?」
「すこしふしぎ?」
「すっごい不可思議」
「で、今の世界で流行ってる4っつが、
天使さんの、光のキセキと
妖精さんの、闇の力と
それと、怪物さんと異種族さん達」
「それも魔術なんだ」
ってことは、この世界は魔術まみれで出来てるのかな?
「光のキセキは、今もこの星の衛星軌道上で回って光ってる輪っかな量子演算機が見た目わかりやすいかな。
エフェクトで光ったりする、天使さん端末の頭の上のとか、その輪っかの範囲内の各地モニュメントさん光量子演算機群とか、精神点・生命点・魔道点・運命点なナノマシンより小っさいのとかのリンクシステムで、神様や魂やあの世の模造品をしたりしてる、いわゆる光の魔法っぽいこと。
天使さんは入力デバイス」
「マナ・マシンとかのSF魔法だね」
これはどっかのラノベ小説やゲームとかであったような。
「闇の力は、ダークマターやダークエネルギーで構成された、この太陽系より大きな一つの機械で、ニュートリノやら重力子干渉で、闇の魔法っぽいバックアップデータからの復元みたいな時間操作こともついででやってる。
太陽破壊兵器や、光速ブラックホール直撃とか、近距離の超新星爆発とかの、対処がメインだけど。
妖精さんは入力アイコン」
「これもSF魔法かな?」
ファウンデーションなハードSF小説にあったかな?
「怪物さんは『怪異型人類社会補填機構物資』の略で、働いたり、食べられたり、ダンジョン作ったりしてる」
「…物資って? 食料だったり重機だったりするから、あーそういった意味で、戦略的な物資になるんだね」
略しかたが雑になってるけど、物は大事だ、物は。
「異種族さんは『異常環境下人類種保護機能付き生体人型機・各種族属性在り』で、あっちこっちで大冒険してるよ」
略が、また更に適当になった。
「なんで、そんなに、ツッコミどころ満載にする必要あるのかな?
略称と実際やってること、逆じゃない?」
「この略称も、ダジャレ大好き小学生な、あの子のお願いかもかも?
業界や学会の流行りだし、トレンドで学生泣かせ?
オリジナルは大切に、リスペクト大胆にって
とか?」
あの子、ホントに、なにお願いしたんだ?
「でも、なんで、こういったことを、お父さんや大人の人達は、自分達に教えてくれなかったのかな?」
「コヨミちゃん勉強スキスキ、予習スキ、復習するは我にあり?
コヨミちゃんは、まだ10歳だし冒険者の義務教育に入ってから、そのうち、もれなく、教えて貰っちゃたかもかもだけど。
または圧縮記憶が展開されたときに、何故か知ってる? てな状況になるかもかも」
「そうなの?
まあ、子どもに変な…ホントウに、こんな変なこと教える事もないかも…。
あっ、でも、ルラのよく言ってる『冒険者の義務教育』にも何か仕込んでるよね?
ルラ『冒険者の義務教育』って、何を教育してるの?」
「基本、おーじぇぃてぃーな、現場教育で環境教育の生存教育ま義務教育だよ」
と、
「…コヨミチャン、…マダマダ勉強ナノツヅクデス?」
屋上キャンプ準備中のヲリヱが呼びに来た。
小竜キヲンを首に巻いて、キャンパー妖精ヰるかなヱを頭にのせて。
「先に、食べてて良いよって言ったよ自分」
「ミンナデ一緒ナノデスネ」
「うん。
うーん
うーーん、
うん、
ヲリヱ、もうちょっとご飯待っててね」
「ハイ、ナノデス」
「ルラ、続けて、お願い」
「あいあい」
…
……
………
陽が傾いて、逢魔が時の『ヒミツキチ』の屋上で、
黄昏時の学習塾もどきな教室を続けていく。
幼い子の影法師が、オレンジの光の中で行ったり来たり、
そして、キャンプ準備が終わった子達から
自分に何故か集まってきたので…。
「『生きて帰るのが大冒険、失敗することあるかれど、生きて帰れば大成功。
生きてるだけで大冒険、レベルもスキルも無制限、限界ギリギリ大挑戦。
生きてることは大冒険、いつでもどこでも大冒険、あなたも私も大冒険』」
以前聞かされた、
その冒険者の心得を、
みんなで大きな声で読み上げる。
割と、自分好きだったりする、この心得。
「ついでにコヨミちゃんは『冒険者三原則』言ってねプリーズ」
「えっと、
冒険者三原則
第1条:全ての冒険者は、人としてあらねばならない。
第2条:全ての冒険者は、冒険をしなければならない。
第3条:第1条、第2条に反しない限り、生きて帰らなければならない。
って、
ルラ、この日本語の訳ちゃんと合ってるのよね?
これって、これロボット三原則のもじりだよね?
で、
冒険者の第ゼロ法則
初期前提:この原則は、この世界の、全て冒険者に適応される。
例外前提:この原則は、よって、異世界の冒険者には適用されえない。
追加前提:この原則は、この世界にいる冒険者に全てに逐次適用されうる。
って、
とこも好きだけど、自分ね」
…冒険者は生きて帰らくちゃいけないんだから。
「ちゃんと合ってるよコヨミちゃん、
で、
冒険者の義務教育
そのモットーな指針で目標の心得を可能にするための、ただの手段は、
人として出会い愛し別れ傷つき、そして愛すること、
異境踏破と辺境開拓と逆境サバイバルレベルの向上と、
恒星間宇宙飛行士と惑星開拓者と社会創造者スキルの取得だよ」
「…うん
…なにかとてつもなくすっごい高度なことが義務教育なんだねルラ」
「それはね、
どんな世界だろうとも、生きる義務を果たすための教育だし、
人類最後の一人となっても、生存する為必要な手段なだけだし、
世界で独りぼっちになった子を、探して出し助けるための準備だし、
そして、
ときどき滅んで『おしまい』になっちゃう、この世界の冒険者なんだし」
「うーん、
それは割と納得かな?」
「やっぱ現場の現実的教育だけど、冒険者の店でも色々お勉強のお手伝いしてくれるんよ。
で、そんな冒険者の店の登録表彰は『全国組織 私立非営利財団法人 冒険者の店』で、代表理事は天使さん、最大出資者は、あの子だったりするんよ」
「だから、なんで、そうなのかなー」
天使さんが、どこのどの店に行っても居てるわけは解ったけど。
「…あっ、ついでに思い出した。
ルラ、前に端折った冒険者の店の7つのメインクエスト。
『探検』と『人助け』クエストの他になにがあるの?」
「冒険者のお店の、常駐の7つのメインクエストはね、優先順に説明するとね。 あっ、ついでに、みんなもクエスト進めててね、お願いっし。
で、
第1クエストの『勇者クエスト』は、勇者支援だから、みんなでコヨミちゃん支援してね、お願いっします」
みんなが、元気に、それそれ了解の返事をする。
なんでかなー。
「第2は『探検クエスト』で、人類の可能性の探求と人類可住領域の調査検査。がんばって冒険しよしよ。
第3は『人助けクエスト』で、人類救済方法の確立。で、それに大量破壊兵器とかの発見・解体・無力化も含むから、お願いいっしますます」
そんなの自分達は受けてたの?
「第4は『魔術クエスト』 この世界にある途中経過無視した魔法模倣模造技術の解析・開発。なんでそーなったのかよく解かんないのがやたらめったらに多いから、頭の良い子にーお願い。
第5は『魔物クエスト』 なんかしらないけどある魔法できた物の特定・維持・確保。異世界や転生者な子みたいなの発見もこっちに含まれてるよ~。
第6は『魔法クエスト』 魔法、あるいは、それに類する奇跡・運命・無限・永遠の、発見または確立。それっぽいの山ほどあるから間違わないように気を付けてね、ね」
うーん、なんか今の自分では違いがわからないかも…。
「最後は『神さまクエスト』で、神さま・魂・あの世って異世界を、この世界で見つけだすこと。これはこの世界のホントの神さま・魂・異世界じゃないとダメだよー」
ホントのって、第5クエストと被ってないのかな?
「で、見つけたり、ピンときたら、最寄りの冒険者の店か、天使さん、妖精さんや、僕とかとかにお知らせしてね、お願い、お願い。
で、
コヨミちゃん」
「なに?
ルラ?」
「緊急一般クエスト発令な、はつれー♪」
「だから、なあに?」
「僕おなかすいたー♪」
これは、承認するしかないかな。
急いでみんなで今日のごはんの準備、
今夜はバーベキューかカレーライスかな?
続きは今夜の天体観測の後に出来たらいいけれど、
でお聞かなくちゃならない聞きそびれた言葉を一つだけ。
「ルラ、最後に一つだけ良い」
「良いよー。
なになに、ころんぼさん? ふるはたさん?
あっ、今日、僕の言ってたことちゃんとわかっちゃったかなかなコヨミちゃん?」
「なに言ってるか全然不明なとこあるけど、アニメやゲームの設定資料を読んだみたくはね、疑問や難問の宿題が沢山増えてワクワクたけど」
「それは良かった。
で、コヨミちゃんの聞きたいことって?」
「魔物って、何なのかな?」
ルラは
自分達のこと、
魔物と、言葉にしたから。
「魔物は『魔法で出来た物』だよ、コヨミちゃん」
「端的すぎて、よく解からないよルラ」
「あっ、思いついた。
命名。
魔物は
魔王の、だけの物
『魔王が、人の願いを叶えるための物』
その略」
「ほんと、よく解からなくなったかな、ルラ」
そして、こんな友達の魔物たちとともに、星の夜を迎えます。